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読者レビュー

銅

「山月記」ミギーさんの絵について

その絵の裏側にあるもの

レビュアー:zonby Adept

柔らかい感じ。
儚くて、暖かい感じ。
可愛らしいキャラクター。
多くの人がミギーさんの絵を見た時に感じるのは、そんな感想だろうか。
私の第一印象もそうだった。
だが、何枚もミギーさんの絵を見ている内にその印象は払拭され、むしろそんな印象しかもてなかった自分を恥ずかしいと今は感じている。

柔らかでさりげない色使い。絶妙なぼかし。
満月朗読館『山月記』にてイラストを担当したミギーさんの絵は、一見さらりと口当たりよく、見る者にガツンとした衝撃を与える画風ではない。
人物を形取る、ラフな線。色同士のぼかしなどは偶然性によって生み出されたものであるようにも見えるし、人物や動物を描いたページはまだしも草だけがページの端から幾本か飛び出すように描かれたところなど、ともすれば誰でも描けるのではないかと思うくらい、慎ましい。

だが私は断言する。
それは錯覚であると。
満月朗読館『山月記』の中に使用されている絵の一枚一枚には、恐ろしい程の計算が働いている。その計算を計算として見せないところが、またそれらの絵の凄さなのだ。

私がミギーさんの描く絵を見て感じるのは、冷徹な視線だ。
職人的とも言える、とても醒めた視線。
頭の中にある絵を、紙に再現するために働く計算(無意識にしろ、意識的にしろ)は、狂いを許さない。
紙。と。絵の具。と。水。と。時間。
その関係性を、絵は容赦なくミギーさんに求めてくるはずだから。

それはミギーさんがアナログな絵を描いていることにもゆえんすると思う。
アナログとは、紙に水彩や鉛筆など従来の方法で絵を描くことだ。
反対に、今やメジャーとなったパソコンでフォトショップやSAI、ペインターなどのアプリケーションを使用して絵を描く方法をデジタルと呼称する。

この二つの大きな違いは、「失敗できない」という点だろう。
アナログは大きな間違いをしない限り、誤魔化しはきく。だが、デジタルのように失敗をなかったことには絶対にできないのだ。
また、ある程度途中で画質や効果の変更ができるデジタルに比べ、アナログ(ミギーさんの水彩画の場合は)紙と絵の具とそれをとく水。そして時間の選択が、重要になり筆をおく瞬間瞬間が勝負になる。
紙。
紙にはいくつもの種類がある。吸水性の程度も紙によって変わるし、絵の具ののりや広がりを決定づける一つ目の要因だ。
絵の具。
水彩絵の具の扱いは繊細だ。筆にのせ過ぎれば色が強くなり過ぎる。混ぜ過ぎれば濁る。同じ色を二度
作ることは難しい。
水。
水は紙の表面を時として痛める。絵の具を溶けた水を使えば、絵の具に色が混ざる。水彩を描くのに必要不可欠なものではあるが、それだけに扱いに気をつけねば絵を台無しにしてしまうこともある。
最後に時間。
目には見えない。自分の感覚だけが頼りだ。水彩には乾きの時間がある。紙にのせた絵の具が乾く前に次の色をのせれば混ざってしまうし、反対にあえて色を混ぜたい時に時間を図り間違えれば、不自然なものになってしまう。特にぼかしの技法には、この見極めが完成度を左右する場合もある。

ミギーさんはそれら四つの要素と向き合い、一枚の絵を描き出していると私は感じるのだ。
それらに対峙し、冷徹に見極めているからこそ、あの絵が生み出されるのだ。
アナログで描かれた絵は、私にその描かれた裏側を。絵にかけられた時間を問うてくる。
ミギーさんの描く絵はそういう絵だと思う。

文章を読むのも良いが、絵も見て欲しい。
絵に込められた緻密な計算を。
ミギーさんの絵にかける冷徹な目を。
紙と絵の具と水と。
そしてそこにかけられた時間と。

2012.02.18

のぞみ
わたくしはミギーさんの絵を見ていたようで、実は全然見られていなかったような気がしてきましたわ!
さやわか
『山月記』を語る上で、特にミギーさんの絵に興味を持たせる文章として面白く書けていると思います。そしてミギーさんの絵の特徴の意外な面を指摘するという形になっているのも好感が持てますな。「なるほど」と思わせるところがあるのはいいレビューですぞ。
のぞみ
暖かさと冷たさを兼ね備えた絵でしたのね!
さやわか
まあ、もうちょっと『山月記』の絵の具体的な内容に踏み込んでもよかったとは思います。どういうことかというと、このレビューは『山月記』を読む人に「ミギーさんの絵」の魅力を伝える文章としては優れていますが、「ミギーさんの『山月記』の絵」の魅力を伝える文章としてはちょっと読みづらい。しかし、これはこれでいいレビューですよ。「銅」とさせていただきます! さて、今回のレビュアー騎士団、第四場はここまでとなります! 前回までの異常な(笑)投稿数に比べると、今回は少数精鋭と言った印象でしたな。あとはどうも何か、あと一息! 惜しい! というレビューが惜しかった気がします。そこをクリアしていればほとんど「金」になるというような……次回に期待!
のぞみ
次回の投稿締め切りは2012年2月29日です!
さやわか
まだまだ見たこともないような衝撃的なレビューを募集しているぞ! レビュアー騎士団はどんなレビューであろうと面白ければ掲載する用意がある! お待ちしております! ということで第四場はこれにて幕である! どどん!

本文はここまでです。