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「魔法少女まどか☆マギカ」のレビュー

銅

魔法少女まどか☆マギカ 一肇

魔法少女はほうき星に乗って

レビュアー:鳩羽 WarriorWarrior

TVアニメ、漫画、映画と様々な媒体で展開された人気ストーリーのノベライズである。
ノベライズにはあのコーラスを合わせた重厚な音楽もなければ、メルヘンとグロテスクとの違和感からくる奥行きのある絵もない。キャラクターの表情で一瞬のうちに心をつかむような、強力な魅力もない。
あるのは、ただ一方向に進んでいくだけの文章だ。

謎のインキュベーターの懇願により、どんな望みでもを叶うという条件で魔法少女となる契約を交わした少女達。けれどその契約には代償が隠されており、魔法少女となった少女達は絶望とも言える苦しみを抱え込むこととなった。
このノベライズでは、主人公の鹿目まどかの一人称の視点で物語を追いかけていく。
おとなしくて、ちょっと気が弱くて心配性で。でもとても友達思いの優しいまどか。そんなまどかの、一人の中学生としての気持ちを読んでいくと、彼女がどんなふうに悩み、葛藤したかがそのまま素直に伝わってくる。
ここには並行世界のことなど知らず、ただ一度きりの人生を歩む、ただ一人のまどかがいる。

まどか☆マギカの物語を知ると、どうしても謎めいた転校生ほむらの物語に惹きつけられてしまう。運命を変えることができず、かといって諦めることもできないで、同じ時間を何度も遡行し続けるほむら。彼女が自身で生み出したジレンマに囚われていくのを、読者である我々は胸を痛めながら見守ることしかできない。
そんなほむらの迷宮を、まどかは突き破る。
それは、ほむらや他の魔法少女達への裏切りではない。友達は助け合い互いに支え合うものだという、まどかが自分で考えて見つけ出した答えは、シンプルだが揺るぎない強さとして、まどか自身から生まれるからだ。
それは別の可能性を知ることも、他者の心を完全に理解することもできないという人生の潔いリアリティに裏打ちされ、複雑に行き詰まった虚構をほどく。

望む未来を手に入れるためのほむらの執念の物語ではなく、インキュベーターの宇宙の合理を追求する物語でもなく、皆に愛され可愛がられてきたまどかが、自力で殻を破り、より大きな世界へ飛び立っていく物語。
まどかの内側から共に見た結末の光は、これまで魔法少女と呼ばれる存在が伝統的に体現してきたまごうことなき希望、そして憧れを伝えてくれる。
ノベライズという方法は、そんな新しい「まどか☆マギカ」の視点を提示してくれた。

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2014.01.29


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