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「世界征服」のレビュー

銅

世界征服II 03―08

陰謀なんじゃないの?

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン WarriorWarrior

「世界の覇権を巡る戦いの決着は――!?『覇道』の世界征服ここに完結――!」
と書かれた帯にリンとリザの2人が地球を掴むようなイラストの表紙絵。
丸く収まった感が若干ネタバレ気味だけど、可愛いから問題ない!
 とにかく早く続きが知りたくて駆け足で読んだ。
 海斗達の急成長してゆく会社は虚業から実業への転換に成功するが、出資者だった相羽社長からの襲撃にあう。雇ったホームレスを使い、でっち上げのやらせデモ対抗する。
 海斗とリザの命を助け、協力を要請してきたのはロシアの諜報機関で、あれ?
 プーチン出できた(笑)
 風呂敷は広がり、現実とフィクションが絡み合う。
 単行本の時のタイトルは『神と世界と絶望人間』。
 暗いタイトルだが、絶望したくなるほど、陰謀の暴露が描かれる。
 9・11後のアメリカによるイラク戦争、チェチェンに対するロシアの策略、イギリスの地下鉄爆破テロ、「そういや今になって冷静に考えてみるとおかしいよね」のオンパレード。
 この本が、2010年に講談社BOXから出版されてから4年後の今読んでも、フィクションと現実が混ざり合った物語が示唆するものは大きい。
 例えば、現在のウクライナの混乱。
 今20歳になったリザなら、プーチンになんて言うだろうか?
 「あんたホンマやらかしてくれるなぁ、かなわんで」とか?
 リザや、海斗たちがフィクションの存在であろうと、嘘じゃないのは、この世は確かに陰謀にまみれ、間違いなくザ・ズーパークラス(超階級)と呼ばれる人達は居て、そういう奴らに世界はだいたい征服されているということ。
 ただ、ここで、リザが海斗に会う前のような「生きとうないっ!」と喚く「絶望人間」になるのではなく、自分の命より大切な誰かが存在することが、どんなに天才だろうと人間ならば必要だということなのだろう。
 海斗にとって父や、リザを8歳まで育てたメルヴィル博士、そして、互いに想いあう海斗とリザのように。
 最後に、世界中の陰謀を暴露しようとしたために、この本があまり売れていないなら、ブランフォード家の陰謀なんじゃないの? と思ったり。

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2014.06.18

「世界征服」のレビュー

銅

世界征服II 00―02

関西弁いいわあ

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン WarriorWarrior

 世界征服IIでは、00―02というタイトルが示すように、2000年~2002年までの前回と違う、もう1つの世界征服にまつわる物語がスタートする。  主人公の桜井海斗はスタンフォード大学で生徒に社会心理学を教える優秀な研究員で、充実した日々を送っていた。  ある日、突然ジャーナリストである父・啓司がふらりと大学を訪ね、今生の別れのような言葉と、ペンダントを渡して去った10日後に薬物中毒の末、車に轢かれ死んだと知らされる。  あまりに不自然な出来事に戸惑っているさなか拉致され、メルヴィル博士というじいさんに「父親からなにか知らされなかったか?」と尋問される。  海斗は何の事だかわからず、答えられないままでいると、殺されかける。しかし、植物状態からどうにか復活する。  父が、渡してくれたペンダントの中にブランフォード家の「世界統一政府プラン」の内容が描かれたデータが入っていたことが分かると、ルームメイトのマイクと協力し、真実を暴こうとする。しかしブランフォード家の陰謀が、嘘くさすぎて信じてもらえない。  この動きがばれ誘拐されてしまうが、今度は尋問ではなくブランフォードから勧誘される。父を殺した相手を許せない海斗は断るが、何故かメルヴィル博士は彼を助け、リザという8歳の女の子を預けるという。  彼女はブランフォード家が遺伝子操作で作り出した天才児らしいのだが……事案が発生しとるやないかい!  リザと共に日本にたどり着いた海斗は、ルームメイトだったマイクと、幼馴染の伊吹青葉を仲間に加えると、ブランフォード家に対抗するために会社を立ち上げ、短期間で巨大企業に成長させる、けどやっぱり事案が発生しとるやないかい!  なんといっても、リザが可愛い。ブロンドヘアーの女の子が関西弁とか、ありがとうございますやでホンマ。かなわんわ。  私の親戚の女の子が9歳で、大阪に住んでいて関西弁でしゃべるのがたまらなく可愛いのである。なので、海斗がついリザを甘やかしてしまう気持ちには、真に残念ながら、全面的に同意せざるを得ない。  この巻を買う方は、次の巻が書店にあるなら、同時に買っておくべきだろう。続くので、先がめっちゃ気になります。

