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レビュアー「飛龍とまと」のレビュー

銀

ストーンコールド

壊れていようと、崩れていようと、それは愛だ

レビュアー:飛龍とまと Adept

『ただの一度も世界を呪わなかった者に、世界を愛せるわけがない。』

 解説者・虚淵氏の言葉に吸い寄せられるかの如く、私はこの物語へ足を踏み入れることを決意した。
 江波光則氏の名はネット上で何度か目にしたことがあった。曰く、『ライトノベル作家』らしいが、江波氏が書き綴る物語が単なるライトノベル――中高生をターゲットにおいて読みやすく書かれた娯楽小説――でないことも知っていた。スクールカースト、宗教、偽善、私欲、暴力、闇、影、暗黒、負……只ならぬナニカを予測させる単語の羅列が頁の掠れる音と共に溢れ出る。それが江波氏の文章であり、物語であり、万人受けなど興味もなく、特定の境界にいる誰かへ強いメッセージ性という名の傷痕を刻むような、
 だからこそ、心が躍る。


 このストーリーは親の権威あるが故他人との『関係』を保っていた青年・雪路の、抑えがたい復讐の心から生み出された転落(忌憚)物語だ。奈落へ、奈落へと。もう這い上がることも後戻りすることも許されないような深みへただただ嵌まっていく。いや、それどころか雪路は『這い上がることも後戻りすることも』望まない。自ら墜ちていったようにすら思える。壮絶、としかいいようがない。かつて自らの生活において視界を埋めていたはずの何もかもを血みどろの肉片へと変えた彼の姿はあまりに残酷だ。

 しかし、そんなボロボロの世界だろうと――最期は、愛が残る。

 奇妙ながら、これは一種のラブストーリーでもあると私は感じてしまった。引き起こされたスクールカーストの惨劇よりも、二人の会話が、行動が、結末が、脳裏に焼き付いて離れない。
 真波。損得を何よりも心の基盤に置く雪路が唯一それらを剥がして、手を伸ばし乱暴に、しかし確かに愛そうとした女。答えるように自分を愛してくれた女。彼女の存在があったからこそ、この物語は正しく進むはずだったルートを無理矢理に変更してしまったとも、雪路が自ら計画性のない闇へ飛び込んでしまう結果となったとも言えるかもしれない。
 だからこそ、最期のシーンの『破滅』は、酷く美しい。
 ぐちゃぐちゃに散ったそれと救いようもなくどす黒く赤く染まる世界と、どうしようもない愛でつかの間結ばれた二人、引き離される二人、ただの破滅で終わらせない景色は深く私の胸を抉った。墜ちた彼、残された彼女に見える先は予想できないほど暗く深く、だがそれで構わないのだろう。二人には何をなげうってでも、純粋な愛が残るのだ。


 復讐も、悲劇も、狂気も、血肉も、死体も、破滅も、この腐った世界そのものすらも――二人の愛を美しく陰鬱に彩るほんの微かなピースにしか過ぎない。

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2013.07.08

銅

2013年のゲーム・キッズ

人類は、進化しているのか、退化しているのか。

レビュアー:飛龍とまと Adept

 2013年のゲーム・キッズは言わずもがなショートショート作品だ。もちろんのこと毎回主人公も舞台も異なる。しかしもしかしたら『実際にあり得た』かもしれない、もしくは『近い将来存在する』かもしれないような舞台設定が、世界観が綴られている。ははは、あり得ないよこんなの、と軽く笑い飛ばせない。現実からかけ離れていそうでしかし妙なリアリティを保った物語集なのだ。一編一編が短いため読むのに時間が掛からない、そんなお手軽さもお勧め。私の場合そのお手軽さが悪い方向に作用し、「一編短いしまあそんな時間掛からないからまとめ読みしちゃおうっと」などと考え時間を忘れて画面に張り付いていることが多いのだが。

