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レビュアー「ユキムラ」のレビュー

銅

唐辺葉介『死体泥棒』

エンドレス・プラネタリウム

レビュアー:ユキムラ Adept

 主人公が恋人の死体を盗みだして一緒に過ごした蜜月は、どこかプラネタリウムに似ている。
 昼に繰り広げられる偽りの夜空が決して夜闇を彩る星たちになれないように。
冷凍庫の扉越しの日々は、過ぎし日の逢瀬とは決定的にナニカをたがえている。

 このプラネタリウムは、永遠に続けば良かったのだろうか。
主人公は、このプラネタリウムを永遠に続けたかったのだろうか。
 問えども問えど、応えは無く答えは出ない。
私達読者にできることは、それを想像することぐらい。
 ――――否。
そんな邪推はもはや無粋でしかない。
文字を追ったところで読み取れるは、自身すら騙していかねない、或る愚公の世迷い言。

 だから。
「この星空は綺麗だね」って。
騙されたフリをして、プラネタリウムを眺めるだけなのもまた一興かもしれない。
偽りの夜空は近く暁に殺されて終わってしまうけれど。
二人の物語を綴ったこの本の記憶は、あるいは永久に、私達の中で息吹き続けるのだから。

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2012.06.08

銅

瀧本哲史『武器としての決断思考』

机上をめぐる決断思考

レビュアー:ユキムラ Adept

 月末が近づくにつれ、職場の私の机は表面積が小さくなってゆく。他の人と机のサイズが違うんちがうかと、邪推せずにはいられない程に。
これはとても由々しき問題なのである。
しなければならんと、とりあえず手近に置いた書類が、気づけば縦に伸びている。ゆわゆる、タケノコ状態というやつだ。
そこにはきっと、思考の停止がある。
やらなければいけないからと、まず側にキープして、そのキープした行為で満足してしまっているのだ。
深く考えていない。
『武器としての決断思考』は、まるでそんな私に向けて書かれたかのような本だった。

 ――机上を片すは是か非か。
脳内ディベートが行われる。

   メリット
内因性→散らかったままだと、大切な書類が見つからない!
重要性→そんなときに限って、急ぎの用事で必要だったりする。
解決性→書類を片してキッチリ整理しておけば、必要なときに必要なものが出せる!

   デメリット
発生過程→ただでさえ月末は時間が無い。片付けなんかしとるヒマがあったら別のことするわ!
深刻性→月末業務がホンマにいっぱいいっぱいなんやって!
固有性→どの辺りに何を置いたのかはそこそこ憶えてるから、(勝手に動かされない限りは)掘り起こせば探してるものは大抵見つかる。

 メリット・デメリットのみっつの条件に対して、論理的な反論を行う。要は、問題に対して至極正当なるツッコミを入れれば良いらしい。
ツッコミを入れたあとは、そのツッコミに関する考察だ。
 それぞれの事情に分解して順繰りに、ひとつの命題に対してじっくりと詰めてゆくのだ。
そうやっていくと、私はやがて回答を得られる。素晴らしい!


 ちなみに、職場の私の机は、未だ散らかったままである。
フローシートを参照にしての判定を経て、デメリットに重きが置かれ、現状維持っちゃってるワケですよ。
……か、勘違いしないでよね、べ別に片付けるのが面倒なだけとか、そんなんじゃないんだから!

ジセダイで『武器としての決断思考』を読む

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2012.06.08

銅

虚淵玄『Fate/Zero』

想いに理由は必要ですか?

レビュアー:ユキムラ Adept

 言峰綺礼が好きである。

 闇の中に一人佇む その立ち姿。
誰にも理解されずにいたサダメを背負って、ただ求道に生きる迷子。
自分の生きる意味を求め、その愉悦が狂っていることの意義を求める探求の者。

 自身の魂の在り方に苦悩していた一人の男が、やがて己を知ることで堕ちてゆく。
その姿は、私の目にはとても美しく見える。

 衛宮切嗣がたったヒトカケラの安堵をいだきて死したのと対照に。
死することすら許されず、言峰綺礼は闇夜の日々を消化し続ける。
作品中、きっと誰よりも混沌とした闇夜を背負っているにもかかわらず――あるいはそれゆえに――私は、この男が眩しいのだ。
 それは、言峰綺礼が背負う悲哀ゆえか。
他者とは決して相容れられぬ制約を埋められた者への、憐憫か。
一人で生きることを覚悟したその背中に、自分には無い確固たる決意を見たせいか。
 ――否や。
 私の小さな価値観で、彼への想いは定義できない。
酩酊のようなこの感情に、理由など きっといらない。名前すらつけたくはない。
作品という名の酒精を呷り、気づけばこの想いに囚われていた。
いつから酔いが回ったか...なんて、そんなの訊くも野暮じゃない?

 だって、私は本当の本当に、綺礼さんのこと好きなんだもん。

最前線で『Fate/Zero』を読む

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2012.06.08

銅

奈須きのこ・天空すふぃあ『空の境界 the Garden of sinners』

イタミを訴える。何よりも、ただ…目で。

レビュアー:ユキムラ Adept

 目という器官は、外界を受け止めるもっとも大きなファクターだ。それゆえに、目という箇所には異端が顕著に出やすい。
 ギリシア神話に出てくるメデューサ、『コードギアス』におけるギアス能力保持者など、例を挙げ始めると止まらない。
『空の境界』に登場する浅上藤乃だってそうだ。
双眸に業を負った彼女は、その業が招いた自身の無痛と、そして焦がれ希った痛みに振り回されることになる。
 漫画版【痛覚残留】第4回18ページの浅上藤乃の瞳を――その奥に渦巻くイタミの訴えを、貴方はもう見ただろうか?
 自身には無くなって久しい痛み、その為に誰かの命を踏みにじる悼み、それら行為の影響で己が魂が負うことになる傷み。
 あらゆるイタミが奔流となって吐き出されている。

「痛みは訴えるものなんだよ、藤乃ちゃん」
 辛いことが起きて沈んでいたときの心の支え。その言葉に背を押され、浅上藤乃は雨の中を歩くのだ。
   ふくしゅうのため。 いたみをえるため。
 そんな理由たちなど、些事。
 私は思うのだ。痛覚も復讐も、彼女にとっては確かに動機だったのだろう。
 けれど――
 本当は、かつて向けられた助言に、ただただ、応えたかっただけなのではないだろうか。
三年前に言えず、先日やっと言えたばかりの言葉の続きを、ただ声高に。

最前線で『空の境界 the Garden of sinners』を読む

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2012.06.08


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