金の瞳と鉄の剣 第二回
冒険者は年上彼女の夢をみるか
レビュアー:ヨシマル
ヨシマル:寧々さん可愛いなあ。
透谷:あ?
ヨシマル:もうすぐ、誕生日だし、プレゼントも買わないといけないし、ケーキも用意しなきゃいけないし、忙しくなるなあ。
透谷:だから誰だよ、寧々ってのは?
ヨシマル:なんだ、透谷か。ラブプラス知らないの?
透谷:ラブプラス?
ヨシマル:うわっ! 本当に知らないの? 透谷の常識を疑うよ。
透谷:DSに語りかけてるお前に常識とか言われたくねーよ。
ヨシマル:ラブプラスってのは2009年に発売されたニンテンドーDS向けのゲームソフトだよ。ゲームに登場するキャラクターと交際していく恋愛シミュレーションゲームなんだけど、特徴としてはこれまでの主流だった付き合ったらクリアっていうパラダイムだったものが、「ラブプラス」では付き合ってからがメインになってるところかな。
透谷:あ? 恋愛ゲームつったら付き合ったらハッピーエンドじゃないのか?
ヨシマル:「ラブプラス」の本番は付き合ってからなんだよ。そこから寧々さんとの甘い生活が待ってるのさ。
透谷:プレゼントがどうのこうの言ってたやつか。
ヨシマル:そう。ニンテンドーDSには時計機能が内蔵されてるんだけど、それを使って現実の日時や時間に合わせて付き合ってる状態のキャラクターとのイベントが発生するんだ。
透谷:ああ、それで実際に付き合う行為をゲーム上で体験できるってことな。
ヨシマル:そういうこと。ちなみに寧々さんの誕生日は4月20日な。
透谷:レビュー始まって以来のどうでもいい情報だな……。にしても、知らなかったな、そんなゲーム。
ヨシマル:発売から1年以上経つし結構ブームになってたんだけど……。
透谷:まあ、普段俺はゲームしないからな。
ヨシマル:やったことない人には全然伝わらないんだよなあ。
透谷:ハマる人はハマることは分かったよ……。
ヨシマル:透谷も一回やってみれば良さが分かるはずなのになあ。
透谷:プレイしてるお前見てるだけで面白いからしばらくは遠慮するよ。んで、そろそろ本題に入ろうぜ。
ヨシマル:もう、ちょっと待って。
透谷:は?
ヨシマル:今、寧々さん機嫌良いみたいだから。
透谷:いや、ゲームしまえよ。
ヨシマル:だから、もう少しくらいいいじゃん?
透谷:早くしろっつーの!
ヨシマル:はいはい。やればいいんでしょ。
透谷:子供か! ったく。
ヨシマル:今回のレビューは「金の瞳と鉄の剣(以下「金鉄」)」第二回。以前は第一回のレビューだったけど、今回はその続きの第二回。
透谷:今気付いたけど、「金鉄」って副題がないんだな。
ヨシマル:お、本当だ。どおりで第一回とか言うときに苦労するはずだよ。
透谷:話自体は各話ごとに区切りはいいからレビューはしやすいんだけどな。
ヨシマル:単行本化するときはどうなるか楽しみだね。じゃあ、あらすじお願い。
透谷:隣国の戦に『龍殺しの戦士』として参加したタウとキアだったが、敗走してしまう。その途中で二人は蛇苺が生え茂る不思議な場所にたどり着く。怪我を追ったタウを休ませるためにしばらくそこに滞在することにするが……。
ヨシマル:第一回に続いて戦闘描写はほとんどないね。
透谷:そうだな。今回の主題はタウの理想とは何なのかとかその辺りを突き詰めてる感じだな。
ヨシマル:最後にタウは闘争を続けることを否定するような発言までしているし、今回のタウは人間味を全面に押し出してるよね。
透谷:それとは逆にキアは人間離れした特性が描かれてる。睡眠時間を簡単にずらせたり、なにより不思議空間の中で自然に振舞ってる。
ヨシマル:自然に振舞ってるっていう不自然さが際立つって皮肉な感じだね。
透谷:まあ、第二回に関しては、タウの方がアウェーな立場に立たされてるからな。
ヨシマル:言うならば完全に巻き込まれ型の被害者になってる。それにしたがって言えば犯人は――
透谷:ヤ――
ヨシマル:おっと! 関係ない作品のネタバレはそこまでだよ。犯人は妖精で、探偵がキアってところかな。
透谷:今回に限ってはそういう配役だな。けど、前回の第一回の話を踏まえると違った意味合いになる気がする。
ヨシマル:違った意味合い?
