ここから本文です。

レビュー講座

好きな作品について書くということ

レビュアー:さやわか

ちっす! さやわかです。

さて、『さやわかの星海社レビュアー騎士団』二回目のレビュー応募締め切りが迫ってきましたよ! 今週の日曜まで! 前回は担当編集者氏に「こんなにレビュー投稿が来るなら、募集期間をもっと短くしないと来すぎて大変になるんじゃないですか」と心配されましたが、やっぱ足りないよ! いや、ウソ、足りないことはないけど、もっとあってもいいんだぜ! ということでじゃんじゃん送っていただければ。条件は一文字以上であることだけ。誰かが作品を読んでどう思ったかって、読んでて面白いし!

しかし、レビューってどう書けばいいんだろうね? 当面、皆さんにおかれましては、そんなこと考えずにポンポン送っていただいてかまわないのですし(そのほうがありがたい)、だからこその「一文字以上」ルールなわけですが、僕がそれじゃだめですよね。僕自身がレビューとは何かはっきりした考えを持っていないと、こんなコーナー、ナメてんのかよお前、ということになります。

たとえば僕はレビュアー騎士団のルールに「愛情」「論理性」「発展性」と書いたんだけど、「僕はとにかくこの話が好きなんです」「セイバーかわいいです」ということを書いただけでは、「愛情」を満たしたことにはならないのではないかなあ、という一つの考えがあります。それはレビューっていうのとは何か違う気がする。だって、単に「好きだ」ということが書かれた文章って「レビュー」じゃなくても、他にもあるもんね? たとえばそれは、感想文とかラブレター(はちょっと違うかもだけど)とか、その他もろもろの名前で呼ばれてもいいようなものだ。しかし、これが「レビュー」と呼ばれる文章であるためには、そういうものとは一線を画した部分がなきゃいけない。

その違いについて、僕はレビューなら、全く知らない誰かに、その作品が自分の心を動かしうるものだっていうことを「伝えるもの」になるんじゃないかなって思う。たとえ、その愛情がその作品自体に対して向けられていなくても構わない。しかし、何らかの愛情に基づいて書かれていて、それを他人に伝えたくて「レビュー」は書かれている。愛情を書いたものじゃなくて、愛情を伝えるもの。少なくとも僕はそんなふうに思う。

そうであるがゆえになんだけど、大好きな作品を「レビュー」するのは案外難しい。たとえば僕は『Fate/Zero』が大好きなんだけど、僕はこの作品について話す時、そして文章を書く時、愛情を「他人に伝える」のではなしに、単に愛情を「垂れ流す」ようになってしまうかもしれない。特に『Fate/Zero』は『Fate/stay night』の二時創作的な作品で、僕は『Fate/stay night』も好きだから、僕がこの作品を楽しめる理由は、単に自分自身がこの作品世界にどっぷりはまってるからじゃないか? という疑念をぬぐうことができない。

違う言い方をすると、『Fate/stay night』を知らない人がこの話を読んで、僕と同じくらい楽しめるのかどうか、僕にはもう、わからない(だって既にこの話を知っているのだから)。そのことを忘れて、僕は「みんながこの作品を楽しめるんだ!」という前提で『Fate/Zero』への愛情を書き散らしても、知らない人にとっては、何のことやらわからない。僕がある作品についてレビューを書くなら、僕がそれについて知っていることのすべてをいったん脇に置いて、初めてこれを読む人に寄り添って、書かねばならないだろう。

だから、僕はこの文庫を慎重に読んだ。僕がこの話を既に知っているということを抜きにして、読んだ。第一巻というのはとても大切な巻で、全くこの作品を知らなかった人がこの世界に入ってこようとするのだ。たとえば聖杯戦争とかサーヴァントという設定について、僕はわくわくしながら読めるけど、この作品は初めて読む人でもわかるように十分な説明が加えられているのだろうか?

もちろん、そうであってほしいと思うのは、もっと多くの人にこの作品を読んでもらいたいからだ。そして、とりあえず僕が見る限りでは、初見の人にもわかるような話だったと思う。しかも文庫の最後には、作者の虚淵玄による「あとがき」があって(これは予見していなかったので思わぬサプライズだった)、そこにはこう書かれていた。

(…)こちらの意図とはまったく異なった展開――まず先にFate/Zeroを読み、それが契機となって原典に関心を懐き、Fate/stay nightをプレイしたという人が、ことのほか多かったことである。

ならば大丈夫、この作品は『Fate/stay night』を知らなくても楽しめるのだ。よかった。そうであるなら、新しい読者が『Fate』という広大な世界に入っていく入り口として、この作品は最高であると自信を持って言える。だから僕はこの本を読んだことのないあなたにも、きっと楽しんでもらえるよって言いたい。きっと期間限定なんだろうけど、今なら第一巻が全文公開されているから、ぜひ手を出してみてくれたらうれしい(ウェブだとさっき引用した「あとがき」は読めないみたいだけど)。この世界は相当に楽しいので、早く読んでほしいなあ。

でも、それは自分の思い込みじゃないだろうか? 僕自身が『Fate』を好きだから、評価が甘くなってるんじゃないかな? 大丈夫かな? そう考えてしまうほど僕は心配性だ。だから、この話を初めて読んで、何かよくわかんなかったよっていう人とも、僕は少し話し合ってみたい気もするのだ。そして、一緒にこの作品について考えてみたい。そういうのって楽しいもの。個々の作品への思いを抜きにして、僕はそういう行為にこそ、愛情があるのかもしれない。

2011.02.17


本文はここまでです。