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読者レビュー

銅

星海大戦

若き才能が時代を動かす

レビュアー:くまくま

「私のために争わないでください」
 おそらく歴史上、最も軽いノリの宣戦布告だろう。しかもこれを出したのは、初めて人類が接触した地球外生命体(少女タイプ)だというのだから、どれだけ地球文化に馴染んだというのだろう?
 しかしこのノリからどんな笑える物語が繰り広げられるのかと思えば、これはあくまで前史のエピソードであって、本編で描かれるのは、重厚な人間ドラマを備えたスペースオペラというから面白い。

 スペースオペラと聞いて思い出すのは、銀河英雄伝説だ。もちろんこれは、専制政治の銀河帝国と、民主制の自由惑星同盟が対立する宇宙で、それぞれの政体に生まれた軍人たちの戦いと交流を描いた物語だ。
 翻って見ると、この作品世界にも政治対立はあるし、主人公は軍人という共通点もある。では同じような物語かというと、そういうわけでもない。この作品には、銀河英雄伝説とは異なる前提がある。

 例えば、戦争の捉え方だ。銀河英雄伝説は、クラウゼヴィッツ的に、戦争を外交の延長と見なしていた。究極的に言えば、奇妙な話ではあるのだが、彼らは現在の状況を維持するためにこそ戦争をしていた。
 しかしこの作品では、不満な現在を変えるための行動を何よりも求めている。そのために、現在の停滞を打破するひとつの手段として戦争を利用している。そしてその変革を成し遂げられるのは、才能を持った若者たちだけだと考えている。
 だからこそ、グリーンホーンという、宇宙時代に適応した才能が存在し、才能さえあれば若くして栄達も可能であり、そんな彼らが主役となる世界が描かれているのだろう。そしておそらくこれは、作者が現在の世界に感じていることなのだと思う。

 この見方が正しいか否かは、物語が進むに従って明らかになるはずだ。そしてその結果、完成した物語は銀河英雄伝説に比肩するのか。
 そんな、ちょっと斜に構えた楽しみ方をする人間が一人くらいいても良いですよね?

2011.07.14

のぞみ
このレビューを読むと、『銀河英雄伝説』にも興味が出ますね。
さやわか
『銀河英雄伝説』との比較なので、もちろんそちらに興味が出るようにはなっているんですけど、ただ、もうちょっと初めて両作品に触れる読者が作品の内容を理解できるような説明があってもいいかな、とは思います。くまくまさんはライトでありつつ分析的な書き方をよくなさっていて、それには一定のうまさがあるんですが、もう少し作品のどこを語るのか焦点をしぼってやると、初めて読んだ読者にとってとても理解しやすく信頼できるレビューになるのではないかなと思います。たとえば、『星海大戦』に関してで言えばグリーンホーンというものだけに考察を傾けるのでも、くまくまさんは面白くできるのではないかと思います。ということで、ここでは「銅」で。あと、書き漏らしましたが締めのささやかさもそつないですが、冒頭が「おそらく歴史上、最も軽いノリの宣戦布告」の話から始まっているのは、ツカミとして非常にいいと思います。

本文はここまでです。