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読者レビュー

銅

「セカイ系とはなにか」

「セカイ系」をリアルタイムで知らない世代へ

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 「セカイ系」という言葉が大々的に掲げられている本書を手にする人はおそらく、多かれ少なかれサブカルチャーに興味のある人だろう。「セカイ系」にまつわる自分の知識に自信があるのなら、ただ本書を読めばいい。「セカイ系」の起源から意味の拡散、そしてそこから派生した作品に至るまでの一連の流れがしっかりまとめられており、その論旨は頭の中にすんなり入ってくるだろう。

 その一方で、わたしはこの本を「セカイ系」ブームをリアルタイムで知らない人にも読んでもらいたい。たとえば、2014年の現在、中学生や高校生で、好きな作家についてインターネットで調べているうちに「セカイ系」という言葉が出てきたけど、Wikipediaやニコニコ大百科を読んでもよく意味がわからない……という人に。

 そういう人にとって、本書はかゆいところに手が届く一冊だろう。「セカイ系」が元々は某ウェブサイトの管理人が勝手に使っていた言葉であり、いつしか本来の意味とはズレた使い方をされるようになったことが、具体的な作品名や作者名を交えて説明されている。1995年から2009年にかけての作品が多く出てくるが、それらについての知識がなかったとしても、作者による丁寧な説明があるので、議論について行けないことはないだろう。

 わたし自身、中学生だったころは自分がよく読んでいた作家に「新本格ミステリ」と冠されていて、いろいろ調べたものの、調べれば調べるほど諸説があり、「結局、どういう作品が『新本格ミステリ』なの?」と頭を抱えたことがある。もちろん、本書に書かれているのが「セカイ系」をめぐる言説の全てではないが、「セカイ系」が何なのか知りたいという人が真っ先に手を伸ばすべき一冊であることは間違いない。

 本書は2010年に発売された新書を2014年4月に文庫化したもの。おそらくはリアルタイムで「セカイ系」を知らない中高生が手に取りやすい文庫版がこの時期に発売されたのは、素晴らしいタイミングだ。

2014.06.18

さくら
私もピンときていないのかも知れません。その「セカイ系」に自分の好きなものが含まれているのか、知りたいのかどうかがわからないままでしたわ。
さやわか
うーん、このレビューからだとたしかにセカイ系が何なのかは伝わらないかもしれませんね。レビューの書き手としては、まさに読めばそれがわかるんだよ、ということになるのかもしれません。しかし言い換えるとこのレビューは、読者としては結局「読むしかない!」という気持ちにさせるもので、それは一つの書き方ではありますが、もう少し読みたい気持ちを後押ししてほしいものかな、と思います。細かなことですが、なぜ2010年の本が2014年に文庫化されるとタイミングがいいのかも(たとえば2015年や2016年ではなