奈須きのこ『空の境界 未来福音』
ぜったいに、忘れてやったりなんて、しないんだから。
レビュアー:ユキムラ
昨年、某深夜アニメで知ったギモーヴというお菓子。
実在するお菓子なのか、作品オリジナルの創作菓子なのか。
正直、ネット検索するまでは半信半疑であっちこっちーしてた。
そして先日、初めてそのギモーヴなるお菓子を食する機会に恵まれた。
あるキャラクターがキスに比喩した感触を堪能。
この甘い口づけは、『空の境界 未来福音』へ手向ける私の感覚に似ている。
星海社文庫から発売されるまで、『未来福音』の存在にもまた、私は疑いを持っていた。
インターネット上では人口に膾炙されているし、ネタバレだって盛大に漂っていた。
けどそんなの、私は知らない。
一般の商業ルートには乗っていないし、手元にも無い。
現物どころか、それを持ってる人だって目にしたことだって無かったのだ。
自身の認識する視野が世界のすべてなどと思い上がってはいないけれど、それでも、ちょっぴり実在を疑っていた。
誰かが私を担ごうとしてるんじゃないか、って。そんな意味不明なことを考えていた。
だからこそ、手にしたときの想いは、端的に表現しがたい。
私の勘違いや妄想じゃなしに、ちゃんと此処に在るのだと……本を手にした時点で、軽く感動してしまった。
そして読み始める。
ほんわかした味が口内だけでなく胸いっぱいに広がってゆく。
黒桐はやっぱり女の子をタラシこんでるし、式は相変わらず漢前だ。
私の知らない『空の境界』は、けれど、私の知っている『空の境界』と同じ成分を含有している。
されど、そこには覚えの無いスパイスも、ちょっぴり含まれていて。
それは織だ。
今まで私が知っていた『空の境界』は、誰かに織を語らせることはあっても、織に自らを語らせることを良しとはしなかった。
それが解禁された訳だ。
否、厳密には解禁という言葉は不似合いやもしれぬ。
これは、きっと最初で最後のマボロシだ。
織という存在そのものが、確かに其処に在った幻であることの証明のように。
幻に触れることは叶わない。
それを体現するかの如く、式も黒桐も、もう二度と、織と触れ合うことは叶わない。
けれど織は確かにそこにいた。
式も黒桐もそれを覚えているし、私もちゃんと覚えてる。
ずっとずっと忘れない。
他の誰が忘れても、私は織を忘れない。
黒桐と出かけてひどく楽しんでいたシーンも、死を予知されてなお自分の役目を見据えていた姿も。
そうだ、『未来福音』を読み終わったら、久しぶりに『空の境界』を読んでみよう。
文字を追っていても、織が生き返るわけではないけれど。
それでも、ほんの少しだけでも、織の思い出に触れられる気がするから。
この冬がやがて終わって、春が来て桜が舞って、夏が来て海が輝いて、秋が来て紅葉が栄えて、また冬が来て六花が宙を舞って。
年を経るごとに、織のことをみんな忘れてしまうだろうけれど。
――――――私は忘れないよ。
織が生きてそして死んだ、その苦悩の価値。
それは、今でも私の心の中で甘やかな痛みを保っているから。
実在するお菓子なのか、作品オリジナルの創作菓子なのか。
正直、ネット検索するまでは半信半疑であっちこっちーしてた。
そして先日、初めてそのギモーヴなるお菓子を食する機会に恵まれた。
あるキャラクターがキスに比喩した感触を堪能。
この甘い口づけは、『空の境界 未来福音』へ手向ける私の感覚に似ている。
星海社文庫から発売されるまで、『未来福音』の存在にもまた、私は疑いを持っていた。
インターネット上では人口に膾炙されているし、ネタバレだって盛大に漂っていた。
けどそんなの、私は知らない。
一般の商業ルートには乗っていないし、手元にも無い。
現物どころか、それを持ってる人だって目にしたことだって無かったのだ。
自身の認識する視野が世界のすべてなどと思い上がってはいないけれど、それでも、ちょっぴり実在を疑っていた。
誰かが私を担ごうとしてるんじゃないか、って。そんな意味不明なことを考えていた。
だからこそ、手にしたときの想いは、端的に表現しがたい。
私の勘違いや妄想じゃなしに、ちゃんと此処に在るのだと……本を手にした時点で、軽く感動してしまった。
そして読み始める。
ほんわかした味が口内だけでなく胸いっぱいに広がってゆく。
黒桐はやっぱり女の子をタラシこんでるし、式は相変わらず漢前だ。
私の知らない『空の境界』は、けれど、私の知っている『空の境界』と同じ成分を含有している。
されど、そこには覚えの無いスパイスも、ちょっぴり含まれていて。
それは織だ。
今まで私が知っていた『空の境界』は、誰かに織を語らせることはあっても、織に自らを語らせることを良しとはしなかった。
それが解禁された訳だ。
否、厳密には解禁という言葉は不似合いやもしれぬ。
これは、きっと最初で最後のマボロシだ。
織という存在そのものが、確かに其処に在った幻であることの証明のように。
幻に触れることは叶わない。
それを体現するかの如く、式も黒桐も、もう二度と、織と触れ合うことは叶わない。
けれど織は確かにそこにいた。
式も黒桐もそれを覚えているし、私もちゃんと覚えてる。
ずっとずっと忘れない。
他の誰が忘れても、私は織を忘れない。
黒桐と出かけてひどく楽しんでいたシーンも、死を予知されてなお自分の役目を見据えていた姿も。
そうだ、『未来福音』を読み終わったら、久しぶりに『空の境界』を読んでみよう。
文字を追っていても、織が生き返るわけではないけれど。
それでも、ほんの少しだけでも、織の思い出に触れられる気がするから。
この冬がやがて終わって、春が来て桜が舞って、夏が来て海が輝いて、秋が来て紅葉が栄えて、また冬が来て六花が宙を舞って。
年を経るごとに、織のことをみんな忘れてしまうだろうけれど。
――――――私は忘れないよ。
織が生きてそして死んだ、その苦悩の価値。
それは、今でも私の心の中で甘やかな痛みを保っているから。