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読者レビュー

銅

下界のヒカリ

だめんず・り~だ~

レビュアー:ヨシマル Novice

栄子:同情するなら金をくれ!
透谷:はあ!?
栄子:同情するなら金をくれ!!!
透谷:うるせーよ!
栄子:ということで今回はカレンダー小説第六段、泉和良『下界のヒカリ』や。
透谷:ああ、それで安達祐実か。
栄子:いや、まあ、関連性はそんなにないんやけどな。ほな、あらすじお願い。短編だから手短によろしく。
透谷:はいはい。大晦日、屋根裏の男は寂しくなっていた。少し前に美人の女神が出て行ってしまって一人になってしまったからだ。下界では小学生のヒカリが大晦日だというのに一人で家事をしている。もう一人の家族である母親は行商のため朝から晩まで働いている。そうなっているのも男のせいではあるけれど。今日も動くのが面倒くさい。
栄子:…………。
透谷:なんだよ。
栄子:いや、思考が透谷そっくりやと思うて。
透谷:うるせー。
栄子:うん、この男が透谷やと思ったらなんかむかついてきた。最低やなあんた。
透谷:いや、俺じゃねーよ。
栄子:だいたい、この話最後ハッピーエンドっぽくなってて、良心から行動に出たみたいになってるけどさ、それって嘘やんか。
透谷:あ? 少女の健気さに心打たれて頑張ったんじゃねーの?
栄子:いやいや違(ちゃ)うでしょ。どう考えてもヒカリが可愛くなってるからってのが前提にあるやん。その後ヒカリの幸せがどうのこうの言うてるけど、絶対後付けやんそんなの。
透谷:だから、それは咲ちゃん姫の影響で、それがきっかけになってヒカリの幸せを考えることにしたんだろ。
栄子:だから、そのきっかけって可愛くなったってことやん。可愛くなってなかったら今まで通りだったわけやんか。結局顔か! 顔なんやろ! ヒカリはずっと頑張ってたんよ! それなのに救われるきっかけは自分たちを不幸にしてきた男がたまたま連れ込んだ女やん!
透谷:そうかもしれねーけれど、最後はヒカリの家族を不幸にする屋根裏の男も出て行って良かったんじゃねーの。ヒカリの家から出て行った屋根裏にいた男もこれを機に心を入れ替えていくかもしれないし。
栄子:でも、ヒカリの家族が不幸になってるのもこの男のせいやんか。それで例えこの男が去った所で幸せが戻ってくるわけでもないんやし、それでハッピーエンドって言われても納得できひんわ。勝手に好きになって出ていって悲しむとか自己中心的過ぎるて。
透谷:この男が最低なやつだってのは分かるけど、最初で最後の頑張りを必死で見せたのも少しは認めてもいいんじゃねえか。
栄子:そりゃ、見所がそこなのは分かってるんよ。でも、この男の駄目っぷりに目が行ってしまってしかたなかったんやって。一行一行食い入るように読んでしまったわ。
透谷:なんだかんだで、よく読んでるんだな。
栄子:そうなんよな。まあ、その駄目っぷりを読む話でもあるわけやから、そこにツッコんでる時点で作者にのせられてるような気もすんねんけどな。読後の切なさとか、そんな気持ちにはなれんかったけど、男の素性とかヒカリの今後とかいろいろ想像してしまったし。
透谷:駄目なところでも気になり出したら追ってしまうのが駄目男の魅力なんだろうしな。この話も栄子みたいに駄目なところに目が行っても最後まで読ませて想像を広げてしまう、そんな『駄目』小説ってことなのかもしれねえな。
栄子:まあ、そうなんかなあ。しっかし、今回は妙に男の方の肩持つねんな。
透谷:いや、さ。なんか他人の気がしねえんだ。
栄子:は?
透谷:実は、去年の大晦日似たような状況だったりしててな。出て行かれたり、出て行ったりとか……。
栄子:え? ええ!!!!!!!!

2012.01.30

さやわか
なんだか事態が切迫していますが、あえてスルーします(笑)。レビューとしては屋根裏に住んでいる男はダメな奴であり、共感できる要素は本来ならばない、ということが書かれているわけですが、ただ対話文の形式でこれだけだと、わりと明快な主張が一本あって終わり、というようにも見えますね。「妙に男の肩を持つ」のも、産婆法というか、その主張を引き出すための合いの手のように見えます。その主張自体はしっかりしていますが。ひとまず「銅」ということにしますが、もし本当に「妙に男の肩を持つ」理由があるのだとしたら、もう一ひねりしてあってもよかったのではないでしょうか。ただし、それは「本当は男はダメな奴じゃない」みたいな逆転の構図を描くべきだというのではありません。それだと、二択のどちらかを選ぶというだけの話なのであまり面白くはないです。たとえば自分がダメだからこの小説が妙に気になって読んでしまうとか、そういう読書体験のレベルに話を移した方がいいと思います。ただ、脱力感あるタイトルは好みでした!

本文はここまでです。