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読者レビュー

銅

六本木少女地獄

「原くくる」という新ジャンル

レビュアー:牛島 Adept

まず最初に白状すると、この才能には嫉妬するよりも早く、惚れてしまいました。

この戯曲集は、一貫して人間への愛に満ちています。キャラクターに盛り込まれた人間の弱さ、悪意や敵意に対する敏感さ、どことなく漂う達観――彼女はきっと、人一倍人間が憎く、だからこそ人間を深く愛してやまないのでしょう。かなりアクの強い愛ですが、確かにこれは愛です。
自分と同年代の、少し年下の少女・原くくるさん。
すごい。
18歳で!
現役女子高生で!
このレベルの戯曲集を出しちゃうって!
……もはや嫉妬するというか、何事も成さなかった自分の人生について考えざるを得ない現実です。

さて。
『六本木少女地獄』に、原くくるという少女に触れて思ったのは、彼女の持つ才能の質についてです。
ざっくりと言ってしまうとそれは「読者に惚れこませる能力」ということになります。
彼女の脚本を開き、引き込まれ、想像力を刺激され、一気に読み切ってしまいました。その引力と中毒性――読者を作者のファンにする力が、この本はひどく高い。
こういうことを言うと「売れている作家やそのファンはみんなそんなもんだろう」という批判を受けそうですが、この個性はそうしたレベルではありません。
まさに「一作家一ジャンル」。すでに自分の中に新しく「原くくる」というフォルダを作った人は少なくないはずです。

ではこの引力はどこからくるのか?
高校生というブランド力なのか。
彼女のインタビューを同時期に読み進めたからなのか。
戯曲集という形で読んだことで作家像が見えたからなのか。
太田克史氏を始めとする様々な人が絶賛しているからなのか。
どれも理屈を補強するには足る材料だとは思うのですが、何よりも原くくるさんの強い個性と自己主張が原因ではないかと思います。

戯曲に込めた人間への愛。細やかな心配り。テーマや舞台設定の選び方にも一癖も二癖もある、原くくるさん。
ともすれば自己主張が強すぎると受け容れられないこともあるでしょう。
この、たった一冊の戯曲集に、五本の脚本に、作家の個性が現れています。
ただ作品を発表したのではなく、彼女はその「才能」をこそ出版したのです。

……ぶっちゃけ、これには参りました。
もうね、嫉妬とかしてる場合じゃないですよ。
こんな形で自己表現されちゃったら、一人の読者として惚れるしかないじゃないですか!
ファンとして、彼女がこれからどう歩いていくのか、追いかけたくなっちゃうじゃないですかっ!
裏で手を引くプロデューサー・太田氏の邪悪な笑い声が聞こえてきます。
ええ、もう氏の掌の上で踊ってやろうと思います、全力で!


さて。
戯曲を読み、想像力を刺激され、作者に惚れこみ――なによりこれらの作品が上演されるのを観たくなりました。伝説の引退公演を観に行けなかったのが本当に惜しい……!

と。
ふと帯を見ると、なんか凄いことが書いてあります。
「原くくる新劇団旗揚げ公演ご招待券が抽選で当たる!」……!?

帯に付いた応募券は2011年の末まで有効のようです。10名様しか当選しないようですが。早速応募します。10名様しか当選しないようですが。

………………。

レビュアー騎士団の説明には「星海社イベントへの招待券」が与えられるとあります。
願わくば、旗揚げ公演のチケットが、騎士団の褒賞に加えられますように!

2011.09.08

のぞみ
丁寧ですわよね~! 素直に、好きということも伝えていますし、自分なりの考えがたくさん書いてあって、好きですわ~。
さやわか
うむ、これは好感のもてるレビューです。と同時に、原くくるという作家が「読者に惚れこませる能力」を持っているという指摘もできている。これはかなりいい感じのレビューなのですが……ひとまず「銅」としましょうか!
のぞみ
「さて。」の後の後半部分、私も気になりますわ~! 何としても手に入れなければ!と思いますよね。私もですわ! むしろ、何かしらの形で参加したいですものwww
さやわか
おお? 自分をアピール! いや、それはそれでよし! しかし、読んだ人にも公演を見たいと思わせるのはなかなかにうまいです。望むならば作品のどこにそのような能力が感じられるのか、またその能力はなぜ生まれたのか、みたいなことが読めればさらに読み応えがあったとは思います。しかしまあ、それはなくとも構いません。というか、作家によっては、特に「天才タイプ」の作家の場合は、それはすごく書き表しにくいことがあるのですね。何だかわからないけどすごい、なぜだか引き込まれる、そういう作家の魅力をうまく語るのは難しい。だからこそレビューとしては書きがいもあって、また読んだ人に驚きと感動を与える可能性も高いものなのですが。

本文はここまでです。