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読者レビュー

銅

泉和良『エレGY』

泉和良の、泉和良による、泉和良ための恋物語

レビュアー:yagi_pon Novice

なんて独りよがりな物語なんだろうと思った。
私が初めて、『エレGY』を読んだときの感想だ。

著者の名前は泉和良。主人公の名前も泉和良。
職業のフリーウェアゲーム作家、ハンドルネームのジスカルドも同様に同じだ。
だって自分で自分を主人公に書いた物語なんだから。

泉和良を主人公にした、泉和良が書いた、泉和良の思い出がつまったこの物語。
これこそまさに、
泉和良の、泉和良による、泉和良ための物語でしょ。
なんて独りよがり。


けれどもこの物語自体が、そんな独りよがりを肯定している。
フリーウェアゲームをつくっているジスカルドこと泉和良は、
みんなに受けることばかりを考えたゲームをつくっている自分に悩んでいたが、
エレGYという古参のファンとの出会いをきっかけに、
自分がつくっていて楽しい、または誰か一人がやって楽しい、そんなすごく独りよがりなゲームを再び作っていくことになる。

独りよがりだっていいじゃないか。
この物語から見える泉和良の物づくりの基本は、自分とか近しいだれかとかそうした人がおもしろいと思えるものを作っていくことなのだと感じられるから。
そしてそうやって作られたものによってジスカルドは、支持を得てきたのだろうから。

そしてまぁ、誰かがこんなことを言っていたりもする。
「すべての人を等しく公平に尊ぶならば、それは、誰一人として愛さないのと同じこと」と。
すべてを愛そうとしてもきっと、すべてからは愛されない。それでも、誰かを愛せばきっと、誰かから愛される。
ジスカルドも、周りを見すぎて実は周りにいる人を誰一人として見ていなかったのかもしれない。
周りの人を意識しすぎてはしまってきっと、誰も意識していないことになってしまうのだから。


そして、
周りの人を意識しすぎてしまってはきっと、そうした周りの人たちの想像を超えることはできないのだから。

独りよがりだからこそこの恋物語は。私たちの想像を超えて、おもしろい。

2011.06.17

のぞみ
愛されるものって貫いているものなのかもしれませんね! yagi_ponさんの考え、『エレGY』がどんな作品なのか、短い中にも、きちんと書かれているな~って思いました。
さやわか
『エレGY』が独りよがりな話だという、わりとセンセーショナルな書きっぷりはいいと思います。たぶんこれは冒頭の感想から後半の論旨を作りつつ組み立てた文章じゃないかと思うのですが、だからこそ後半はしっかりしている。ただ、前半で冒頭の感想を補強する部分がちょっと弱いかもしれないですな。「だって自分で自分を主人公に書いた物語なんだから」というところは、他にもそういう物語はいっぱいあるので、それだけを理由に独りよがりと言われてもなあ……と思わせちゃうように思います。導入の、とっかかりの部分で読者をノせないと後半まで信じてもらえなくなる恐れがある。これはもったいないと思いますよ。ということで「銅」にします!

本文はここまでです。