透谷:ああ。以前のレビューで「金鉄」『友情物語』って言い表してたけど、俺は別種の印象を持ったんだよ。
ヨシマル:そう? 今回もタウの理想を取り戻すっていうことでは『友情』主体だと思うけど……。
透谷:ああ、物語としてはそうなんだろうけど、俺にはキアの行動とタウとの断絶感を大きく感じたんだ。
ヨシマル:どういうこと?
透谷:ぶっちゃけると、ある種の気まずさを感じた。んで、それがどんな気まずさかって言ったら「ラブプラス」をしてる人を見たときの気まずさなんだよな。
ヨシマル:うん?
透谷:キアは妖精にも『賓の御子』と呼ばれてるくらいタウのような人間とは違うらしい。その根源は『この世の理(ことわり)の外から』来てることによるらしい。そして、逆にこの世の理の中であるタウを『健気な命』として『憧憬』を持っている。
ヨシマル:うーん?
透谷:ここで言う『理』っていうのをゲームの世界と言い換えると分かりやすい。つまり、キアの存在はゲームの世界の外側、現実の世界で、対してタウはゲームの理の内の存在ってことになる。
ヨシマル:ゲームの言葉で言ったらキアがプレイヤーでタウがキャラクターってこと?
透谷:端的に言うとそういうことだな。
ヨシマル:キアがヨシマルでタウが寧々さんってことか!?
透谷:言うと思ったよ!
ヨシマル:それが気まずさに繋がって行くんだね。
透谷:そうだな。例えばキアだけが魔術を使えることも、ゲームのプレイヤーだとしたら当然のことだろ。その世界のキャラクターが知りえないこともプレイヤーなら知っていても不思議じゃない。
ヨシマル:寧々さんと付き合うために攻略本とかを見ることで知識をつけることができるのはゲームの外にいるからだしね。
透谷:タウから見たら信じられないくらい卓越した魔術でも、キアにしてみれば単なる知識の集積でしかない。第二回の冒頭にもそんな描写は見て取れるな。
ヨシマル:ヨシマルが寧々さんの好みをすべて知ってるから寧々さんとしてはビックリしてるだろうな。
透谷:つーわけでプレイヤー=キア、キャラクター=タウって図式が成り立つ。
ヨシマル:そこまでは分かったよ。しかも、一般的な恋愛シミュレーションゲームではなくて「ラブプラス」ってところにも意味がるんだよね。
透谷:第一回のキアのセリフからするとキアの目的がタウのような人間になることではないからな。
ヨシマル:「妖怪人間ベム」とは違うんだね。
透谷:むしろ「ベム」は一般的な恋愛シミュレーションゲームの範疇だろうな。人間になることを主たる目的としてる。
ヨシマル:キアとタウの関係は付き合うことが決まった後のプレイヤーとキャラクターの関係なんだね。その状態から物語が始まってるっていうのも暗示的なのかも。
透谷:「ラブプラス」の特徴の現実の時間に従ってイベントが発生するのも受動的なシステムだからな。キアの行動原理に当てはまる。
ヨシマル:行動を起こすのはタウの方からで、キアはそれに付き合ってる形だね。それはイベント発生日時に合わせてプレイする「ラブプラス」に似てるってことかな。どちらも受動的でありながら積極的なんだ。
透谷:ああ。つまり、キアっていうプレイヤーがタウっていうキャラクターに対してのめり込んでる構図なんだ。没入感っていう観点で「ラブプラス」は特徴付けられるし、キアは実際にタウと同じ世界にいるわけだから最大限に没入してると言える。
ヨシマル:ふんふん。
透谷:それで第二回になる訳だけど――
ヨシマル:本来ならタウの世界だったはずが、今回は妖精の世界になってるのが大きな点なんだね。
透谷:先に言うなよ。まあ、そういうことだな。妖精の存在はキアの方に近い。だから、キアはキアのままだし、タウはいつものタウじゃない。
ヨシマル:寧々さんが現実に現れたら画面の中の寧々さんじゃいられないだろうしね。
透谷:そうするとだ。キアの選択っていうのが俺には単なる友情って言葉で片付けるのはどうかと思うんだ。
ヨシマル:ん?
