ここから本文です。

読者レビュー

銅

星海社文庫

未踏の海への進路を切り開かんとする、新たな文庫形態

レビュアー:オリミ

始動以来、主にウェブサイト『最前線』で活動していた星海社による、初の紙媒体での出版物。

それが星海社文庫である。
『小さな愛蔵版』という方針を掲げ、きらめく星の海を往く、濃密な物語が詰め込まれた古今無比の宝箱。

その第一陣が発売されるやいなや、私は書店に駆け込みノーシンキングで購入した。

期待と高揚に胸を膨らませながら自宅に帰り、さっそく『Fate/Zero』から取り掛かることにする。同人誌版は読了済みだが、文庫になったということで改めて読み直したくなった。

内容に目を通す前に、まずカバーの折り返しスペースの広さに驚く。幅広い。これだけ広ければ、様々なイラストを載せることが可能だ。本の中身だけでなく、こんなところでも読者を楽しませようとする細かな配慮を感じる。

ページをめくって読み進めてみる。
高級本文用紙を用いたことにより、カラーイラスト・図版・写真の類がシームレスに楽しめるとは耳にしていたが、同人誌版であった冒頭のステータス表示やモノクロの挿絵がなくなっているのはいただけない。

本分のフォントは凛々しく緊張感の漂うもので、クラシカルな時代性とフレッシュな現代性が両立する格調高い味わいとなっている。姿勢を正して読むのもよし、ベッドに寝転がって読むのもよしと、リーダビリティは高水準である。

出版されている文庫の中でも一部にしか施されていないスピン&天アンカットが星海社文庫の特徴の一つだが、このスピンが大きくて個人的には使いづらい。星海社のロゴを入れることで、デザインとしては高級感溢れる体裁かもしれないが、幅が広いので本が少々閉じづらく、機能性が今一つ欠けている。

他の出版社に比べて、かなり手間暇をかけた造本だというのはひしひしと伝わった。文庫形態の概念を塗り替える挑戦的な装丁――星の海を渡るに相応しい一歩である。

だが、ここからが真に肝要なところだろう。ただ出版しただけで満足しきってはいけないはずだ。冒険とは旅立つだけでは意味がなく、何かしらの成果を得なくてはいけない。

これから先、星海社文庫はどのような輝きを見せてくれるのだろう。中途で力尽き挫折に終わってしまうのか、それとも、未だ人々が辿り着き得ない新世界へと我々を導くのか。

――今後とも、星海社の動向から目が離せない。

2011.02.10

さやわか
さて「星海社文庫」自体のレビュー、もう一件ということですな。
のぞみ
本の内容じゃなくて、本自体に目をつけたのですね!!
さやわか
そういうことですな。こっちのオリミさんのレビューは、さっきのyagi_ponさんのレビューに比べて、ちょっと叱咤激励するような調子がありますな。批判的とまではいかないけど、だがたとえ徹底的な批判であっても、いいレビューならレビュアー騎士団は載せちゃうぜ! このオリミさんのレビューも、僕は好きです。
のぞみ
「冒険とは~」のところの比喩が好きです。
さやわか
僕は「書店に駆け込みノーシンキングで購入した」っていう言い回しが、自分で使ってみたいくらいに好きですなー。ちょいとした部分の言葉遣いに才覚が感じられます。しかしここでは「銅」にしました。さっきのyagi_ponさんの方に書きましたけど、「物」についてのレビューって、やっぱり難しいのですよ。なぜかというと、そのプロダクトが合理的に考えて使い勝手がいいかどうかということに論点が集中しちゃうことが多いんです。レビューって、買おうとしている人が参考にするものだからそれでいいのでしょうか。でもじゃあ僕らは、これを道具として評価してるんですかね? それとも作品として? いやそもそも僕らは愛情の話がしたかったのか、もしくは何について?……と考え出すと止まらなくなってしまうのです。オリミさんのレビューは最終的に「発展性」に向けて論を進めていて、その姿勢はとても正しいんですが、どうしても最初のスタンスの取り方の難しさが最後まで残る。うーむ、難しい! いや、皆さんも、「なるほどおおおおお!」と僕がショック死するような、「物」についてのレビュー、ぜひお送りください。

本文はここまでです。