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「三国志」のレビュー

銅

三国志

星海社ある限り、新しい文学体験は続く

レビュアー:横浜県 AdeptAdept

 星海社は、文学の新しいカタチというものを、僕たちに示そうとしている。そのうえで大きな役割を果たすのが、8月刊行予定の吉川英治『三国志』だ。吉川英治といえば言わずと知れた時代小説家であり、『三国志』は代表作の一つであるとされる。また没後50年が経過し、その著作権が切れたことでも注目を浴びており、既に新潮文庫からは新装版が刊行されている。
 そこで疑問が生まれないだろうか。星海社は本来エンターテインメント小説を中心に出版している会社だ。国民文学作家とも呼ばれる吉川英治の作品を刊行する意味はどこにあるのだろうか。著作権切れが最も大きな要因であることは否定しがたいが、ただそれだけが理由なのだろうか。
 ここで参照したいのは、星海社が2010年から始動させた『坂本真綾の満月朗読館』である。そのラインナップには、『銀河鉄道の夜』・『山月記』という2つの有名文学作品が含まれていた。しかし他に様々な出版社から刊行された両作とは、表紙の趣が異なっているように思われる。前者の鮮やかな色遣いや、後者に描かれた人物の温和な表情は、他レーベルのものに見られるどこか暗いトーンの配色や、厳めしい顔つきと対比することができる。(たとえばともに角川文庫版と並べてみれば分かりやすいだろう)また坂本真綾による撮り下ろしの朗読を添えることで、星海社は「文学×朗読×イラスト それは新しい文学体験」というキャッチコピーにふさわしい作品を作り出したのである。これは既存の文学作品を再解釈する試みであり、既存の文学に新しい表情を与えるものだと言える。
 『三国志』においても、星海社は同じことをしようとしているのだ。そのことは添えられたコピーからも見てとれる。そこにはあの「土林誠が挑む、吉川英治の歴史的傑作。これぞ最新にして最高の三国志」とある。土林誠とは『戦国BASARA』で有名なキャラクターデザイナーであるが、この宣伝文において彼が主体として記されている点には驚きが漏れる。星海社版の『三国志』においては、本作が吉川英治によって書かれたのだということよりも、土林誠が、どのようにそれを再解釈するかということに重点が置かれているのだ。つまり『三国志』の出版は、星海社が文学の新しいカタチを提示しようとする試みの上に成り立っているのであり、そこには『坂本真綾の満月朗読館』から連なった、出版社としての一貫性を見出すことができるのである。
 さて土林誠によって描かれる『三国志』は、どのようにして既存のイメージとの違いを見せてくれるのだろうか。いずれにせよ、そうして出来上がった「最新にして最高の三国志」は、僕たちに「新しい文学体験」をもたらしてくれるに違いない。

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2013.07.08


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