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「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館 銀河鉄道の夜 第9章「ジョバンニの切符」

想像力の固溶体

レビュアー:Panzerkeil AdeptAdept

 宮沢賢治の代表作と言える「銀河鉄道の夜」を坂本真綾さんが朗読したCD、そしてカラーイラスト付きの冊子がセットになっています。
 ただ、「銀河鉄道の夜」を全て収録している訳ではなく第9章の「ジョバンニの切符」のみです。でも、この「銀河鉄道の夜」の最終章は非常に長く、物語の約半分を占めるものですので、朗読も1時間を越えています。
 「銀河鉄道の夜」は作品そのものが有名ですし、色々な作品に影響を与えています。すぐに思いつくのは、漫画やアニメになった「銀河鉄道999」あたりでしょうか、アニメといえば「輪るピングドラム」もそうでした。他にも映画や演劇にもなっています。
 私は子供の頃から何回も、それこそ数え切れないくらい「銀河鉄道の夜」を色々な本で読んでいますが、朗読というのは初めてでした。
 坂本真綾さんの朗読は、落ち着いたしっとりした声質で、非常にシンプルな雰囲気ですが、元の文章の色彩感が浮かび上がる感じであり、文字とはまた異なったイメージが頭に残りました。
 もちろん、朗読だけでなく、本文を冊子で読むことも可能です。濃紺を基調とした背景に、幻灯のように広がるカラフルなイラストはとても新鮮でした。蒼い髪、桃色の髪の子供のどちらがジョバンニでカムパネルラなのか少し考えてしまいましたが。
 星座版を持っている、桃色の髪の子供がカムパネルラなのでしょうが、いままで典型的な優等生タイプの男の子としてイメージしてきたので、この女の子のような姿はちょっと衝撃的でした。
 もっとも観ているうちに似合っている気がしてくるのは不思議なものですね。
 朗読館に収録されているのは第9章のみですが、これを選択したのには意味があると考えます。この章は長いというだけでなく、この作品のテーマの根幹をなす部分であるからです。
 主人公であるジョバンニは、父親の行方不明の理由を取り沙汰されて学校で孤立しており、いわば「いじめ」を受けています。友人のカムパネルラは同情的ですが、積極的に味方をしてくれる訳ではありません。
 ジョバンニは母親を大切にするし、他人への思いやりもある良い子なのですが、孤独感から、屈折した想いに左右される不安定な心理状態にあります。
 そんな彼がふと気がつくと、本当の河川のような、宇宙の銀河にそって走る列車に、カムパネルラと一緒に乗っていたというのが前段です。最初は友人との楽しい旅だったのですが、この第9章ではそれが変質してきます。
 明らかにタイタニックをモデルとしている、客船の遭難者である少年と少女、そしてその家庭教師の青年の登場により、銀河鉄道は死者を天上あるいは黄泉の世界に運ぶ一方通行の存在である事が、判ってきます。
 基本は、ジョバンニという少年の成長物語ですが、宮沢賢治はジョバンニがいかにして自らを救済するか、という点に非常に苦労したようです。それどころか、この物語は完成していないのです。
 この作品に完成原稿はなく、現在の研究では、宮沢賢治はこの作品を三回書き直しているのですが、大半がこの9章に集中しています。
 最後のカムパネルラとの別れは、何度読んでも最初の感動が蘇ります。むしろ未完だからこそ、少年の物語に相応しいのかもしれませんね。
 この作品だけではないのですが「銀河鉄道の夜」は、宮沢賢治の自然科学のしっかりとした素養に裏付けされた緻密な背景描写も特徴です。銀河鉄道の経路は、実際の銀河と天体の相対関係を反映しています。天文学だけではなく、地質学や鉱物学等々の知識があれば、更に楽しみが広がります。
 かつて、宮沢賢治の作品は文学的、あるいは思想的側面からのみ評価されていましたが、近年は自然科学畑の人々が、宮沢賢治の作品が自然科学と豊かなイマジネーションの融合である事を発見しており、解説書も多く出ています。

