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「白貌の伝道師」のレビュー

銅

白貌の伝道師

白貌の伝道師

レビュアー:灰猫 NoviceNovice

もし貴方がヒーローなり、僅でも良心のある行動が行われるストーリーを求めるならこの作品はお勧めしません。読了後に後悔する事になるでしょうから。
代わりにキャラクター達の涙や後悔、懺悔を期待するならば、極上の味わいとなるでしょう。
この作品の醍醐味は帯にある通り狂乱劇に他ならず、失意の底に沈むヒロインも、それを貶めた領主の御曹司も、狂ったマスターの采配で配置を変えては運命に奔走される状況は、読んでいて気を抜く暇さえ与えず、まったく先が読めませんよ。
もし、自分を主人公ラゼィルになぞらえて読み進めたなら、人の運命を支配する面白さに目覚めてしまうかもしれません?

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2013.07.08

「白貌の伝道師」のレビュー

銀

白貌の伝道師

暗い欲望の踊り子

レビュアー:zonby AdeptAdept

何も考えず、己の自我を捨てて、ただ自分を必要としてくれる唯一の主人のためだけにぬかづきたい。
圧倒的な誰かの道具に、できることなら優秀な道具に成り果ててしまいたい。

「白貌の伝道師」は私にとってそんな暗い欲望を掻き立てさせられる小説だった。
人とエルフの混血であったがために、人にもエルフにもうとまれた少女・アルシア。
彼女は物語の全般に渡って陵辱され、打ち捨てられ、隷属させられ、幾重にも心を踏みにじられる。
彼女を通して物語を見ると、その世界はせせこましくあまりに理不尽だ。
彼女に流れる血の半分であるエルフという種族。
彼等は森と共に生き、優美で高潔な存在であるが、仲間以外のものには非情なほど排他的だ。アルシアの親のどちらかはエルフであるという事実を知りつつ、彼等はアルシアの存在を無視しようとする。
もう半分の血である人間という種族。
彼等は時にエルフにとって良き友にもなりえるが、人間によっては利己的で暴力的で、嘘もつくし殺しを厭わない者もいる。こちらは物珍しさからアルシアを徹底的に傷つける。
両者の血が身体に流れているのに、両方の種族に心も身体も蹂躙される。
傷だらけで痛いばかりの身体。
喪うばかりで空虚な心。
二つの種族の間に放り出され、頼る縁もない。
そんな時に目の前に現れ、自分を美しいと言ったラゼィルは、蔑まれ続ける人生を送ったアルシアにとって奇妙であり、同時に今まで誰からも必要とされなかった故に貴重な人物であったのだと思う。
やがて唯一無二の、掛け値ない主となることは、その時はまだ分からなかったとしても。

アルシアが至った結末は、見方によっては悲惨だともとれるだろう。
いや、悲惨なのだろう。
物語の最初から最後まで、蔑まれ、騙され、貶められ、拒絶されて最後には心ない殺戮人形になってしまうのだから。
だが、私にとってはハッピーエンド以外の何ものでもない。
アルシアにとっては、それがハッピーエンドかすら、どうでも良いことだろう。
自我を捨て、過去を忘れ、感情を殺し、意味を放棄した彼女にはもう、幸せが何かすら分からないのだから。

自我を捨てること。
過去を忘れ去ること。
感情を殺すこと。
意味を放棄すること。
それらは普通、望まないことだ。
望む以前に生きている限り無理なことであるし、それらを本当に実行してしまったら現実には生きられない。
だから私はそれらをしないし、できない。
けれど、それらに強烈に憧れる瞬間があるのも事実だ。
悲しいことや、辛いこと、虚しいこと。生きているとそんな事柄に嫌が応にもぶつかってしまう。
そんな時、自我をもっていることが煩わしく感じられる時もあるし、今まで重ねてきた過去を全部捨て去りたい気持ちにもなる。悲しくて心が痛むなら感情なんていらない、意味なんて理解もしたくないと思う時だってある。
悲しいことを悲しいと。
辛いことを辛いと。
虚しいことを虚しいとさえ感じることを忘れて、命令に従いたい。支配されてしまいたい。
唯一無二の、我が主に。
そう、思うことないと私は言い切れない。
けれど、現実に生きている私は自分で考え、過去を積み重ね、泣いて時には笑い。いろいろな意味を解釈して咀嚼しながら、日々を生きてゆく。
唯一無二の主に出会うこともなく、その足元にぬかづくこともないまま。
心ない人形には、なれないのだから。
例えそんな存在に、憧れることがあったとしても。

でも、大丈夫だ。
私は「白貌の伝道師」と出逢った。
悲しい時や辛い時、これからはきっとアルシアが、死せる少女の踊り子・バイラリナが私を慰めてくれるだろう。
炎の燃えさかる森の中、巨大な鉈と惨劇を踊りながら。
私の暗い欲望をその身で体現しながら。
痛みも辛さもないかわりに、幸せかどうかもわからない、その安寧の居場所で。

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2012.05.18

「白貌の伝道師」のレビュー

銅

虚淵玄『白貌の伝道師』

「真・悪・美」の少女の挿絵

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

 何一つ報われずに、無惨に殺されたエルフの少女の姿が、あんなに美しいものだとは、本書を読むまでは思いもしなかった。
「真・善・美」なんて言葉もあるが、「真・悪・美」という言葉こそが、この物語にはふさわしい。

 この物語を支配するのは、純真無垢な悪の化身であるダークエルフが作り上げた、阿鼻叫喚の地獄の美だ。
 騙り、殺し、奪い、滅ぼす。
 非道の限り。惨劇の極み。
 当然のように救いはない。
 そして、地獄の果てに少女は現れる。
 少女は悪によって、命も想いもすべてを奪われた。
 人としての大切なつながりを失い、徐々に人ではなくなっていく彼女の裸体は、エルフの森を焼き尽くす業火に赤々と照らされ艶めかしく映えている。
 少女のか細い体のライン。その矮躯と不釣り合いに巨大な鉈。それらを闇の中に浮かび上がらせる真っ赤な炎。この場面のカラー挿絵は、その美しい情景を見事に描き出している。

 同じ作者の『Fate/Zero』にも、人の内蔵を美しいと形容する殺人鬼が登場するが、そのような読者に嫌悪ばかりを抱かせる独善的な美とは違い、この作品に現出する悪の美は、色鮮やかな挿絵によって、読者を納得させるだけのリアリティを備えている。

 純真な悪の信仰が創出した少女を描いた挿絵は、読了後に改めて見ても美しい。
 やはり、この作品には「真・悪・美」という言葉こそがふさわしい。

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2012.04.23


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