ここから本文です。

レビュアー「オペラに吠えろ。」のレビュー

銅

「じじいリテラシー」

世渡り上手になるために…

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 私の知り合いにも「じじい」がいるわけですよ。あ、といっても全然若いですよ。私と干支が同じって言っていたから、今38歳? だから本当は若いんですけど、精神的に「じじい」っていうか。でも勘違いしないでほしいんですけど、別に「じじい」って悪口じゃないんですよ。

 何というか……「あー、こういう人いるよね」みたいなのをそれぞれのタイプに分けて、便宜的に「じじい」って呼んでいるだけ。たとえば、本の中では「9時5時じじい」っていう、いつも定時で帰るタイプの「じじい」が紹介されているんですけど、それって別に「じじい」に限ったことじゃないですよね? こういう人、女性にもいるし。っていうか私の会社で思い浮かぶのはみんな女性、みたいな(笑)。

 だからね、別に「じじい」という言葉にこだわる必要はないと思うんですよ。頭の中では「年長者」というふうに言い換えればいいと思う。この本は、年長者をよくあるタイプ別にして、それぞれとうまくやっていく方法を指南してくれる……うん、こういうふうにまとめると、ちょっとわかりやすくないですか?

 それでアドバイスもね、すごい具体的でわかりやすい。ほらほら、同じ話を何度も繰り返す上司って多いじゃないですか? 実は冒頭で言った私の38歳の知り合いのYさんもそうなんですけど(笑)、そういうときは「何度聞いてもいい話ですね」って言えば、相手に恥をかかせないし、それとなく「前にも聞きました」って伝えられるからいい、みたいな。人間関係を円滑にするための方法がいろいろあって、それはすごく参考になるんですよね。

 あとは……自分が年を取ったときに「こうはなりたくないな」っていう反面教師的な一冊にもなるよね。だから、あと10年後とかにぜひ再読したい。あ、それより先にすでに「じじい」になっている人に読ませた方がいいか(笑)。早速、さっき言った38歳のYさんに貸そうと思います……なんてね^^

「 世渡り上手になるために…」の続きを読む

2014.06.18

銀

「自分でやった方が早い病」

とある罹患患者の告白

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

「他人に任せるより、自分でやった方が早い」と思う人は決して少なくないと思う。実を言うと、私もその一人。だから、本書で書かれている「自分でやった方が早い病」患者の思考回路はよくわかる。わかりすぎるほどよくわかる。

 でも、今はいいかもしれないけれど、そのままじゃダメなんだと教えてくれるのが本書。そこで重要なのは、タイトルにもなっている「自分でやった方が早い」というよりは、タイトルには含まれていない「他人に任せるより」という部分。要するに、そういう人は他の人を信用していないわけ。他人に任せられると思っていないわけ。どうせ自分が後でチェックしたときにやり直さなきゃいけないんだから、最初から自分でやった方がいいと思っているわけ。

 はい、その思考回路、全てアウトです。

 どうしてアウトなのかは、第3章を読めばわかると思う。例えば、第3章の「病の根本にある『自分さえよければ』という考え方」というタイトル。身に覚えのある人は、ここでグサリとやられよね。でもね、まだまだそんなもんじゃない。この章の小見出しはどれも結構きつい。「『人のため』と言いながら自分の利益しか考えていない」(グサ)、「まわりの人と一緒に成長しようとしていない」(グサッ)、「『自分でやった方が早い病』になるのは『自分大好き人間』」(グサグサッ)……あー、そうです。全部に身に覚えがあります。そして、個人的にトドメを指されたのがこれね、「エースピッチャーの快感に浸り、マネージャーの喜びを知らない」。もうね、完全に見抜かれていると思った。

 こういうふうに改めて文章にされると、客観視できるというか、自分がいかにわがままな人間かと痛感させられるのね。うん、要するに「わがまま」っていうのが「自分でやった方が早い病」患者の性質なんだよね。すごく、思い当たるところがあるもの。

 え、どうしてそれがだめなのかって? 「自分でやった方が早い病」でも、ちゃんと仕事をできているならいいじゃないか、って?

