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読者レビュー

銅

『マフィアとルアー』

いざ社会に出てもやもやを感じ始めている私が一番好きなのは

レビュアー:yagi_pon Novice

「よくわからないけど、いいんですか?」
「いや、よくないみたいだ」
そんなふうにして、走って元カノを追いかけていく主人公。

『マフィアとルアー』にはもやもやした作品が多いけど、
私は、明快な「モノレエル」が好きだ。


世界とか人生とか世の中とかそんなとこは、
たいてい、もやもやしたことばっかり。
そんなもやもやを消し去るためにはたぶん、進まなきゃいけない。
突き進んだ先で、壁に激突するかもしれないけど。
突き進んだ先は、雲が切れた真っ青な空かもしれないから。

ずっと先の道は見えないけど、
とりあえず見えている道を進んでいくモノレールみたいに、
よくわからないけど、よくないとは思うから進むみたいに、
前に進もうと思った。
走っていく主人公の後ろ姿を見ながら、
前に進もうと思えた。

もやもやと、心に残る作品はたくさんあったけど、
進んでいく姿が明確に目に見えたのがこれだけだったから、
それぞれ過去を扱った作品の中でも一番明快だったから、
私は「モノレエル」が好きだ。

2011.09.30

さやわか
短編集の中から一作だけ特徴的な傾向を持ったものを選び出して、それがなぜ優れているかを語っているレビューです。このように具体的に自分が好ましいと思う部分を突き詰めていく書き方はよいと思います。「銅」にいたしましょう。文章的には整理されていないところがあって、たとえば「もやもや」ということについては三回、違う形で言及されています。「『マフィアとルアー』にはもやもやした作品が多い」→「世界とか人生とか世の中にはもやもやしたことが多い」→「もやもやと心に残る作品はたくさんあったけど、自分は『モノレエル』が好き」という流れですな。作品に対する話がいったん現実社会の話として語り直され、また作品についてのコメントになっているのがおわかりでしょうか。「前に進もうと思った」という話も同様に三回、出てきます。こういう構成が、わずかですが読む際に引っかかる印象を与えていて、結果として文章全体が「私は『モノレエル』が好きだ」という意図的なリフレイン以上に同語反復しているように見えるのではないかと思います。いかがでしょうか?

本文はここまでです。