星海大戦
これまでのあらすじ
レビュアー:matareyo
ツカミが大事!
ってよく言われる。漫才でも合コンでも大統領演説でもなんでも。小説も冒頭のツカミはすっごく大事。例えば、いきなり殺人事件が起きたり、空から美少女が降ってきたり、朝起きたら主人公が虫になっていたりすると、読者としては「ナニゴトか!?」と先が気になる。これで食いついたらこっちのもん。というか作者のもん。
そこで我らが「星海大戦」である。渾身のスペースオペラと銘打たれたこの作品。序章はさぞやド派手な開幕……かと思いきや。
はっきり言って地味です。
この序章は、人類の宇宙への進出、地球外生命体との接触、そしてそれを巡る戦争とその終結の過程を簡潔に描いている。語り口は淡々としていて、まるで歴史書を紐解いているような気分になる。デデーンと冒頭で事件が起きるタイプではない。この物語の舞台はこんな所ですよ、こんな歴史があるんですよ、という世界観を先に提示するタイプの序章だ。けれども、こういう始まり方って結構難しいと思う。読者はまだその物語のことを何も知らない。そんなところへいきなり知らない用語を出されたり設定を長々と語られても読者はついていけない。退屈だよ、パタン、と下手をすれば本を閉じられてしまう可能性だってある。
ところがどっこい。私は「星海大戦」のこの始まり方、正直言って好きです。ワクワクします。
だって「人類社会全体が~」って書き出し始まるんだよ。どんだけ壮大なんだよ、と。全体としても、語り手は未来の時点から過去の事を語る歴史書スタイル、言ってみれば教科書を読んでいるような感じになるんだけど、そこかしこで飽きさせない工夫がある。WBTFという現実の未来にありそうな組織と宇宙進出。蛮勇冒険家、変人研究者などの目を引くキャラクター。地球外生命体との出会いなどなど。教科書っていうつまんないイメージよりも歴史読み物みたいな雰囲気になり、読者の中でこの物語の舞台イメージがだんだんと鮮明になってくる。
そして秀逸なのが《仲間》を巡っての近惑星と遠惑星の戦争だ。これまで沈黙を保っていた《仲間》が旗幟を鮮明にする場面。
「私のために争わないでください」
そして《仲間》は人類に攻撃を仕掛ける。
なんだよそれ!
一人の女を巡って争う二人の男。そこへ「もうやめて!」と割り込んで喧嘩を止める、どころか反撃に出る女。たじたじの男どもは一時休戦、共同戦線で女をなだめる。そんな図が思い浮かぶ。宇宙で戦争してたのに、スケールちっちゃい。なんだかギャグになっちゃった!
このあたり、風刺が利いてるなぁと感じ入るところ。序章最大の見せ場と言っても過言ではない。そんなこんなで戦争は一応は終結する。読者としては長い物語が終わって、ふぅ、と一息。でも物語が始まるのはこれからなんだよ。まだ序章。そう。読者は今まで、これから始まる物語へ至る経緯、すなわち「これまでのあらすじ」を読んでいたに過ぎないんだ。
宇宙という空間、そして歴史という時間。そんな壮大な時空で繰り広げられるスペースオペラ。この時点で読者はこの世界の時空の広がりを十分に理解していることだろう。「これまでのあらすじ」ではその時空で繰り広げられた物語の群れの集積を駆け足で見てきたようなもの。そしてこれから始まる物語は、そんな無数の物語のうちの一つが語られる。今読んでいる物語の他にも動いている物語がある。この物語は確固たる「歴史」の流れの中にある。そんな壮大さを感じることがスペースオペラの醍醐味だと私は思う。この醍醐味のためにはやはり序章でしっかりと世界観を描いたことは効果的だったんだ。これで次の物語への準備もばっちり。
ツカミが大事。少なくとも私はツカまされたよ!
そして序章は次のように締める。
「恩寵暦432年、人類暦2496年。人類社会の紀年法が再び統一されるまで、歴史はまだ時を必要としていた」
否が応にも読者たる私たちは次の物語へとページを繰りたくなる。第一章がすぐそこで待っている。
今までは物語の外側にいた私たち。私たちはここから物語の内側へと、星の海へと飛び込むのだ!