 まあ、それはそうなんだけど、それって「今は」っていう条件付きだよね。10年後に自分がどうなっているかなんて絶対にわからないけどさ、この本では一応、このまま病気が進行しちゃった人にも触れている。結構ヒサンで、それが絶対的に正しいとはいわないけど(たぶん、ちょっと極端な言い方をしていると思う)、でも少なくとも私はああはなりたくないかな。そして著者は、それに気付けたのならまだ遅くはないって教えてくれているんだよね。どうやったら病気から抜け出すことができるかも含めて、さ。

 もちろん、この本を読んだだけで根本から「わがままな自分」を変えられるなんて思っちゃいないよ。でも、読むことで、いかに自分がわがままで、自分本位な人間かっていうのはわかったから、それが最初の一歩だとは思ってる。この本にも出てくるんだけどさ、「無知の知」っていうの? 自分が今まで知らなかったっていうことを知るのって、すごく大事だと思うんだよね。まあ、だから、私は明日から頑張ってみようと思うわけ。他人を信頼するとかそういうのはハードルが高いから、自分が「わがまま」だっていうことを自覚して生きてみようと思ったのね。そうすることで何が変わるかわかんないけどさ、何か変わるきっかけを与えてくれたってだけで、この本を読んでよかったって思えたよ。

あんたがどう思うかはわかんないけど、とりあえず、読んでみたらいいんじゃないかな。

「 とある罹患患者の告白」の続きを読む

2014.05.20

銀

「仕事をしたつもり」

「つもり」がつもりつもってツモになる。

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 「つもり」には、2種類の「つもり」があると思う。一つはうっかりミスの類いで、頼まれていたことをすっかり忘れていた時なんかに「ごめん、ごめん。すっかりやっていたつもりだった」と言い訳するような「つもり」。やられた方はたまったものじゃないけれど、これはやった方も自分が悪いことを知っているからまだいい。

 もう一つの「つもり」はもっとずっと厄介で、本人はやったつもりなのに、周りから見ると実は全然できていない、というもの。例えば、誰かに「そこにゴミがあるから、部屋の掃除をしておいてくれる?」と頼んだとして、その誰かは散らかっている紙くずをゴミ箱に捨てたとする。その人は「紙くずをゴミ箱に入れた」から「掃除をした」と思っている。でも、机の上には埃が積もっているし、掃除機をかけていないから髪の毛が落ちていたりしている……。

 想像してみてほしい。そうしたときに「全然掃除できていないじゃない!」と言ったとしたら、相手はどういう反応をするだろう? 「ごめん、ごめん。すっかりやっていたつもりだった」と謝ってくる? うーん、その可能性は低いと思う。多くの人は「ちゃんと言われた通り『ゴミを捨てて』掃除をしたのに、何でそういうふうに言うの?」と不機嫌な顔をするんじゃないだろうか。

 本書「仕事をしたつもり」で苦言を呈されているのは、この後者の「つもり」だ。言ってしまえば、本人は「仕事をしたつもり」でいることを疑ってもいないけれど、実が伴っていないという類いのもの。一部の隙もなく作られた会議の時の配付資料、ただ数だけを課せられた営業ノルマetcが「仕事をしたつもり」の典型例として提示すると、著者は「つもり」を看破し、その中身の無さを糾弾してみせる。

 ただし、本書はそうした「つもり」を切り捨てるだけではない。それがどうして「つもり」になってしまったのかを分析することで、「仕事をしたつもり」を「仕事をした」にするテクニックも紹介してみせる。とりわけ、「営業ノルマ」がなぜ「つもり」になってしまうのかを解説するくだりは秀逸だ。1日200件の営業電話はただ数だけをこなそうとしても意味がない。200件の電話をすれば、10件は次につながりそうな芽が見つかる。だから、その10件を見つけるために電話をする……という、言われてみれば当たり前のことだけれど、忘れがちなそのことに読者の目を向けさせる。

 結局のところ、著者が言いたいのは「自分の目で見て、自分の頭で考えろ」ということなのだと思う。先に挙げた掃除の例を再び使うのならば、部屋のゴミを拾おうとしたとき、床に埃がたまっていることに気が付くだろう。そうしたら「掃除をする」というのが「ゴミを拾う」だけではないことに思い至るはずだ。そのように、ただ相手の言うことを鵜呑みにするのではなく、相手の言うことに、どんな意味があるのかを自分で考える。その「考える」ことの大切さを本書は教えてくれる。

