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読者レビュー

銀

Fate/Zero(4)

神様ってなーに?

レビュアー:ひかけ Novice

誰がどう読んでもこの巻のメインになってくるのはキャスターだろう。絶対的「悪」として現界したキャスターであるジル・ド・レェ伯爵とそのマスター雨生龍之介。殺人というものを美とする考え方には絶対的「悪」というイメージをより鮮明に私たちに植え付ける結果になっているだろう。

しかし、絶対的「悪」としての存在となっているのにもかかわらず、私はこの二人のやりとりに少し心惹かれるものがあった。「神」についてだ。キャスターは最初神などいないのだと言っていた。悪行を積み重ねた自身は神罰ではなく人の欲に殺された。ならば神などいないという風に。
しかし龍之介は違う。神はいると断言している。世界にはおもしろいことがたくさんあるし、それは「誰か」が脚本を書いているからだと。そしてその「誰か」が神なのだと。殺人者も普通の人も聖職者もみんながみんな神様という筆者の作ったキャラ設定でそれらを関連づけておもしろい話を作り世界としているのだと。平たく言ったらこんな感じですかね。

おもしろい。

正味私は神様信じてないんですよね。奇跡も見たことがないし、自分が受けた神様の恩恵ってなんだろうって考えたら何も浮かばないし。そもそも神について考えるようなことは今の日本じゃ難しいんじゃないかなと邪推。いろんな宗教とか入り混じってるからね。だからその中を生きてる私には気付かないのかも。まぁ、なんにせよ私にはまだ神様は信じられない。

でも龍之介の考えは好きだなと思った。嫌な脚本も書いてるってのが少し嫌だけど、こんなに現実がリアルなのも神様の趣向なんだとか思ったりして自然と納得できた。キャスターであるジル・ド・レェ伯爵も龍之介の考えに耳を傾け、新しい宗教観だと絶賛している。
その後キャスターのセリフを追って行くとこんなものがある。

傲岸なる「神」を!冷酷なる「神」を!我らは御座より引きずり下ろす!神の愛した子羊どもを!神の似姿たる人間どもを!今こそ存分に貶め、陵辱し、引き裂いてやろう!神の子たちの嘆きと悲鳴に、我ら逆徒の哄笑を乗せて、天界の門を叩いてやろう!

海魔召喚時のセリフだ。龍之介の言葉に感化されたから「神」というワードを用いているとしか私には思えない。
「神」という存在はイマイチ今はよくわからない。でもそういうのも考えてみてもおもしろいかもしれない。と勝手に思ったりしてます。

すべてのキャラが個性的なこのFateという作品。各キャラについてもう少し考えて見るとおもしろい発見があるとおもう。この作品に一度すべて目を通した人ももう一度読めばおもしろい発見があるかもしれない。

2011.08.17

のぞみ
最後の一文に、うんうん(*・ω・)(*-ω-)ってうなずきました。読むたびに新たな発見が出来たり、もっと違う読み方をしたくなたり、何度読んでも楽しい作品ってありますよね~。
さやわか
うむ。今回ひかけさんは『Fate/Zero』について全巻分のレビューを送ってくださって気合いが入っていた! のですが、中でもこのレビューはどういう作品、どういう考え方を「面白い」と感じるかみたいなことにきちんと言及していて、逃げがない。「銅」に値すると思います。しかし実はこのレビュー、それとはほとんど別の話として論理展開がしっかりしていて、ちゃんと読ませる内容になっている。最初の段落から、自分の理屈を展開するためにムダな部分、あるいは不足している説明がほとんどないのですな。そして作品自体にぐっと接近しつつ、ちゃんと距離が取れている。だから僕は「銀」としたい。ひかけさんが大量にレビューを送ってくださった中で、これだけがそういう論理性を持っていた。だから、この論理性はひかけさんの意図を越えて、偶然書かれたものかもしれない。でもレビュアー騎士団はルールの上で正しく評価します。しかし、このやり方でレビューを量産するのはむろん難しいことだと思いますぞ!

本文はここまでです。