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読者レビュー

銅

月のかわいい一側面

時の果てに実る執着

レビュアー:くまくま

 いや、ドンびくわ。それはないわ。好きな女の子に贈った携帯ストラップに盗撮カメラを仕込む?家の前のゴミ捨て場で、彼女の捨てたゴミを漁る?尾行して彼女の会話を盗み聞く?
 おいおいおい、完全なストーカーじゃないか。それもすさまじく悪質なヤツじゃない?しかも、次の満月には彼女は自分のことを好きになるなんて、妄想まで入っている。これのどこが、中秋の名月にふさわしいんだ?

 それがまさに第一印象。もはや弁解の余地なし。そう思って読み進めていくと、ある意味でそれは誤解であり、ある意味でそれはもっと根深いものであることを知らされる。
 前者の誤解は、必ずしも一方的な思いではなかったということだし、後者のそれは、一千年にも及ぶ執着だったということだ。その結末はまさに、日本人が思い描く中秋の名月にふさわしいもの。

 月が明るく地球を照らしているとき、地球もまた淡く月を照らしている。一方通行の関係に、美しさはない。

2011.09.30

のぞみ
どんな話だぁ~~!? って、思うような衝撃的なところだけ書かれているので、気になりますよね。
さやわか
たしかに、その通り。ストーカーのような描写が続くことを印象づけて、でもそれは中秋の名月にふさわしい内容だったとだけ書いて終わりにしています。読者に、「どんな話なんだろう?」と思わせるのには成功していますな。あと、それが自分自身の感想として書かれているのもよいと思います。ちょっと残念なのは、ラストの「一方通行の関係に、美しさはない」というところですな。ここは文章としてはなかなかうまい締めになっているのですが、論旨としてはどうでしょうか。これはくまくまさんの個人的な見解に近くなってしまっていて、文章のラストが作品自体からはやや離れたところで着地したように見えます。作品のレビューとして書き終えるには、この個人的な見解を踏まえた上で、『月のかわいい一側面』はそういう関係を描いていないのだ、というところで落とした方がいいでしょうな。文章全体としてはそのことが書かれているので、惜しいところです。ということで「銅」にいたします!

本文はここまでです。