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読者レビュー

銅

西川聖蘭『西川聖蘭第一作品集 幸福論』

黒と白の往復運動による幸福論

レビュアー:USB農民 Adept

 こんなにも多種多様な黒と白が描かれたマンガは他にないだろう。醜い黒と綺麗な白。死の臭いのする黒と未来を感じさせる白。黒い下着と白い下着。闇の中に浮かぶ白いゴキブリ。くるくると回るようにその色を反転させていく画面の連続は、徐々に速くめまぐるしくなっていく。黒い感情が激しくなるほどに、その直後に現れる白もまた濃さを増していく。
 黒と白の二つの色は、共犯関係のように、マッチポンプのように、互いが互いを刺激し合い、劇的な化学変化を起こしている。

 この作品を、タイトル通りに受け取るなら、作中には幸福を説明するロジックが組み込まれているはずだ。それは、黒と白の二色に込められていると私は思う。
 暗い気持ちが作る黒が濃くなれば、次にくる白はより明るく未来を感じさせる色になる。その逆もまた然り。白に手を伸ばそうとしても、そこで掴めるのは黒い何かだ。
 黒と白。どちらが幸福を象徴していると考えるか。人によって違うかもしれない。私の考えでは、どちらも単体では幸福を象徴できていない。
 黒と白。その二つが同時にあるからこそ、幸福を語れるのではないか。
 深くて暗い黒と、明るくて濃い白とを幾重にも越えた先に、登場人物たちの幸福そうな笑顔がある。

 黒と白との絶え間ない往復運動にこそ、幸福論は宿っている。

2012.04.23

のぞみ
黒と白両方があっての幸福、というのは本当に奥が深いと感じましたわ!
さやわか
作品内容を暗示するかのような力を感じさせる文体になっていて、そこがいいと思いましたぞ。論理的には少し混乱というか、言葉の使い方に一考を要する部分が必要なようにも感じられます。というのも、この文章の中では一貫して白は「綺麗」「未来を感じさせる」みたいな書かれ方をしていて、黒は「醜い」「死の臭いのする」とされています。ならば「黒と白のどちらが幸福を象徴しているか」は、単純に考えると白だということになってしまうのではないでしょうか。しかし、このレビューの結論はそうではない。どっちがいいというわけではないと言うわけですね。そうすると、白と黒をポジティブさとネガティブさで語ってみせたことと矛盾するように読めてしまいます。「一見白が幸福を象徴していると思えそうだけれども、そうではない。というかどちらか片方ではダメ」ということなら、そういう書き方をしたほうがわかりやすいと思います。どうでしょうか? ここでは「銅」にいたしました!

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