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「幸福論」のレビュー

銅

望みを待つもの掴むもの(『幸福論 西川聖蘭第一作品集』)

もう答えてくれることのない

レビュアー:またれよ NoviceNovice

雨の日に出会った人殺しの少女は、傘に入れてくれた男を刺して言う。

「自分のためじゃない殺しが存在すると思っているの?」

そして少女は自殺する。命を取りとめた男はそれから雨の日には決まっていつもある場所に行くようになる。その姿は死んでしまった少女を待っているようである。

この物語は何が起こるというわけでもない。
雨の日、傘に入れてあげた少女に刺される。
ただそれだけの話だ。
静かな、動かない物語。それだけに少女の残した言葉が鮮やかに記憶に刻まれる。殺し、とは?
自分のために自分を殺した少女。
殺されることのなかった男。

望みを待つもの掴むもの。
タイトルは最後の項に書かれる。まるでここから物語が始まるかのような。けれどこの先には白紙しかない。
この最終項では男が雨の中、傘をさして佇んでいる。男の中ではまた一項目から物語が繰り返されているのかもしれない。男は少女に再び会い、傘に入れ、刺され、言葉を残され、命を取りとめ、そしてまた雨の中、傘をさしているのか。少女の残した言葉に、問いに、永遠に答えの出ぬまま物語を繰り返していくかのようだ。
なぜ殺すのか。なぜ殺したのか。なぜ死んだのか。答えは出ない。しかしこれは決してその答えを見つけるための物語ではない。生きること死ぬこと、それをただ目の前につきつける物語だ。答えてくれないからこそ、自らに問い続けざるをえないのだ。

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2012.05.18

「幸福論」のレビュー

銅

西川聖蘭『西川聖蘭第一作品集 幸福論』

黒と白の往復運動による幸福論

レビュアー:USB農民 AdeptAdept

 こんなにも多種多様な黒と白が描かれたマンガは他にないだろう。醜い黒と綺麗な白。死の臭いのする黒と未来を感じさせる白。黒い下着と白い下着。闇の中に浮かぶ白いゴキブリ。くるくると回るようにその色を反転させていく画面の連続は、徐々に速くめまぐるしくなっていく。黒い感情が激しくなるほどに、その直後に現れる白もまた濃さを増していく。
 黒と白の二つの色は、共犯関係のように、マッチポンプのように、互いが互いを刺激し合い、劇的な化学変化を起こしている。

 この作品を、タイトル通りに受け取るなら、作中には幸福を説明するロジックが組み込まれているはずだ。それは、黒と白の二色に込められていると私は思う。
 暗い気持ちが作る黒が濃くなれば、次にくる白はより明るく未来を感じさせる色になる。その逆もまた然り。白に手を伸ばそうとしても、そこで掴めるのは黒い何かだ。
 黒と白。どちらが幸福を象徴していると考えるか。人によって違うかもしれない。私の考えでは、どちらも単体では幸福を象徴できていない。
 黒と白。その二つが同時にあるからこそ、幸福を語れるのではないか。
 深くて暗い黒と、明るくて濃い白とを幾重にも越えた先に、登場人物たちの幸福そうな笑顔がある。

 黒と白との絶え間ない往復運動にこそ、幸福論は宿っている。

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2012.04.23

「幸福論」のレビュー

銅

幸福論 西川聖蘭第一作品集

ただ戦慄してしまいました。

レビュアー:ゲッテル NoviceNovice

大塚英志氏の「ただ戦慄すればいい。」の帯通りに戦慄した。漫画はカラーページを除けば、色の付いているページは無い。それは当たり前なのだが、この作品程、”黒”しか似合うもののない作品は久しぶりだった。表題作の『幸福論』。唯、ただ黒い。笑みさえ黒い。誰しも持っているであろう負の部分を隠さない主人公・れおなの最後の笑顔は心からのモノだったのだろうだと思うのだが、正直とても同調出来るものではなかった。悪趣味なネット動画などで興奮を覚える辺りが、現代の世相を反映していて心底恐ろしい。自分もこの世界で生きているのだと思うと、本当に戦慄する。見たくはないが、目を背け続ける事もしてはいけないのではないかと強く感じさせられた。作者の方には、もっとリアルで尚且つ人間を抉る作品を描き続けてもらいたいと思った。

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2012.04.02


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