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読者レビュー

銅

Fate/Zero

小さな愛蔵版として『Fate/Zero』を楽しむ

レビュアー:USB農民 Adept

『Fate/Zero』の口絵はすべてカラーで、素晴らしい。
 物語上、夜の風景が多く描かれているが、それらは光も色も実に多種多様だ。静かな夜。厳かな夜。悪夢めいた夜。ひとつひとつが異なる夜の姿を描き出している。(特に一巻ACT.2扉ページの左側の色。最初はインクが滲んでるようにしか見えなくて、これ流石に印刷ミスなんじゃないかと思ったが、じっと見ていると、木々の向こうに浮かぶ月明かりが、その木々を煌々と照らしている故の微妙な色加減なのだとわかる。絶妙)
 文庫とは思えない程の出来映えだ。

 それともう一つ、イラストの重要な効果がある。
 この小説の口絵は、ほぼすべて風景が占めている。キャラクター小説において、口絵でキャラクターが描かれないのはとても珍しいし、口絵が一切ないキャラクター小説とも『Fate/Zero』は異なっている。
 物語をすべて読み終えてからもう一度、すべての口絵を見てほしい。その風景がどんな場所であり、どんなドラマがそこにあったのか、明瞭に脳裏に浮かび上がってこないだろうか。十二日間の戦いのすべてが、口絵を眺め直すだけで確認できる。こういう小説の楽しみ方ができるのは『Fate/Zero』ならではだし、それを支えているのはカラー口絵に込められた言葉なき説得力と存在感だ。
 
 読み終えてからしばらく後、時折本棚から取り出して、何枚かの口絵を眺める。
 かつて体験した物語の余韻を思い出すために。

 そんな楽しみ方ができるのも、この小説が「愛蔵版」であるからこそだろう。

2012.01.17

さやわか
口絵にキャラクターがいないことを肯定的に語ろうとしています。たしかな文章力の支えもあって、なかなか説得力がある。序盤の、一巻のイラストに言及する具体性もいいですな。「銅」として評価したいと思います。しかし、ラストの「愛蔵版」であるからこそだろう、という部分でちょっと詰まってしまった。この文章の中に、愛蔵版とは何かとか、『Fate/Zero』こそ愛蔵版と呼べるみたいな議論はありませんでしたな。「文庫とは思えない程の出来映えだ」というくらいでしょうか。それは「豪華版」と言い換えてもいい。「小さな愛蔵版」というのは星海社文庫のキャッチフレーズですが、キャッチフレーズをキャッチフレーズのままで使ったことで、レビューとしては曖昧な着地点にふわっと納めたという印象を与えてませんでしょうか。惜しい!

本文はここまでです。