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2014.05.20

「世界征服」のレビュー

銀

世界征服

まとめました

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン WarriorWarrior

「世界征服を一冊にまとめることは可能か?」
というコンセプトのもと書かれた至道流星デビュー作の文庫版。
 ダイレクトメールの発送代行をする零細企業の青年社長・朝倉陣は4年付き合っていた彼女に突然フラれてしまう。
 やけくそで入ったキャバクラで、やたら高飛車な美女・水ノ瀬凛と出会い、朝倉の人生は大きく変化してゆく。
 最初は傲慢なキャバ嬢でしかない凛が、ページをめくるごとに驚きを与えてくれる。
 えっ? 世界一、頭が良い……だと?
 彼女が掲げる目的は「世界征服」。子供の戯言のような現実味のない目的に、段々近づいていくのが面白い。
 零細企業でしかなかった朝倉の会社は、凛のアイデアであっという間にダイレクトメールの大手企業になり、医療DVDの販売でグローバルに利益を上げ、ファンドを立ち上げ450億円もの大金を出資するまでになる。
 凛と朝倉が経済について語り合うシーンが印象に残っている。凛は「今の負債と共に成長するシステム」ではそう遠くない内に破綻すると言う。その破綻を緩やかにし、現状の資本主義経済にかわる新しい仕組みを構築するために凛が世界征服する必要があると。
 
 凛だけではなく、陣の妹の綾乃(血がつながっていない……だと?)や、総務担当でドジっ子の若月彩葉、小柄だが荒事に強い藤森夕菜と、美女が揃っているのも魅力の1つ。
 零細企業、大手企業との交渉、出版、グローバルな販売、軍事力と最先端科学技術、血のつながってない兄妹、美女、等々色んな要素を過剰に詰め込んでいるのに、一冊にまとまっていることに感心してしまう。
「世界征服を一冊にまとめることは可能か?」
というコンセプトは達成しているように感じた。

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2014.04.22

「世界征服」のレビュー

銅

世界征服/大日本サムライガール/至道流星

至道流星は勝利し続ける。

レビュアー:Thunderbolt侍 InitiateInitiate

あらゆるエンタテインメントには「快感原則」の充足が求められる。

主人公が最終的に勝利することで読者は大きな満足感を得ることができる。そのため、物語終盤直前に主人公らをあえてマイナス状態に落とし、読者にストレスを与えるという手法が定番となった。ここからプラスに引き上げることで、振れ幅を大きくし、快感の度合いを引き上げるというテクニックだ。

だがしかし「世界征服」「大日本サムライガール」の至道流星は、その常道を歩まない。水ノ瀬凛は一度の敗北・挫折も味わうことなく世界征服へと歩を進めるし、神楽日毬、織葉颯斗もそれぞれの大志・野望を最短距離で成し遂げようとしている。一時の敗北すら描かれないし、予期できなかった苦戦も存在しない。敵や障害は瞬く間に駆逐される。まさに「覇道」(「世界征服」オビより)を描く作家なのである。

そしてこの際、従来の“マイナスからプラスに至る振れ幅”を越える圧倒的な勝利を描くのが至道流だ。「倒産寸前の零細企業を救った(やったね!)」では終わらないスケールの大きさこそが至道流星作品の面白さ。そのケタ違いな大勝利にはちょっと唖然とさせられる。まあ、主人公の最終目標が「世界征服」あるいは「日本独裁」なのだからチマチマした成功を描いている場合ではないのだが……。

もちろん、ただの大ボラではない。筆者が得意とする経済・政治というツールを駆使することで「ケタ違いな大勝利」にしっかりとしたリアリティを付与している点も評価したい。水ノ瀬凛が頭脳を、神楽日毬が美貌という武器を最大限駆使したように、本業が経営者であるというバックボーンを活かした説得力のある内容に仕上がっている。

2009年8月にデビューした至道流星が、これまでに上梓した作品の冊数はすでに20冊を越えた。この精力的な活動は彼の描く物語の登場人物たちにも負けていない。圧倒的な勝利を描き続け、積み上げ続ける、至道流星の覇道からも目が離せそうにない。

まずは「大日本サムライガール」の圧倒的大勝利に期待している。

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2013.06.11


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