透谷:妖精の世界ってのはキアのもともとの世界に近いものなんだろ。
ヨシマル:そうだね。
透谷:だとしたら、プレイヤーのキアは限りなく現実に近いところに戻されてるんだ。
ヨシマル:キアにとっての現実だね。「ラブプラス」ならDSに没入してるのではなくて、一線引いて見てる感じかな。
透谷:だからこそ、キアがためらいなくタウを選んだことに気まずさを感じたんだ。まるで自分の現実を否定して、タウの現実に逃げ込んでるようなものだからな。
ヨシマル:「金鉄」の場合、キアの非現実がタウ≒読者の現実だから逃げてる印象は抱きづらいけど、キア=プレイヤーとするとタウ=キャラクターそのものが非現実なんだね。
透谷:レイヤーが違うっていうのがしっくりくるかもしれない。結局キアは非現実を選ぶ。果たしてこれは健全な判断なんだろうか。
ヨシマル:俺は寧々さんと添い遂げる! って言ってるようなものだからね。
透谷:実際、この種の話は「金鉄」に限らず昔からある。そのほとんどはキャラクター世界=非現実な世界を肯定的に捉えることで解決を図ってるけど、それはかなり危うい選択だと思う。俺は妖精がキアに対して固執してしまうのも充分に頷けるんじゃねえかと思う。
ヨシマル:妖精=現実の意見を無視することで自分の我儘を貫き通してるしね。
透谷:ああ。
ヨシマル:まあ、でも、だからこそ、物語の中で本来プレイヤー=キアにとって叶えられない夢を具現化してることにもなるんじゃないかな。キア自身も透谷が提示してる壁を超えられるのかどうか悩み続けてるしね。
透谷:第一回の竜との戦闘でそんなことを言ってたな。
ヨシマル:キアと「ラブプラス」のプレイヤーには決定的な違いもあるしね。キアは完全に実体としてはタウの世界に入り込めてるってこと。この点ではゲームと決定的に違うと言える。
透谷:キアの行動には制限がかからないんだな。
ヨシマル:逆にまだゲームの選択肢は認識出来るほど有限なんだよね。だからキャラクターの行動も同様に制限される。けど、キアにはその制限がないから、タウの応答にも無限の可能性がある。その点において『憧れ』が正当なものである可能性は大きくなるんじゃないかな。それに――
透谷:それに?
ヨシマル:「金鉄」第二回を「ラブプラス」に例えると、DSにハマってたら横からいきなり声かけられてる感じだろ?
透谷:あん?
ヨシマル:しかも、ゲームやめてしっかり働けー! みたいなこと言われる訳だ。そんなこと言われてゲームやめられるかーーーー!!!!
透谷:子供だ!!!!
透谷:あ?
ヨシマル:もうすぐ、誕生日だし、プレゼントも買わないといけないし、ケーキも用意しなきゃいけないし、忙しくなるなあ。
透谷:だから誰だよ、寧々ってのは?
ヨシマル:なんだ、透谷か。ラブプラス知らないの?
透谷:ラブプラス?
ヨシマル:うわっ! 本当に知らないの? 透谷の常識を疑うよ。
透谷:DSに語りかけてるお前に常識とか言われたくねーよ。
ヨシマル:ラブプラスってのは2009年に発売されたニンテンドーDS向けのゲームソフトだよ。ゲームに登場するキャラクターと交際していく恋愛シミュレーションゲームなんだけど、特徴としてはこれまでの主流だった付き合ったらクリアっていうパラダイムだったものが、「ラブプラス」では付き合ってからがメインになってるところかな。
透谷:あ? 恋愛ゲームつったら付き合ったらハッピーエンドじゃないのか?
ヨシマル:「ラブプラス」の本番は付き合ってからなんだよ。そこから寧々さんとの甘い生活が待ってるのさ。
透谷:プレゼントがどうのこうの言ってたやつか。
ヨシマル:そう。ニンテンドーDSには時計機能が内蔵されてるんだけど、それを使って現実の日時や時間に合わせて付き合ってる状態のキャラクターとのイベントが発生するんだ。
透谷:ああ、それで実際に付き合う行為をゲーム上で体験できるってことな。
ヨシマル:そういうこと。ちなみに寧々さんの誕生日は4月20日な。
透谷:レビュー始まって以来のどうでもいい情報だな……。にしても、知らなかったな、そんなゲーム。
ヨシマル:発売から1年以上経つし結構ブームになってたんだけど……。
透谷:まあ、普段俺はゲームしないからな。
ヨシマル:やったことない人には全然伝わらないんだよなあ。
透谷:ハマる人はハマることは分かったよ……。
ヨシマル:透谷も一回やってみれば良さが分かるはずなのになあ。
透谷:プレイしてるお前見てるだけで面白いからしばらくは遠慮するよ。んで、そろそろ本題に入ろうぜ。
ヨシマル:もう、ちょっと待って。
透谷:は?