さて、物語の第1章から、また読み返えすとしましょう。

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2013.07.08

「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館『銀河鉄道の夜』 第9章「ジョバンニの切符」

物語る声にひたって

レビュアー:横浜県 AdeptAdept

朗読館『銀河鉄道の夜』は第9章「ジョバンニの切符」から始まる。ジョバンニとカムパネルラは、もう銀河鉄道に乗っている。それは宇宙を走っている。『銀河鉄道の夜』を未読の人は少ない。僕もあらすじを覚えている。でもいきなり第9章を読んだって、状況を理解できるわけがない。僕はページをめくりつつ、銀河鉄道の内部を少しずつ思い描く。しかしこの想像という作業は疲れる。物語を無理に途中から追うような機会は普通ないのだから。そこで僕は付属のCDを聴こうとする。坂本真綾の心地よい朗読が始まる。自分で物語の風景を考えることをやめて、流れてくる言葉にひたすら身を任せる。彼女が「ごらんなさい」と言う。「あれが名高いアルビレオの観測所です」すると頭の中に観測所が現れる。「黒い」と言う。脳内の観測所が黒くなる。「大きな」大きくなる。「四棟」四つになる。僕は何も考えない。ただ彼女の声に聴き入り、受け流されるままでいる。それでも銀河鉄道は、ジョバンニとカムパネルラは、だんだんと形作られていった。そうやって僕はいつものように、物語の世界へと没入していく。朗読館が第9章から始まるということは、むしろ素敵なことなのかもしれない。朗読がもつ力、読者の想像を自然に喚起する力。それをいっそう味わうための趣向であるようにすら思えた。やがて「もう一目散に河原を街の方へ走りました」と最後に彼女は読み上げた。ジョバンニが走り出した。そしてCDが止まったそのとき、頭の中のスクリーンには幕が下ろされた。

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2012.05.18

「星海社朗読館」のレビュー

銅

「山月記」ミギーさんの絵について

その絵の裏側にあるもの

レビュアー:zonby AdeptAdept

柔らかい感じ。
儚くて、暖かい感じ。
可愛らしいキャラクター。
多くの人がミギーさんの絵を見た時に感じるのは、そんな感想だろうか。
私の第一印象もそうだった。
だが、何枚もミギーさんの絵を見ている内にその印象は払拭され、むしろそんな印象しかもてなかった自分を恥ずかしいと今は感じている。

柔らかでさりげない色使い。絶妙なぼかし。
満月朗読館『山月記』にてイラストを担当したミギーさんの絵は、一見さらりと口当たりよく、見る者にガツンとした衝撃を与える画風ではない。
人物を形取る、ラフな線。色同士のぼかしなどは偶然性によって生み出されたものであるようにも見えるし、人物や動物を描いたページはまだしも草だけがページの端から幾本か飛び出すように描かれたところなど、ともすれば誰でも描けるのではないかと思うくらい、慎ましい。

だが私は断言する。
それは錯覚であると。
満月朗読館『山月記』の中に使用されている絵の一枚一枚には、恐ろしい程の計算が働いている。その計算を計算として見せないところが、またそれらの絵の凄さなのだ。

私がミギーさんの描く絵を見て感じるのは、冷徹な視線だ。
職人的とも言える、とても醒めた視線。
頭の中にある絵を、紙に再現するために働く計算(無意識にしろ、意識的にしろ)は、狂いを許さない。
紙。と。絵の具。と。水。と。時間。
その関係性を、絵は容赦なくミギーさんに求めてくるはずだから。

それはミギーさんがアナログな絵を描いていることにもゆえんすると思う。
アナログとは、紙に水彩や鉛筆など従来の方法で絵を描くことだ。
反対に、今やメジャーとなったパソコンでフォトショップやSAI、ペインターなどのアプリケーションを使用して絵を描く方法をデジタルと呼称する。

