私のおわり
サヨへの祝福、羨望と嫉妬
レビュアー:横浜県
僕は主人公のサヨを羨ましく思う。そして妬んでもいる。
彼女は天霧君、七原、パリオ君とよく一緒にいる。彼ら4人は仲の良いコミュニティだ。
しかしサヨは恋をしてしまった。天霧君を好きになってしまった。
ところが、なんと七原までもが天霧君に思いを寄せていたのだ。
ここでサヨは大きな選択を迫られることになる。
そう、自分の恋をとるか、それともコミュニティの存続をとるかである。
もし天霧君に告白をしてしまえば、どうしても4人はギクシャクした関係になってしまうだろう。決して今まで通りにはいられまい。
何と重たく気の滅入る悩みであろうか。
実は僕も似たような経験をしたことが、恋と仲間の二択に陥ったことがある。
「自らの欲望に従えばいいじゃないか」
あのときの僕も確かにそう思った。けれど一度ラインを踏み越えてしまえば、いまこの面子で楽しく笑っている時間が消え去るかもしれない。そんな恐怖に僕は怯えていた。
だが結局のところ僕たちには、自分の思いに真っ直ぐになるしか道はなかった。どれだけ辛い未来が待っていようと、いま恋を患う痛みには、耐えきることができなかった。
サヨと僕は前者を、恋を選んだのだ。
やがて僕のコミュニティは崩壊した。
それは当然の帰結であったとはいえ、僕の精神をいたく蝕んだ。
自分に全ての責任があるのだから。言い知れぬ憂鬱が僕の背中に覆い被さっていた。
それはサヨも同じだった。彼女のコミュニティは完全に崩れ去りはしなかったけれど、そこに傷が入ったことに変わりはなかった。
彼女は自らの愚行を恥じて、激しい後悔と自責の念に苛まれた。
そしてそれは同時に、僕の痛みでもあった。
さてここまでが『私のおわり』の物語であれば、僕はサヨと同じ感情を抱いたまま、彼女と傷を共有しながら、本を閉じることができたであろう。
けれどもサヨは僕と違った。彼女は僕よりも強い心を持った女の子だったのだ。
自らの恋が終わったとき、より未練がましいのは男性であると聞く。それが正しいか否かは知らないが、少なくともサヨと僕には当てはまっていた。
あのときの僕はコミュニティの崩壊を受け入れるとともに、それを悔やむことしかできなかった。
同時に、自らその再生を拒んだのである。いままで通りの日常へ回帰する機会を与えてもらったにも関わらず、僕はその手を振り払ってしまったのだ。いわば逃げたのだ。
一方でサヨは違った。彼女は自分らの責任を感じ取った上で、それを超越しようとした。
彼女は自らのコミュニティを何とか復活させようとしたのである。
(実は作中でのサヨは既に死んでおり、魂だけが過去の世界、まだ自分が死ぬ前の世界に戻って来ているのだが)何にも触れられない、誰にも声が届かない状況でも、彼女は何とかしたいと願い続けた。確定している未来に、自分が死んだその先に、残りの3人がいままで通りの仲間でいられるようにと、祈り続けたのだ。
それは本来なら僕だってすべきことだった。僕がしなければならないことだった。
なのにやらなかった。
僕はサヨの悲痛ながらも強い叫びに、過去の自分がいかに愚かで弱い人間であったかを思い知らされていた。
そんな彼女を、決して天は見放さなかった。神様が微笑んだのだろう。
サヨは天霧君に「ごめんなさい」と「ありがとう」を告げる機会をえた。
彼女の願いは聞き届けられたのである。
そしてその二言は、サヨが傷つけたコミュニティを修復するには、もう十分すぎるほどであった。
これで彼女は自らの死を受け入れられる。
だってサヨが死んだ後も、残り3人の関係が壊れてしまうことなんて、きっとないはずだ。
だから僕はサヨを祝福したい。
おめでとう。
恋は叶わなかったけれど、君は大切な人たちを、4人の絆を守り抜いたんだ。
僕にはそんな君がとても羨ましい。君のその強さが、仲間への愛情が。
だから少しくらい、君を妬んでもいいよね。
