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読者レビュー

銀

演劇少女・原くくる 1st. インタビュー

華々しさの影にあるひたむきさ

レビュアー:くまくま

 前中後編に分かれて掲載されたインタビューは、後半に進むほど鋭く切り込んだ質問になり、徐々に面白くなっていきます。中編を読んだ時点までは「Mでつながる編集者と原くくる」というタイトルでネタ的に書こうとしていましたが、気が変わりました。真面目に書きます。

 このインタビューは、太田氏とさやわか氏のお二人が原くくる氏の創作の根幹に迫っていく趣旨だと思うのですが、インタビュアーそれぞれのスタンスに微妙な違いがあり、それが相乗効果を生んで、より面白い答えを引き出すことに成功しているように思います。太田氏は原くくる氏に対する理解がある程度定まっているので、当初は話題提供を行いつつ、さやわか氏が慣れてきてからはツッコミ役に徹する。一方でさやわか氏は、当初は間合いをはかりつつ徐々に接近し、間合いに踏み込んだあとは一気に切り込んでいくという分担です。
 その切り込み方は、型に対する相手の返し方を見るように、既存の様々な作家のスタンスを比較対象にしつつ、その相違点を探るというやり方になっています。それに対する原くくる氏の回答が大変面白くかつ独特で、その口からは劇的で運命的なエピソードの数々が飛び出してきます。

 こんなエピソードの宝庫状態を見せつけられてしまうと「やっぱり特別な人は特別なことがあるから選ばれた存在なんだな~」と思ってしまいそうになります。でもそんな考え方は、おそらく原くくる氏の望むところではないでしょう。彼女の回答からは、それとは真逆の、多くの人が自分と同じ様に考えられるのが当然だ、という様な想いが伝わってくる気がします。
 なぜそうかと言えば、劇的で運命的なエピソードが彼女の根幹というわけではない、と感じるからです。原くくる氏に特筆すべきところがあるとするならば、それは、何かが起きたときに、それはなぜなのか、どうしてなのかを、自分が完全に納得するまで、自問自答し突き詰める姿勢であるように思います。

 これは、誰もがやろうと思えばできることです。しかし多くの人は、長じるに従って、当たり前のことを当たり前と捉え、なぜ、という疑問を抱くことに恥ずかしさすら覚えるようになります。りんごが木から落ちるのを見ても、何とも思いません。そこで、なぜ、と考え続けることが出来る人が、万有引力の法則を発見できるののにもかかわらず、です。
 もちろん、ずっと考え続けていたからといって、誰もが星海社から戯曲集を出せるようになるわけではないかもしれません。でも、希望を抱くのが間違いだなんて言われたら、わたし、そんなのは違うって、何度でも言い返せます。

 それに、仮に挫折を味わうことになったとしても、その経験は無駄にはならないはずです。それからの人生において経験は指針となり、確固たる自分を形作る骨格になってくれると思います。
 だからこそ、世間の常識に流され過ぎず、一回くらいは自分を貫く挑戦をしてみてもいいんじゃないかな。

2011.09.08

さやわか
む、これはうまい! 別に僕自身について書いてあるから言うわけではないですが、なかなかいいレビューだと思います。
のぞみ
原くくるさんに、そして、インタビュアーの太田さん、さやわかさんに対しての敬意をとっても感じますわ。
さやわか
うむ。くまくまさんにも何度かレビューを送っていただいていますが、わりと作品の表層を追いつつ、小ぎれいにまとめたものが多くて、くまくまさん自身がどう読んだのか、どう感じたのかが廃されたものが多かったのですな。食い足りなさを感じたというか。むろん、それはわざと選ばれた書き方だったのかもしれないです。世の中にはそういう文章がレビューとしていっぱい書かれていますからな。しかし、こうやって論理性と書き手の気持ちがぐっと絡んだものの方が優れているのは明らかです。欲を言えば最後の部分、ラストほんの一行くらいのところで、前半の議論というか、このインタビューの話にフィードバックするところがあるとうまい締めになると思います。しかし、十分なレベルには達しているのでここでは「銀」を授与したいと思います!

本文はここまでです。