この二つの大きな違いは、「失敗できない」という点だろう。
アナログは大きな間違いをしない限り、誤魔化しはきく。だが、デジタルのように失敗をなかったことには絶対にできないのだ。
また、ある程度途中で画質や効果の変更ができるデジタルに比べ、アナログ(ミギーさんの水彩画の場合は)紙と絵の具とそれをとく水。そして時間の選択が、重要になり筆をおく瞬間瞬間が勝負になる。
紙。
紙にはいくつもの種類がある。吸水性の程度も紙によって変わるし、絵の具ののりや広がりを決定づける一つ目の要因だ。
絵の具。
水彩絵の具の扱いは繊細だ。筆にのせ過ぎれば色が強くなり過ぎる。混ぜ過ぎれば濁る。同じ色を二度
作ることは難しい。
水。
水は紙の表面を時として痛める。絵の具を溶けた水を使えば、絵の具に色が混ざる。水彩を描くのに必要不可欠なものではあるが、それだけに扱いに気をつけねば絵を台無しにしてしまうこともある。
最後に時間。
目には見えない。自分の感覚だけが頼りだ。水彩には乾きの時間がある。紙にのせた絵の具が乾く前に次の色をのせれば混ざってしまうし、反対にあえて色を混ぜたい時に時間を図り間違えれば、不自然なものになってしまう。特にぼかしの技法には、この見極めが完成度を左右する場合もある。

ミギーさんはそれら四つの要素と向き合い、一枚の絵を描き出していると私は感じるのだ。
それらに対峙し、冷徹に見極めているからこそ、あの絵が生み出されるのだ。
アナログで描かれた絵は、私にその描かれた裏側を。絵にかけられた時間を問うてくる。
ミギーさんの描く絵はそういう絵だと思う。

文章を読むのも良いが、絵も見て欲しい。
絵に込められた緻密な計算を。
ミギーさんの絵にかける冷徹な目を。
紙と絵の具と水と。
そしてそこにかけられた時間と。

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2012.02.18

「星海社朗読館」のレビュー

銀

星海社朗読館『山月記』

調和の先にあるもの

レビュアー:横浜県 AdeptAdept

初めて表紙絵をみたとき、僕は少し首を捻った。
ミギーさんのイラストは確かに素晴らしかった。絵に造詣の深くない僕ですら、思わず「あぁ、これはいい」とつぶやいたほどだった。
でも一方で、どこか納得のいかない気持ちがあった。
僕の知っている『山月記』とは違う、そう思ったのだ。

『山月記』とは言わずと知れた中島敦の短編小説であり、多くの国語教科書にも掲載されているので、読まれたことのある方も多いはずだ。
唐代の役人・李徴が詩人を志すもうまくいかずにやがて失踪。のち虎となった姿で旧友の袁え朕と再開し、己の悔恨や執着の念を語る物語である。
「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」という一節が有名であり、美しい漢文調によって描かれているのが特徴だ。

そんな『山月記』の表紙を飾るにしては、この絵が少し優しすぎるように感じられたのだ。
水彩画から浮かび上がってくる暖かさ。それはイラストを鑑賞することにおいて僕を幸せにさせた。けれど馴染みの薄い熟語やルビが溢れ、教訓的な内容を含む『山月記』がもつ硬さには、どこかマッチしない気がしていた。
試しに新潮文庫版の表紙を参考にしてみれば、そこには厳つい顔をした虎が描かれているではないか。

ところが僕のこのような考えは、朗読CDの再生を機に一変する。
坂本真綾さんの声で読み上げられたその物語は、表紙のイラスト同様に、暖かかった、のである。
彼女の高く透き通った声は、李徴の「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」を繊細に演じあげる。僕の耳に届いた物語は、硬く難解なものではなく、親しみやすく洗練された『山月記』だった。
一字一句違わないはずなのに、僕の知っている『山月記』とは違う、もう一つの『山月記』がそこに立ち現われてきたのだ。

そして彼女の美しい朗読に、ミギーさんのイラストはこれでもかと言わんばかりに調和していた。
『山月記』に表紙絵「が」マッチしていなかったのではなかった。僕の思い描いていた『山月記』が、表紙絵「に」マッチしていなかったのだ。
文学作品には無数の解釈や表現があるという当然の事実を、どうやら僕は失念していたようだったし、これではっきりと思いだすことができた。