ヨシマル:今、寧々さん機嫌良いみたいだから。
透谷:いや、ゲームしまえよ。
ヨシマル:だから、もう少しくらいいいじゃん?
透谷:早くしろっつーの!
ヨシマル:はいはい。やればいいんでしょ。
透谷:子供か! ったく。
ヨシマル:今回のレビューは「金の瞳と鉄の剣(以下「金鉄」)」第二回。以前は第一回のレビューだったけど、今回はその続きの第二回。
透谷:今気付いたけど、「金鉄」って副題がないんだな。
ヨシマル:お、本当だ。どおりで第一回とか言うときに苦労するはずだよ。
透谷:話自体は各話ごとに区切りはいいからレビューはしやすいんだけどな。
ヨシマル:単行本化するときはどうなるか楽しみだね。じゃあ、あらすじお願い。
透谷:隣国の戦に『龍殺しの戦士』として参加したタウとキアだったが、敗走してしまう。その途中で二人は蛇苺が生え茂る不思議な場所にたどり着く。怪我を追ったタウを休ませるためにしばらくそこに滞在することにするが……。
ヨシマル:第一回に続いて戦闘描写はほとんどないね。
透谷:そうだな。今回の主題はタウの理想とは何なのかとかその辺りを突き詰めてる感じだな。
ヨシマル:最後にタウは闘争を続けることを否定するような発言までしているし、今回のタウは人間味を全面に押し出してるよね。
透谷:それとは逆にキアは人間離れした特性が描かれてる。睡眠時間を簡単にずらせたり、なにより不思議空間の中で自然に振舞ってる。
ヨシマル:自然に振舞ってるっていう不自然さが際立つって皮肉な感じだね。
透谷:まあ、第二回に関しては、タウの方がアウェーな立場に立たされてるからな。
ヨシマル:言うならば完全に巻き込まれ型の被害者になってる。それにしたがって言えば犯人は――
透谷:ヤ――
ヨシマル:おっと! 関係ない作品のネタバレはそこまでだよ。犯人は妖精で、探偵がキアってところかな。
透谷:今回に限ってはそういう配役だな。けど、前回の第一回の話を踏まえると違った意味合いになる気がする。
ヨシマル:違った意味合い?
透谷:ああ。以前のレビューで「金鉄」『友情物語』って言い表してたけど、俺は別種の印象を持ったんだよ。
ヨシマル:そう? 今回もタウの理想を取り戻すっていうことでは『友情』主体だと思うけど……。
透谷:ああ、物語としてはそうなんだろうけど、俺にはキアの行動とタウとの断絶感を大きく感じたんだ。
ヨシマル:どういうこと?
透谷:ぶっちゃけると、ある種の気まずさを感じた。んで、それがどんな気まずさかって言ったら「ラブプラス」をしてる人を見たときの気まずさなんだよな。
ヨシマル:うん?
透谷:キアは妖精にも『賓の御子』と呼ばれてるくらいタウのような人間とは違うらしい。その根源は『この世の理(ことわり)の外から』来てることによるらしい。そして、逆にこの世の理の中であるタウを『健気な命』として『憧憬』を持っている。
ヨシマル:うーん?
透谷:ここで言う『理』っていうのをゲームの世界と言い換えると分かりやすい。つまり、キアの存在はゲームの世界の外側、現実の世界で、対してタウはゲームの理の内の存在ってことになる。
ヨシマル:ゲームの言葉で言ったらキアがプレイヤーでタウがキャラクターってこと?
透谷:端的に言うとそういうことだな。
ヨシマル:キアがヨシマルでタウが寧々さんってことか!?
透谷:言うと思ったよ!
