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読者レビュー

銅

Fate/Zero

『Fate/zero』の魅力

レビュアー:USB農民 Adept

『Fate/Zero』はまるで神話の物語のようで、私にとって、とても魅力的だ。

 神話には親殺しのエピソードが多い。有名なところで、心理学用語の語原として有名なオイディプスや、ギリシア神話の神々を統べるゼウスなど。彼らの物語には、特に重要なエピソードとして親殺しが語られる。

『Fate/Zero』における衛宮切嗣の物語は、実の姉同然に慕っていた少女が吸血鬼化した際に、彼女を殺すことに躊躇するところから始まっている。そしてその躊躇いが、より大きな悲劇を生み出すことになると彼は知ることになる。
 それより先、切嗣は誰かを殺して誰かを救う術を身につけていく。
 果たすことのできなかった、最初の悲劇に対する償いであるかのように。
 血のつながった父親を殺し、
 実の母親のように愛した女性を殺す。

 神話では、例えばゼウスは、父であるクロノスを殺し、兄弟たちとともに世界の支配権を手中に収めた。父殺しによって世界の変革を行ったのだ。実に神話的なスケールだ。

 衛宮切嗣が望むのも世界の変革だ。争いのない恒久的平和。その願望を胸に抱き、聖杯を求め戦い続ける。
 神話のような物語を紡ぐために。
 姉を、父を、母を殺した過去を、無駄にしないために。
 だが、その戦いは、彼が思い描いた物語を紡ぐことなく終わりを迎える。

『Fate/Zero』はまるで神話の物語のようで、私にとって、とても魅力的だ。
 けれど同時に、神話のような物語を強く否定しているようでもある。
 理想や物語の輝きを熱く説きながら、真逆の冷たさでそれを否定していくような物語。
 その間で翻弄される人々と、それでも戦い続けようとする意志こそが、『Fate/Zero』の本当の魅力かもしれないと思う。

2012.01.17

のぞみ
とても深いところで『Fate/zero』を考えているのがわかりますわ! 『Fate/zero』は様々な神話と深い繋がりがあるように私も感じます。
さやわか
『Fate/Zero』を神話にたとえるというのは、うまいと思います。というか、『Fate』や奈須きのこ作品のような完成された物語大系に神話の構造を見出すというのは実に批評的なやり方ですね。
のぞみ
ここまで関連付けて考えられるのは素敵ですわね! 『Fate/zero』と神話への愛を感じました!
さやわか
ただ、このレビューではボリュームのせいもあり、神話と『Fate/Zero』を具体的なエピソードを絡めて語るのにはあっさりしすぎたきらいがあるようにも思います。結果的にはゼウスとクロノスの父殺しのエピソードと『Fate/Zero』の類似性を語っただけのようになってしまっている。そうすると「別に神話にたとえなくても、そういう話ってほかにもいっぱいあるんじゃない?」みたいな意見を許してしまうんですよ。この長さでこのテーマを書こうとしたこと自体が評価に値することなので、もっと長大にすべきだったというわけではないです。『Fate』に神話を見るというアイデア自体はとても面白いので、何とも惜しい気持ちでした。ここでは「銅」にしておきましょう。さてさて! 以上をもちまして、さやわかの星海社レビュアー騎士団、第二場はおしまいです。いやあ、今回もなにげに第一場の順位があっさり変動しております。
のぞみ
そして! 次回の投稿締め切りは2012年1月22日です! ただし! 次回は今回と違って、取り上げるテーマに制限はありません。
さやわか
上位の投稿者だからと言って油断のできない展開です! 初めての人もぜひぜひ投稿してみてくだされ! レビュアー騎士団は、どんなレビュー投稿でも掲載する用意があるぞ! それでは、第二場はこれにて幕である! どどん!

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