さらには星海社朗読館の一作品としての完成度の高さにも驚かされてしまった。
中島敦の美しい物語を、坂本真綾さんが巧みに朗読する。ブックレットにはミギーさんの精巧なイラスト。それらは一寸の狂いもなく融和し、星海社朗読館として、一つの表現を『山月記』に与える。それは僕にとって、いままで見たことのないような、優しい『山月記』であった。
「文学×朗読×イラスト それは新しい文学体験」
箱に記された言葉の意味を、僕はいま噛みしめている。

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2012.01.30

「星海社朗読館」のレビュー

銀

星海社朗読館「ベッドタイム・ストーリー」

物語に添えられた40枚のイラスト(そのうちの一枚、「目のイラスト」について)

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

 この本には、朗読が収録されたCDと、朗読本文が載ったブックレットの二つがついている。
 坂本真綾さんの朗読は、登場人物二人の呼吸の演じ分けがとても素晴らしく、聴いているうちに、次の言葉、次の言葉へと意識が集中し、語りに引き込まれていく。とてもいい朗読だと思う。
 けれど、他に特筆しておきたいことがある。ブックレットの完成度だ。
 本文中に挿入される多数のイラストは、物語の細部を彩っていく。
 例えば、本文にはこんな文章がある。

「いつのまにか、埃と、それを追いかける私の視線の関係が、逆転していたのです。埃のほうが、私の視線を追いかけ、右をむけば、埃も右に行き、左を向けば、埃も左についていくのです。意識を集中させると、埃をおもいのままにあやつって、空中で文字を書くことだってできました。」

 ヒロインの椎名が自分の超能力を説明するくだりの文章だ。なんてことのない身体の動きの描写で、不思議な現象の一端を説明している。イメージしやすい動きなので、椎名の超能力を理解しやすいし、受け入れやすい。

 そして、きっとこんな風に目をきょろきょろさせたのだろうな、と頭でその動きを思い描きながらページをめくると、果たして、そこには椎名が超能力でサッカーボールを動かそうと、視線を左右に動かしているイラストがあって驚いた。私のイメージ通りの動きが、いや、それ以上に説得力のある眼球の導線が見えてきて、私の中で椎名という女の子と、彼女が持つ「離れた物を動かす超能力」の存在感が確かなものになった。

 その挿絵は、目元だけをアップにして描いた三つのイラストを並べたものだった。ページの上部に、文章の邪魔にならない程度の大きさで添えられていた。たったそれだけの絵で、私の感情は動かされた。イラストの釣巻和さんと、ブックレットの装丁を担当された編集者の方の力量はたいしたものだと思う。
 
 これ以外にも、『ベッドタイム・ストーリー』のブックレットには目を引くイラストが多い。数えたところ、全部で40枚のイラストがあった。ここですべて挙げていくには、あまりに多い。是非、本書を実際に手にとって確認してほしい。

 これまでの同シリーズ作品のブックレットも優れていた。しかし、これは頭一つ抜けているのではないかと思う。
 部屋の暗さや、二人の間の沈黙や、遠い遠い宇宙の手触りがこの本から感じられるのは、やはりイラストと装丁の持つ力が大きいと感じる。
 
