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読者レビュー

鉄

坂本真綾の満月朗読館

一歩目は慎重に、たとえそこから走り出すとしても。

レビュアー:yagi_pon Novice

星海社のすべての活動がレビュー対象という事なので、そのまま「星海社の活動」をレビューしたいと思う。

注目したのが、星海社初めてのイベント「坂本真綾の満月朗読館」、そして星海社初めての出版物である「星海社文庫」について。「満月朗読館」については正直、イベント自体ではないが、この二つには共通している点がある。
それは、始まりがオリジナルの作品ではないということ。「満月朗読館」では、『銀河鉄道の夜』と『山月記』が配信され、「星海社文庫」では、『ひぐらしのなく頃に』と『Fate/Zero』が発売された。今後オリジナルの作品が控えているのにもかかわらず、あえて原作のある作品を選択した意図はなんなのだろうか?

「星海社文庫」についてはおそらく、星海社にとって出版物が広告の役割も果たしているからだろう。『ひぐらしのなく頃に』と『Fate/Zero』というビックタイトルは、間違いなく売れる。最初の本が売れればそれだけで宣伝になるわけで、「星海社」という名前が売れれば売れるだけ、次のオリジナルの本が売りやすくなる。
だからこそのビックタイトル。完結しているから安心して手を伸ばすことができるし、ネームバリューもある。そして、『Fate/Zero』アニメ化のおまけ付き。この選択は間違いなく賢いものだと思う。
けれども、『銀河鉄道の夜』と『山月記』にはそれは当てはまらない。たしかに名作ではあるけれど、ビックタイトルではない。作品よりはむしろ企画の方が話題としては大きいだろう。この点は「星海社文庫」とはまったく逆である。「星海社文庫」はおそらく、文庫自体よりも作品自体の方が話題になるだろう。

そんな二つの企画が同じように原作のある作品を選択したのは、やはり「安心」が大きいのではないだろうか。「星海社文庫」は、売れること間違いなしの選択をした。そして、「満月朗読館」は、満月の夜に朗読する本が『銀河鉄道の夜』という、誰もが納得の選択。
非常に安心して見ていられる。だが、「何が飛び出すか誰にもわからない!」を謳い文句にしている「最前線」が両輪の片方である星海社が、安心の選択をしていることに少しガッカリしてしまう。それとも、「挑戦」と「安心」が両輪なのだろうか?
しかし、実際ビジネスとして考えれば安心できるコンテンツがないとなかなかやっていけないわけで。そういう意味では、「安心」があるからこそ、「挑戦」できると言えなくもない。
「紙」と「デジタル」が両輪であるように、「安心」と「挑戦」もまた両輪なのだろう。その4つが四輪駆動のように動き、星海社の活動が出版界の中でパワフルな走りになることを期待したい。

yagi_pon
☆☆

2011.03.01

さやわか
第一場で2つのレビューを掲載させていただいた、yagi_ponさんのレビューです。今回yagi_ponさんが送ってきてくださったものは分析的な調子を前に出した感じがあって、そのぶんストレートな愛情の表明みたいなものを回避しているように感じました。もちろん、ストレートに出すのが正しいわけではないですが、そうなると論理性がかなりしっかり組み立てられていないと、読み手としてもドライな態度になってくるのですな。そんなわけで僕には『銀河鉄道の夜』や『山月記』を名作ではあるけれど、ビッグタイトルではないとすることの根拠がちょっと伝わらなかったです。たとえば『銀河鉄道の夜』は80年も前から版を重ね、さまざまなメディアミックスをされている超ビッグタイトルだと言うこともできます。逆の立場から言うと、これらが単に「過去の名作」であって現在のビッグタイトルと呼べないのであれば、それをネット配信することが「誰もが納得の選択。非常に安心して見ていられる」ということはできない、むしろ星海社は非常にリスキーな選択をしている、ということになるかもしれません。だって「誰もが納得の選択」をしたければビッグタイトルを配信した方がずっといいですよね。そんなわけで、なかなかどうして! 「鉄」とさせていただきました!

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