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読者レビュー

銀

星海社朗読館「ベッドタイム・ストーリー」

物語に添えられた40枚のイラスト(そのうちの一枚、「目のイラスト」について)

レビュアー:USB農民 Adept

 この本には、朗読が収録されたCDと、朗読本文が載ったブックレットの二つがついている。
 坂本真綾さんの朗読は、登場人物二人の呼吸の演じ分けがとても素晴らしく、聴いているうちに、次の言葉、次の言葉へと意識が集中し、語りに引き込まれていく。とてもいい朗読だと思う。
 けれど、他に特筆しておきたいことがある。ブックレットの完成度だ。
 本文中に挿入される多数のイラストは、物語の細部を彩っていく。
 例えば、本文にはこんな文章がある。

「いつのまにか、埃と、それを追いかける私の視線の関係が、逆転していたのです。埃のほうが、私の視線を追いかけ、右をむけば、埃も右に行き、左を向けば、埃も左についていくのです。意識を集中させると、埃をおもいのままにあやつって、空中で文字を書くことだってできました。」

 ヒロインの椎名が自分の超能力を説明するくだりの文章だ。なんてことのない身体の動きの描写で、不思議な現象の一端を説明している。イメージしやすい動きなので、椎名の超能力を理解しやすいし、受け入れやすい。

 そして、きっとこんな風に目をきょろきょろさせたのだろうな、と頭でその動きを思い描きながらページをめくると、果たして、そこには椎名が超能力でサッカーボールを動かそうと、視線を左右に動かしているイラストがあって驚いた。私のイメージ通りの動きが、いや、それ以上に説得力のある眼球の導線が見えてきて、私の中で椎名という女の子と、彼女が持つ「離れた物を動かす超能力」の存在感が確かなものになった。

 その挿絵は、目元だけをアップにして描いた三つのイラストを並べたものだった。ページの上部に、文章の邪魔にならない程度の大きさで添えられていた。たったそれだけの絵で、私の感情は動かされた。イラストの釣巻和さんと、ブックレットの装丁を担当された編集者の方の力量はたいしたものだと思う。
 
 これ以外にも、『ベッドタイム・ストーリー』のブックレットには目を引くイラストが多い。数えたところ、全部で40枚のイラストがあった。ここですべて挙げていくには、あまりに多い。是非、本書を実際に手にとって確認してほしい。

 これまでの同シリーズ作品のブックレットも優れていた。しかし、これは頭一つ抜けているのではないかと思う。
 部屋の暗さや、二人の間の沈黙や、遠い遠い宇宙の手触りがこの本から感じられるのは、やはりイラストと装丁の持つ力が大きいと感じる。
 
 朗読CDとしても、小説作品としても、『ベッドタイム・ストーリー』は良い本だと思う。
 この本を買って良かったし、次の作品もきっと買う。

2011.09.30

のぞみ
この、朗読のCD、本のセットにされている朗読館シリーズは、本当にレベル高いですわよね~(´ω`*) 高級感みたいなもの、感じますわよね!
さやわか
「レベル高い」「みたいなもの」という姫の意図せざる上から目線ぽさが面白すぎる! ま、それはいいですが、レビューについてはどうでしょう。
のぞみ
イラストに視点を置いて書かれているのが良いですわよね~。
さやわか
朗読館シリーズはイラストも含めての作品なので、小説の中身だけでなくイラストとの連動性について書くのは正しいやり方でしょうね。
のぞみ
あと、具体的に、ココ!ってことが書かれていたのも、読み返してみようかなって思いましたわ!
さやわか
うむ。具体性があるのはいいことです。それも含めて、このレビューはすごくオーソドックスな書き方をされている印象があります。文章の洒脱さを競うようなところに主眼はなくて、丁寧に読者に作品の価値を伝えています。これは好感が持てますな。あえて気になるところを探すとすると、少し緩急がない感じで絶賛が並べられすぎていることくらいですが、それは別に悪いとは言えません。ということで「銀」に値するのではないでしょうか!

本文はここまでです。