 朗読CDとしても、小説作品としても、『ベッドタイム・ストーリー』は良い本だと思う。
 この本を買って良かったし、次の作品もきっと買う。

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2011.09.30

「星海社朗読館」のレビュー

銅

『銀河鉄道の夜』

未来をこの手に part.2

レビュアー:yagi_pon NoviceNovice

星海社朗読館の本の中でも、今のところ一番好きなのは『銀河鉄道の夜』。この本は特に、ページをめくるたびに目に飛び込んでくる色が変化して、楽しい。それはまるで、トンネルを抜けたら景色が一変しているみたいに、変化を目で楽しむことができる。
もちろん、朗読館は本とCDがついているから、読んで楽しむこともできるし、聴いて楽しむこともできる。けれど意外と侮ってはいけないというか、むしろ私が一番推したいのは、この見て楽しめるというところ。絵本でもマンガでも画集でもないのに、見ていて楽しいというのは初体験だった。
というかすごいよ!ぜひ一度体験してみてほしい。きっとテレビが白黒からカラーになったとき、世の中の人はこんな感じの驚きだったんだろうなぁ。それくらいの進化!なんというか、未来の本!
文章を読んで、朗読を聴いて、イラストを見て、背景を見て、様々な角度から、この本を感じてほしい。読むことしかできなかった本というものがここまで進化したのか、というくらい進化したこの本を、ぜひあなたの手にも。

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2011.09.30

「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館 ベッドタイム・ストーリー

朗読と黙読

レビュアー:ticheese WarriorWarrior

 『星海社朗読館』の朗読CDをPCに取り込み、PCからipodに移す。ipodにイヤホンのプラグを差し、耳にイヤホンをハメて手には黙読用の本を持って布団に潜り込む。『星海社朗読館』の最初の楽しみ方だ。

 本は朗読と一緒に文字を追う為に持つ。一言一句を味わう為に。

 けれど、もう3作目になる『星海社朗読館』は前の2作と違っていた。

 朗読と黙読を一緒にできない。

 考えてみると『ベッドタイム・ストーリー』は『星海社朗読館』の前2作とは少し趣が異なる。まずは現代の文章で書かれていること。だから目で文字を追うスピードが慣れていて早くなる。次に星海社が初出しの作品であること。初めて読む作品だから続きを待ちきれない子供の様に朗読を置いて先に進んでしまう。
 ただ読むだけでなく、登場人物の感情も取り込んで、間もとる坂本真綾さんの朗読とはどうしても連動させることができなかった。

 私は本と朗読を同時に味わうのをあきらめて、朗読だけを最初に聞き終えてしまうことにした。目をつぶって1番リラックスした状態で耳を澄ます。

 すると自分が思っていたよりも、はるかに坂本真綾さんの朗読はすっと自分の中に入ってきた。語られるお話は現代のものなので、前2作より頭が読み解くという行為をしなくていいからだろうかと思った。しかし前作『山月記』は学生時代に何度も読み返したお気に入りの作品。『ベッドタイム・ストーリー』よりも記憶の手助けで頭に入りやすいはずなのだが。

 では何故だろう? とより耳を澄ませてみると、すぐに答えに気がついた。

 本を持っていないからだ。

 『ベッドタイム・ストーリー』は、一度坂本真綾さんの頭の中で読み解かれている。読み解いた上で抑揚をつけ、適切に間をとり、涼やかな声で耳に届けてくれる。最初から本を手放して初見(聴)で聞くことによって、朗読に集中できて初めてその気遣いに気づいたのだった。

 一言一句味わいたいなら、朗読に任せるのが1番よかったのだ。本の黙読の方は後にしようと枕元に本を放り出す。贅沢な時間の始まりだ。



 ……ちなみに朗読から黙読に移るのは体感ではすぐ後のことになった。

 私はいつのまにか本当に寝てしまったのだ。
 目を覚ましてどこまで聴いたか本のページを捲る。半分ほどで寝てしまっていた。
 恐るべし『ベッドタイム・ストーリー』。
 恐るべし『坂本真綾』。

 とりあえず布団の中で最後まで聴くのはあきらめよう。

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2011.09.30

「星海社朗読館」のレビュー

銅

山月記

時を追う毎に

レビュアー:ticheese WarriorWarrior

 かつて教科書の中で特別だった物語は、大人になるに従って人生においての特別になった。星海社朗読館『山月記』の朗読とイラストと本のしっかりとした手触りでそのことを確認する。私の人生はまだ長い。まだ長いからこの本が必要だ。

