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読者レビュー

銅

星海大戦あとがき

未踏の地を照らす一等星

レビュアー:ticheese Warrior

世の中には「あとがき」をまず初めに読む人がいるらしい。または、「あとがき」で本を買うかどうか決める人もいるそうです。『星海大戦』においては、そんな読者は得をしているかもしれません。
なぜなら「あとがき」を読んだ前と後では、『星海大戦』の印象ががらりと変わるはずだから。少なくとも私にはこの「あとがき」が、SFという難解なジャンルを照らす一等星に感じられました。
一等星とまで表現したのは、私の個人的体験が遠因となっています。しかし、そのような体験をした人はそれなりにいるはずで、体験した人はこの星の輝きを感じられるはずなのです。

回想
私には学生時代に音楽が趣味の友人がいました。バンドを組んでいて、洋楽やコアなインディーズのCDを持っているような友人です。
ある時友人は音楽に全く興味のない私に、もっと音楽を聴くよう薦めてきました。彼いわく音楽は人生を豊かにするとか。なら聴いてみるのも、やぶさかではないと思いレンタルCDを求めてTSUTAYAに行きました。そこで私は何となく借りたCDを甚く気に入り、友人にその話をしました。
「この○○ってバンドはめっちゃかっこいいね!」
ろくに音楽の番組も雑誌も見ない私にとって、そのメジャーバンドはとてもかっこよく聴こえたのでした。
そんな私に友人は
「俺そういうの聴かないんだよね(笑)」と一蹴。
冷や水を浴びせかけられた気分になりました。友人にとってその「メジャーバンド」に価値はなく、それを褒めた私も嘲りの対象にしかならないのでした。音楽が人生を豊かにするという言葉には「自分の好きな」という修飾語がついていたのだと、その時気がつきました。

これは音楽の話ですが、初心者を勧誘しておきながら、後に手のひらを返してその無知をあざ笑う者が、サブカルチャーの世界にはどうしようもなく蔓延っていて、その最たるジャンルが音楽とSFだと私は思っています。
音楽は価値観で、SFは知識によって新参者を排除しにかかるのです。
しかし、無知の前で立ち止まる私の前から、『星海大戦あとがき』は玄人ぶった知ったか達を追い払ってくれました。知識なんてなくてもいい。ただ楽しめばいい。そんな声をかけてくれたのです。

これを読んでからなら、あれほど難解な『星海大戦序章』にさほど悩まなくてもいいはずです(私は初めて読んだ際に、理解がついていかず3度も読み返してしまいました)。SFが未知の領域な人に読んでもらいたい、SFを語る人にはもっと読んでもらいたい「あとがき」です。

SFの最前線への道は遠いけれど、『星海大戦』からこの未踏の世界を開拓してみます。

2011.06.01

のぞみ
このレビューで、私勇気を持てました。わかんないことを、堂々とわかんないと伝えること。今、わかってない自分を受け止めること。そんな勇気です!(´・ω・`*)
さやわか
おっ、姫に自信を持たせたレビュー! それだけで価値があります。いや、冗談抜きで人を変える力を持つのがレビューだと僕は思うので、この文章はいいものなのです。「銅」といたします!
のぞみ
私は、あとがきってあまり読まないんですよ。だけど、これからは、あとがきまで読んでみようかなって思いましたわ。
さやわか
唯一気になるのは、ticheeseさんはたぶん、内容に踏み込んでいないからという理由でレビュー対象を「星海大戦あとがき」としたのでしょうが、そこはあまり気にする必要のないポイントだと思います。あとがきまで含めて作品は成り立っているのですから、あとがきについてしか触れてなくたって、堂々と「星海大戦のレビューを書いた」と言っていいのですよ。まあその内容が本編と食い違っていたらダメだと思いますが……。

本文はここまでです。