「 「つもり」がつもりつもってツモになる。」の続きを読む

2014.05.20

銅

「資本主義卒業試験」

「資本主義って何それ? おいしいの?」「おいしいよ!(一部の人が)」

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

「ジェシー、どうしたんだい? きみが暗い顔しているからか、今日は太陽も困り顔で、雲の向こうに引っ込んでしまったよ?」
「はぁい、マイケル。実は資本主義が何かわからなくて、困っているの。このコークも資本主義の産物なんでしょう?」
「何だ、そんなことかい! そういうときはね、ジェシー。この『資本主義卒業試験』がぴったりさ!」
「まあ、ステキ! でもマイケル、ごめんなさい。わたしは学校にいたときに『ジェーン・エア』を課題に出されても読めなかったくらいの活字嫌いなの」
「はっはっは! それなら大丈夫だよ! この本を書いた山田玲司という人はもともと漫画家でね、この本も各章の最初は漫画になっているんだ!」
「わおっ! それってすごく、わたし向きな気がしてきたわ!」
「おまけに、全体は寓話調になっていてね、とても読みやすいんだ。『ジェーン・エア』が読めなかったきみでも、子どものころはイソップ童話を楽しむことくらいはできただろう?」
「まあ、意地悪なことを言うのね、マイケルったら! イソップ童話だったら、わたし、幼稚園では年下の子に読み聞かせたことだってあるわ!」
「だったらオールオッケーさ! それに文章になっているところは会話文がほとんどだからね。ほら、きみがいつもそのブラックベリーで見ている全編会話文のやつがあるだろう?」
「ああ、SSのこと?」
「そう、そのSSみたいにとても読みやすいと思うよ」
「もう、マイケルってば! そんなわたし向きの本があるなら、どうしてもっと最初に教えてくれなかったのよ?」
「まさか、きみみたいにホットなガールが資本主義に興味があるなんて知らなかったからね。良ければ、僕はもう読んでしまったから、きみにこの本はプレゼントするよ」
「まあ、マイケルってば! あなたは、本当に寛大なんだから! 他の女の子にもそうしているんじゃないの?」
「まさか。僕に本をプレゼントさせるほど魅力的なガールは世界にきみだけさ、ジェシー。値段も820円(税抜き)だから、そんなのは僕にとっては屁のカッパだしね」
「もう! あなたは口ばかりが上手なのね!」
「時にジェシー、どうして今になって資本主義のことを知りたいと思ったんだい?」
「実は、このあいだデートしたカールに言われたの。『おまえは資本主義の犬だ!』って」
「カール? カールだって? それってまさか……」
「そう、カール・マルクスよ。ほら、こないだソビエトから亡命してきた」
「ジーザス・クライスト!」
「ちょ、ちょっとマイケル! いきなりどうしたのよ?」
「ジェシー、きみがカールと付き合うことは決して否定しない。けれども、彼の言うことを鵜呑みにしちゃいけないよ。物事は多面的に見るべきなんだ」
「(あ、あら……? ジェシーの様子が……)」
「たとえば、この『資本主義卒業試験』だけど、全体的にはかなり極端に誇張されている部分があって、フィクションとしての面白さを優先したところがある。たとえば、作中に登場する『資本主義ランド』が某夢の国をほうふつさせるところとかね。そういうところは、割り切る必要があると僕は思うんだ」
「そ、そうなのね……」
「でも、だからといってね、ジェシー。僕はきみに、著者の意見を頭ごなしに否定するような人にもなってほしくないんだ。他人の意見もまた一つの意見として、自分の中で消化してほしいと思っている」
「え、ええ……」
「そのことを踏まえた上で、これを読んでほしい。そして」
「そして?」
「そして、自分の中で資本主義がどういうものなのかということを判断してほしい。そう、カールか、僕か、どちらがきみのボーイフレンドとしてふさわしいかを判断するようにね」
「ちょ、ちょっと、マイケル! それって、まさか……」
「おや、もうこんな時間だ! ごめん、僕はこれからジムでワークアウトした後、ジョンたちとパブで会う約束をしているんだ! もう行くよ! それじゃあ、アディオス!」
「マ、マイケルー!」

「 「資本主義って何それ? おいしいの?」「おいしいよ!(一部の人が)」」の続きを読む

2014.05.20


本文はここまでです。