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2011.09.08

「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館「山月記」

虎の声に耳を傾けること

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

 私は「山月記」という作品が好きです。
 特に、かつて人間だった虎が古い友人と話す、という場面が好きです。
 虎だから人を喰うこともあるけど、元々は人だから友人と語らい、昔を懐かしむこともできる。私はたぶん、その相容れない二面性に何かしら惹かれるものを感じたのだと思います。
 だからこの作品が朗読されると聞いて楽しみ思ったのも、上記の場面がどんな風に語られるのだろうか、虎の声はどんな風に聴こえるのだろうか、という部分でした。

 仕事の帰りに駅の書店で購入し、帰宅してからまず装丁の美しさを堪能しました。
 暗闇の広がる森の中での話に関わらず、ブックレットに描かれる挿絵は月明かりに照らされて、柔らかで深い光に包まれています。その色遣いがとても儚げで綺麗なのです。そしてその光源である月の黄色は、虎となった李徴の纏う黄色と同じであることも、物語の構造の深さを強調しています。
 そんな感じに、本の作りを一通り楽しんでから、いよいよ朗読を聴いてみました。

 さて。ここまでの流れに反して、最初に朗読を聴いた時の印象は、あまり良いものではありませんでした。「うーん」と難しい顔をして「こんなもんかあ」と呟く程のテンションの低さでした。

 理由は、虎の声でした。
 当然と言えば当然ですが、女性の声で喋る虎は、小説で得たイメージと違っていたのです。まあ、朗読だから仕方ないのかな、とその時は思いました。
 けれどその後、少し日を置いて二度、三度と聴いたところ、この朗読作品に対する印象は大きく変化しました。
 変化の理由も、また、虎の声でした。

 虎の声は、よくよく聴いてみれば、私が好きだった原作と同じ魅力を持っていました。それはまさに、人と虎との二面性ゆえに揺れる感情の動きでした。坂本真綾さんが演じる虎の声は、その感情を深く静かに表現していました。
 そのことに気づいてからは、すぐに作品世界に没入できました。

「山月記」を聴いて少し分かったことは、朗読は、声によって表現される感情の波が、作品世界に没入するための道標なのだということです。
 李徴と袁え朕の関係性と、二人の感情に耳をすませてみれば、少しずつ、森の中の二人の息遣いが聞こえて来るのです。

 深い深い森のなかに立つ袁え朕の姿。
 姿を隠し、森に身を潜める李徴の気配。
 そして、空には月が浮かんでいます。
 ぼんやりと儚く、けれども綺麗な月が。

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2011.09.08

「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館銀河鉄道の夜

完成されたカタチ

レビュアー:akaya NoviceNovice

まずは星海社さんに感謝を。

CD+BOOKが届きました。CDだけでもBOOKだけでもなくCD+BOOKが届きました。それらを収めた星空をイメージさせる装丁に竹さんのイラストが映えます。内容はUstreamで満月の夜に配信されたそれです。

でも手に取るカタチになると格別の良さがあります。紙に印刷することで竹さんの独特の色使いがはっきりと感じられるし、CD音源になったことで通信ラグに悩まされることもありません。CDとBOOKを収めているパッケージ、第9章「ジョバンニの切符」を記したブックレット、そしてCDレーベル面までイラストが統一感を与えています。

届いてまずはじめにしたことはCDをリッピングすること。CDを回転させるとローディング音が鳴るし傷が付くかもしれません。そんなことは避けたい。MP3なんて欠けた音ではなくもちろん無圧縮方式で。坂本真綾さんの声をしっかりと聴きたいし、ポータブルプレイヤーで雑踏に飛び出て聴くようなものではないですから。

『銀河鉄道の夜』が収録された文庫本は持ってました。
でもこの朗読を聴くときは竹さんのイラストを眺めながら。夜の静かな時間帯にお気に入りの飲み物をお供に、星猫コースターに乗せて。恥ずかしくもその権利が私にはあるから。きっと落ち着いてすごせる時間になります。

私はUstreamで観たときにTwitterで「DVD化の予定はないのでしょうか?」と尋ねました。その予定はなかったようですが、それ以上のものを完成させてくれました。改めて星海社さんに感謝を。来月も楽しみにしています。

それはそうと星猫のマグカップはまだでしょうかね?