「おわり」を迎えたそのとき、前を向くことのできた君のことを。
彼女は天霧君、七原、パリオ君とよく一緒にいる。彼ら4人は仲の良いコミュニティだ。
しかしサヨは恋をしてしまった。天霧君を好きになってしまった。
ところが、なんと七原までもが天霧君に思いを寄せていたのだ。
ここでサヨは大きな選択を迫られることになる。
そう、自分の恋をとるか、それともコミュニティの存続をとるかである。
もし天霧君に告白をしてしまえば、どうしても4人はギクシャクした関係になってしまうだろう。決して今まで通りにはいられまい。
何と重たく気の滅入る悩みであろうか。
実は僕も似たような経験をしたことが、恋と仲間の二択に陥ったことがある。
「自らの欲望に従えばいいじゃないか」
あのときの僕も確かにそう思った。けれど一度ラインを踏み越えてしまえば、いまこの面子で楽しく笑っている時間が消え去るかもしれない。そんな恐怖に僕は怯えていた。
だが結局のところ僕たちには、自分の思いに真っ直ぐになるしか道はなかった。どれだけ辛い未来が待っていようと、いま恋を患う痛みには、耐えきることができなかった。
サヨと僕は前者を、恋を選んだのだ。
やがて僕のコミュニティは崩壊した。
それは当然の帰結であったとはいえ、僕の精神をいたく蝕んだ。
自分に全ての責任があるのだから。言い知れぬ憂鬱が僕の背中に覆い被さっていた。
それはサヨも同じだった。彼女のコミュニティは完全に崩れ去りはしなかったけれど、そこに傷が入ったことに変わりはなかった。
彼女は自らの愚行を恥じて、激しい後悔と自責の念に苛まれた。
そしてそれは同時に、僕の痛みでもあった。
さてここまでが『私のおわり』の物語であれば、僕はサヨと同じ感情を抱いたまま、彼女と傷を共有しながら、本を閉じることができたであろう。
けれどもサヨは僕と違った。彼女は僕よりも強い心を持った女の子だったのだ。
自らの恋が終わったとき、より未練がましいのは男性であると聞く。それが正しいか否かは知らないが、少なくともサヨと僕には当てはまっていた。
あのときの僕はコミュニティの崩壊を受け入れるとともに、それを悔やむことしかできなかった。
同時に、自らその再生を拒んだのである。いままで通りの日常へ回帰する機会を与えてもらったにも関わらず、僕はその手を振り払ってしまったのだ。いわば逃げたのだ。
一方でサヨは違った。彼女は自分らの責任を感じ取った上で、それを超越しようとした。
彼女は自らのコミュニティを何とか復活させようとしたのである。
(実は作中でのサヨは既に死んでおり、魂だけが過去の世界、まだ自分が死ぬ前の世界に戻って来ているのだが)何にも触れられない、誰にも声が届かない状況でも、彼女は何とかしたいと願い続けた。確定している未来に、自分が死んだその先に、残りの3人がいままで通りの仲間でいられるようにと、祈り続けたのだ。
それは本来なら僕だってすべきことだった。僕がしなければならないことだった。
なのにやらなかった。
僕はサヨの悲痛ながらも強い叫びに、過去の自分がいかに愚かで弱い人間であったかを思い知らされていた。
そんな彼女を、決して天は見放さなかった。神様が微笑んだのだろう。
サヨは天霧君に「ごめんなさい」と「ありがとう」を告げる機会をえた。
彼女の願いは聞き届けられたのである。
そしてその二言は、サヨが傷つけたコミュニティを修復するには、もう十分すぎるほどであった。
これで彼女は自らの死を受け入れられる。
だってサヨが死んだ後も、残り3人の関係が壊れてしまうことなんて、きっとないはずだ。
だから僕はサヨを祝福したい。
おめでとう。
恋は叶わなかったけれど、君は大切な人たちを、4人の絆を守り抜いたんだ。
僕にはそんな君がとても羨ましい。君のその強さが、仲間への愛情が。
だから少しくらい、君を妬んでもいいよね。
「おわり」を迎えたそのとき、前を向くことのできた君のことを。