ヨシマル:それが気まずさに繋がって行くんだね。
透谷:そうだな。例えばキアだけが魔術を使えることも、ゲームのプレイヤーだとしたら当然のことだろ。その世界のキャラクターが知りえないこともプレイヤーなら知っていても不思議じゃない。
ヨシマル:寧々さんと付き合うために攻略本とかを見ることで知識をつけることができるのはゲームの外にいるからだしね。
透谷:タウから見たら信じられないくらい卓越した魔術でも、キアにしてみれば単なる知識の集積でしかない。第二回の冒頭にもそんな描写は見て取れるな。
ヨシマル:ヨシマルが寧々さんの好みをすべて知ってるから寧々さんとしてはビックリしてるだろうな。
透谷:つーわけでプレイヤー=キア、キャラクター=タウって図式が成り立つ。
ヨシマル:そこまでは分かったよ。しかも、一般的な恋愛シミュレーションゲームではなくて「ラブプラス」ってところにも意味がるんだよね。
透谷:第一回のキアのセリフからするとキアの目的がタウのような人間になることではないからな。
ヨシマル:「妖怪人間ベム」とは違うんだね。
透谷:むしろ「ベム」は一般的な恋愛シミュレーションゲームの範疇だろうな。人間になることを主たる目的としてる。
ヨシマル:キアとタウの関係は付き合うことが決まった後のプレイヤーとキャラクターの関係なんだね。その状態から物語が始まってるっていうのも暗示的なのかも。
透谷:「ラブプラス」の特徴の現実の時間に従ってイベントが発生するのも受動的なシステムだからな。キアの行動原理に当てはまる。
ヨシマル:行動を起こすのはタウの方からで、キアはそれに付き合ってる形だね。それはイベント発生日時に合わせてプレイする「ラブプラス」に似てるってことかな。どちらも受動的でありながら積極的なんだ。
透谷:ああ。つまり、キアっていうプレイヤーがタウっていうキャラクターに対してのめり込んでる構図なんだ。没入感っていう観点で「ラブプラス」は特徴付けられるし、キアは実際にタウと同じ世界にいるわけだから最大限に没入してると言える。
ヨシマル:ふんふん。
透谷:それで第二回になる訳だけど――
ヨシマル:本来ならタウの世界だったはずが、今回は妖精の世界になってるのが大きな点なんだね。
透谷:先に言うなよ。まあ、そういうことだな。妖精の存在はキアの方に近い。だから、キアはキアのままだし、タウはいつものタウじゃない。
ヨシマル:寧々さんが現実に現れたら画面の中の寧々さんじゃいられないだろうしね。
透谷:そうするとだ。キアの選択っていうのが俺には単なる友情って言葉で片付けるのはどうかと思うんだ。
ヨシマル:ん?
透谷:妖精の世界ってのはキアのもともとの世界に近いものなんだろ。
ヨシマル:そうだね。
透谷:だとしたら、プレイヤーのキアは限りなく現実に近いところに戻されてるんだ。
ヨシマル:キアにとっての現実だね。「ラブプラス」ならDSに没入してるのではなくて、一線引いて見てる感じかな。
透谷:だからこそ、キアがためらいなくタウを選んだことに気まずさを感じたんだ。まるで自分の現実を否定して、タウの現実に逃げ込んでるようなものだからな。
ヨシマル:「金鉄」の場合、キアの非現実がタウ≒読者の現実だから逃げてる印象は抱きづらいけど、キア=プレイヤーとするとタウ=キャラクターそのものが非現実なんだね。
透谷:レイヤーが違うっていうのがしっくりくるかもしれない。結局キアは非現実を選ぶ。果たしてこれは健全な判断なんだろうか。
ヨシマル:俺は寧々さんと添い遂げる! って言ってるようなものだからね。
透谷:実際、この種の話は「金鉄」に限らず昔からある。そのほとんどはキャラクター世界=非現実な世界を肯定的に捉えることで解決を図ってるけど、それはかなり危うい選択だと思う。俺は妖精がキアに対して固執してしまうのも充分に頷けるんじゃねえかと思う。
ヨシマル:妖精=現実の意見を無視することで自分の我儘を貫き通してるしね。
透谷:ああ。
ヨシマル:まあ、でも、だからこそ、物語の中で本来プレイヤー=キアにとって叶えられない夢を具現化してることにもなるんじゃないかな。キア自身も透谷が提示してる壁を超えられるのかどうか悩み続けてるしね。
透谷:第一回の竜との戦闘でそんなことを言ってたな。
ヨシマル:キアと「ラブプラス」のプレイヤーには決定的な違いもあるしね。キアは完全に実体としてはタウの世界に入り込めてるってこと。この点ではゲームと決定的に違うと言える。
透谷:キアの行動には制限がかからないんだな。
ヨシマル:逆にまだゲームの選択肢は認識出来るほど有限なんだよね。だからキャラクターの行動も同様に制限される。けど、キアにはその制限がないから、タウの応答にも無限の可能性がある。その点において『憧れ』が正当なものである可能性は大きくなるんじゃないかな。それに――
透谷:それに?
ヨシマル:「金鉄」第二回を「ラブプラス」に例えると、DSにハマってたら横からいきなり声かけられてる感じだろ?
透谷:あん?
ヨシマル:しかも、ゲームやめてしっかり働けー! みたいなこと言われる訳だ。そんなこと言われてゲームやめられるかーーーー!!!!
透谷:子供だ!!!!