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2011.08.17

「星海社朗読館」のレビュー

銅

銀河鉄道の夜 第9章「ジェバンニの切符」

竹さんと未知の『抱き合わせ』

レビュアー:雀の子、パンダ

竹さんのイラストが好きで買ったこの商品、なかなか興味深いね。


竹さんの美麗なイラストの数々――うん、いい。いい、いい、とてもいい。
本の最初の数ページ。イラストを文字で描いている。うん、美しい。竹さんのイラストでは新しい感じ。
それに加え、銀河鉄道の夜を読みながらページをめくるごとに目に映る色鮮やかなイラストは目の保養になるよ、うん。
9章だけでなく、全章すれば良かったのに。
うん、竹さんの画集が欲しいね、全く。星海社、よろしくさん!


……まあ、前述の通り、竹さんが目的だったわけで、自分の中では抱き合わせの、朗読とかいうヤツには全く興味がなかった――
けれど、せっかく買ったのだから、という貧乏性の理由で、「少しだけ」という予定で、聞いてみる。

――凛とした声……

すぐにCDを止める。
聞き覚えがあった。

調べる……坂本真綾……知らない……調べる……わかった。

ファイナルファンタジー13というゲームの主人公の声を演じた人だった。
大好きだった。
他にも自分が見たことがある多くのアニメのキャラクターの声を演じていた。


何とも感慨深かった。
自分がこの声を無意識に好いていたのを知ったことに、抱き合わせ程度にしか思っていなかったヤツに不意に魅せられたことに。


そして、すぐに、CDを流す。


……「少しだけ」の予定が、一時間を過ぎていた。
それが物凄く、面白かった、楽しかった、気持ちよかった。
心地よい声が頭の中で幾重にも重なり物語となるのが。
竹さんのイラストとはまた違って。


ふむふむ。


どうやらこの『抱き合わせ』、坂本真綾は凄いのかもしれないね。


ほうほう。


どうやら他にもこの『抱き合わせ』×イラスト×文学のが発売されるらしいね。


あらあら。


どうやら竹さんの原画による星猫ラバーコースターを手に入れるための、《抱き合わせ》としか思っていなかった星海社の未知の商品も、なかなかいいのかもしれないね。

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2011.08.17

「星海社朗読館」のレビュー

銅

星海社朗読館「銀河鉄道の夜」

コレクションしたくなる装丁

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

とにもかくにも装丁が美しい!
夜空の闇と、銀河の海を思わせる深い青のジャケット。
そこからまずはCDケースを取り出せば、可愛い電車のデザインに縁取られたCDがあり、その裏にはジャケット表紙と同じ、ジョバンニとカンパネルラが向かい合った美しいイラストが。
「銀河鉄道の夜」本文を収めたブックレットにも、端麗な挿絵が何枚も何枚も描かれていて、これだけで売り物になるのではと思わせるクオリティ。

この装丁が演出している「銀河鉄道の夜」の世界観は、坂本真綾さんの朗読の魅力を何倍にもしてくれています。
朗読を聴くときは、手元か、目に見える位置に、このジャケットとブックレットを置いておくことをおすすめします。
それだけで、作品世界への移入度は格段に違います。

とにもかくにも、本当に、装丁が美しい。
これからこのシリーズをコレクションする楽しみがあるのだと思うと、期待で胸が踊ります。
来月には「山月記」が発売されます。
「山月記」のジャケットも、きっと素敵な作品世界を演出してくれるはず。
今から楽しみです。

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2011.08.17

「星海社朗読館」のレビュー

銅

『銀河鉄道の夜』第9章「ジョバンニの切符」

眠れない夜に

レビュアー:ticheese WarriorWarrior

眠れないときは活字を読むといいと言う。
そんな人は読書が嫌いなのかというと、そうでもない。私も活字を読むと眠くなる。(もちろん私は読書は好きですよ)単純に文字を追っているく目は疲れるし、内容を理解していく頭はもっと疲れる。疲れると眠くなるのは道理である。
疲れたら手に持った本を棚に戻し、照明を落として床につく。目を閉じて、全身の力を抜いてしまう。普段ならこれで私はもう夢の中。