ってよく言われる。漫才でも合コンでも大統領演説でもなんでも。小説も冒頭のツカミはすっごく大事。例えば、いきなり殺人事件が起きたり、空から美少女が降ってきたり、朝起きたら主人公が虫になっていたりすると、読者としては「ナニゴトか!?」と先が気になる。これで食いついたらこっちのもん。というか作者のもん。
そこで我らが「星海大戦」である。渾身のスペースオペラと銘打たれたこの作品。序章はさぞやド派手な開幕……かと思いきや。
はっきり言って地味です。
この序章は、人類の宇宙への進出、地球外生命体との接触、そしてそれを巡る戦争とその終結の過程を簡潔に描いている。語り口は淡々としていて、まるで歴史書を紐解いているような気分になる。デデーンと冒頭で事件が起きるタイプではない。この物語の舞台はこんな所ですよ、こんな歴史があるんですよ、という世界観を先に提示するタイプの序章だ。けれども、こういう始まり方って結構難しいと思う。読者はまだその物語のことを何も知らない。そんなところへいきなり知らない用語を出されたり設定を長々と語られても読者はついていけない。退屈だよ、パタン、と下手をすれば本を閉じられてしまう可能性だってある。
ところがどっこい。私は「星海大戦」のこの始まり方、正直言って好きです。ワクワクします。
だって「人類社会全体が~」って書き出し始まるんだよ。どんだけ壮大なんだよ、と。全体としても、語り手は未来の時点から過去の事を語る歴史書スタイル、言ってみれば教科書を読んでいるような感じになるんだけど、そこかしこで飽きさせない工夫がある。WBTFという現実の未来にありそうな組織と宇宙進出。蛮勇冒険家、変人研究者などの目を引くキャラクター。地球外生命体との出会いなどなど。教科書っていうつまんないイメージよりも歴史読み物みたいな雰囲気になり、読者の中でこの物語の舞台イメージがだんだんと鮮明になってくる。
そして秀逸なのが《仲間》を巡っての近惑星と遠惑星の戦争だ。これまで沈黙を保っていた《仲間》が旗幟を鮮明にする場面。
「私のために争わないでください」
そして《仲間》は人類に攻撃を仕掛ける。
なんだよそれ!
一人の女を巡って争う二人の男。そこへ「もうやめて!」と割り込んで喧嘩を止める、どころか反撃に出る女。たじたじの男どもは一時休戦、共同戦線で女をなだめる。そんな図が思い浮かぶ。宇宙で戦争してたのに、スケールちっちゃい。なんだかギャグになっちゃった!
このあたり、風刺が利いてるなぁと感じ入るところ。序章最大の見せ場と言っても過言ではない。そんなこんなで戦争は一応は終結する。読者としては長い物語が終わって、ふぅ、と一息。でも物語が始まるのはこれからなんだよ。まだ序章。そう。読者は今まで、これから始まる物語へ至る経緯、すなわち「これまでのあらすじ」を読んでいたに過ぎないんだ。
宇宙という空間、そして歴史という時間。そんな壮大な時空で繰り広げられるスペースオペラ。この時点で読者はこの世界の時空の広がりを十分に理解していることだろう。「これまでのあらすじ」ではその時空で繰り広げられた物語の群れの集積を駆け足で見てきたようなもの。そしてこれから始まる物語は、そんな無数の物語のうちの一つが語られる。今読んでいる物語の他にも動いている物語がある。この物語は確固たる「歴史」の流れの中にある。そんな壮大さを感じることがスペースオペラの醍醐味だと私は思う。この醍醐味のためにはやはり序章でしっかりと世界観を描いたことは効果的だったんだ。これで次の物語への準備もばっちり。
ツカミが大事。少なくとも私はツカまされたよ!
そして序章は次のように締める。
「恩寵暦432年、人類暦2496年。人類社会の紀年法が再び統一されるまで、歴史はまだ時を必要としていた」
否が応にも読者たる私たちは次の物語へとページを繰りたくなる。第一章がすぐそこで待っている。
今までは物語の外側にいた私たち。私たちはここから物語の内側へと、星の海へと飛び込むのだ!