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「一〇年代文化論」のレビュー

銅

「一〇年代文化論」

「残念な美人」といえば中村桜さんっ!

レビュアー:オペラに吠えろ。 LordLord

 本書は、2010年代の若者文化を「残念」というキーワードで読み解いた一冊である。

 ……え? 2010年代って、今は2014年でしょ? あと6年も残っているのに何言ってんの? 早い方がいいとは思うけど、これは早すぎでしょ―。それとも何、著者の「さやわか」ってばジョン・タイターみたいなやつなの?

 その疑問はまさにその通りで、だからこそ著者は最初にその答えを明かしている。いわく、1970年代を代表するヒッピーの文化的なピークは1967年には迎えており、80年代を代表するニューウェーブも、90年代を代表するクラブカルチャーも、それぞれ70年代、80年代に存在した。つまり、次の10年を予見するものは、その10年の数年前には誕生しているのだ、と。

 その流れで、著者は2010年代を代表する文化として、「初音ミク」をはじめとするボーカロイドや「僕は友達が少ない」といったライトノベル、「Perfume」などのアイドルを挙げていく。同時代に人気を博しているという以外はつながりの薄くみえるこれらが実は00年代後半には存在しており、「残念」というキーワードで束ねられていくあたりは実に見事だ。

 それぞれがどのように「残念」なのかは自分の目で確かめてもらいたいので、ここでは詳らかにしない。だが、昔は否定的でしかなかった「残念」という言葉の意味が、今は「残念な美人」というふうに肯定的な意味合いも帯びてきていることを踏まえた議論の進め方は、著者ならでは鋭い視点が生かされたもので、多くの人が頷くことだろう。

 2014年に「2010年代の文化を総括した本」を出した著者がジョン・タイターのようなタイムトラベラーではなかったのはSF者としてやや“残念”だったが、内容は残念というより斬新。著者にはぜひ、残念……いや3年後の2017年に、2020年代の若者文化を予見した本を出してもらいたい。

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2014.06.18


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