でもその日は違う。まだ物語の中に私はいた。

『坂本真綾の満月朗読観』には朗読CDが付いてくる。私はその朗読CDを耳にはめたイヤホンから聴いていた。本を読みながら眠ることはできない。でも朗読を聴きながら眠ることはできる。それが出来るのは、「耳を閉じて眠るわけじゃない」なんて当たり前のことじゃない。坂本真綾さんの朗読と宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』がとても心地いいからだ。

坂本真綾さんの美しい声も然ることながら、朗読と『銀河鉄道の夜』の相性こそが心地よかった。朗読は、大抵の場合はすでに読み終えた部分に戻ることはしない。『満月朗読館』についてくるCDだって、機械の操作をしなければ読み終えた部分に戻ったりはしないのだ。だから聞き手はある程度の集中をしているのと同時に、どこかすべてを把握しきることを諦めている。そして、それが何よりも『銀河鉄道の夜』に相応しかった。

少々当たり前の話すようだが『銀河鉄道の夜』は少年ジョバンニが銀河を鉄道に乗って旅する話だ。そこでたくさんの人や星と出会っては別れながら、逆走のない線路を渡っていく。その物語に朗読という行為はとても似つかわしい。例え一部を聞き逃したとしても、以前の物語が解らなくなったとしても、また次の物語が紡がれていく。星のきらめく車窓を覗くジョバンニのようにただ今を楽しめばいいのだ。

そしていつの間にか宮沢賢治の夢のような物語は、私の見る夢に溶け合っていく。

こうして、『銀河鉄道の夜』は私を眠りに運んでいく。とても心地よく、とても相応しく、とても楽しい眠りに。

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2011.08.17

「星海社朗読館」のレビュー

鉄

星海社朗読館『銀河鉄道の夜』

未来をこの手に

レビュアー:yagi_pon NoviceNovice

朗読館シリーズの第一弾である「銀河鉄道の夜」を購入した。講談社BOXと同じサイズのボックスには「CD+BOOK」の文字。これには、坂本真綾さんの朗読CDと竹さんのイラスト付きの本が入っている。本に関して言えば、それはただの本というよりも絵本に近い。たくさんのページにイラストが入り、イラストが入っていないページでさえ背景があって、本といわれてイメージするような白い紙と黒い文字だけのページは存在しない。文字のみで創られた「銀河鉄道の夜」の世界が、真綾さんの声と竹さんのイラストでより広がっていくようだ。
この本を出している星海社というところは、すべての出版物のイラストをオールカラーで出している。それを星海社の中の人である編集者の一人はこんなふうに言っている。「モノクロの挿絵が描かれた文芸作品を、直截的な言い方をすれば“古い”ものだと感じるようになってしまいました。カラーの挿絵による目新しさは、僕らを未来に推し進めてしまった――あるいは過去に戻れなくしてしまった、パンドラの箱だったのでは、と思うことがしばしばあります。」と。
オールカラーのイラストはたしかに未来を感じさせるものだったけれど、私にとってはこの朗読館の本が、より未来を感じさせてくれるものだと思う。一ページごとに違う背景があって、たくさんのイラストがあって、それはもう贅沢極まりない。そんな本が、この世にたくさんあるだろうか。少なくとも私は、この朗読館の本で、初めてそんな贅沢な本に出会った。CDが付いている、それ自体も贅沢ではあるが、なによりもこの本が贅沢だ。
いつか、未来のたくさんの本がこんなふうに贅沢になる日がくるかもしれない(ただ、創る側が大変すぎて実現は難しいとは思うけれども)。そんな未来が来たら、本を読むのがもっと楽しくなるような気がする。そんな未来を想像して楽しくなる。この朗読館の本は、未来の本を創造したんだと、そんな気さえする。
そして私は、そんな楽しい未来が今この手の中にある気がして、無性にうれしい。

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2011.08.17


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