 クローン人間、SNS、DNAバンク、アンドロイド、不老不死、IPS細胞、3Dデータ、未来、調査、電脳……
 SFモノが好きな人間にはたまらない用語が、物語中のあちこちに散りばめられている。それらの働きにより、大きな世界から切り取られた一部分のショートストーリーは結末を迎える。その結末が幸せなモノか、不幸せなモノか、はたまたどちらとも言えないモノか。何にせよゲーム・キッズの大部分は技術の革命もしくは進化の延長線上に起こるちょっとした、はたまたどうしようもないような出来事に占められているのだが、ここでも奇妙なリアリティを抱いてしまうのだ。

 考えすぎかも知れないが、物語に視線を滑らせる度、かつて過ぎ去った時代に比べ随分と充実してしまった、私たちを取り囲む環境を連想する。それらの行き着く先を暗示しているようにも思えて一種の恐怖すら覚えてしまうのは――はて、私だけだろうか?

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2013.07.08

銅

青春離婚

終わりと始まりを告げる涙

レビュアー:飛龍とまと Adept

 偶然にも私は良い夫婦の日・11月22日に『青春離婚』小説版本文を読むことが出来た。名字が同じ二人が夫婦としてからかいを受けつつ、それがきっかけになり生まれた「山羊の時間割アプリ」と淡い恋心。ただ「奥さん」の視点で書かれた物語であったためかこれが片思いか両思いかは分からない。二人を繋いでいたはずのアプリにも不穏な影が立ちこめて――しかし物語の終盤、二人の「離婚」をきっかけに明かされた不器用な「旦那さん」の想いは、

 あまりに切なく、それでいて甘酸っぱくて、微笑ましくて、そして過ぎ去っていく青春の風景。良作として、私の記憶にしっかりと痕を残していた。よって、後に発売されたコミック版を購入するのに時間は掛からなかった。
 コミカライズを担当したのは、縦長のコマ割り漫画を描くことで有名なHERO氏。この特徴的なコマ割りが、二人の青春の一頁を印象的に彩っている。そしてコミック版に追加された後日談がまた素晴らしいのだ。是非手に取って、二人の行く末を見守って欲しい。


 スマートフォンの液晶画面。表示された山羊のアプリ。その上に落ちた彼女の涙は、一つの終わりと、大切な始まりを静かに知らせていた。

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2013.06.11

銅

うーさーのその日暮らし

『うーさーのその日暮らし』の使い方

レビュアー:飛龍とまと Adept

『うーさーのその日暮らし』には幾つかの用例があると考えられており、数あるその中の一部を紹介していきたいと思う。

 (1)癒やされる
 可愛い容姿のくせしてブラックなネタを吐く黄色い生物・うーさー氏は、見る者に得も言われぬ感覚をもたらすに違いない。いわばギャップから生まれる萌えという奴である。ついでさりげなくツッコミを入れる女の子達の可愛らしさにも純粋に癒やされておくとなお良し。

 (2)卑下する
 人間卑屈になるときもある。俺なんて何も出来ない駄目駄目な奴なんだ……と思うことだってある。そんな時にはうーさー氏のつぶやきを目に焼き付けよう。ロクなこと何にもしてないくせにあーだこーだ偉そうなこと言ってうーさー理論打ち立てつつマイペースにのんびり生きている彼よりかは、自分は出来る奴じゃないかと思えるのではないだろうか。人というのはそういう生き物である。
 あえて人間のクズっぷりを極めつつ毎日を過ごすうーさー氏に敬意を表したい。

 (3)同意する
 前述にもあったように、うーさー氏は時折うーさー理論とも呼ぶべき考えを主張することがある。これがまた妙なリアリティがあり、ついつい頷いてしまう人も少なくはないはずだ。共感が共感を呼び、どこぞの漫画作品名言集と同じ棚に『うーさー理論入門』が並ぶ日も遠くはない、……かもしれない。


 以上は先述の通り一例である。
 この生き物を目にした者達が、それぞれに自分なりの用例――楽しみ方を発見していくと、きっとうーさー氏もほくそ笑むはずだ。


 制服ふりかけ理論全力で同意。

 /人∵人\

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2013.06.11


本文はここまでです。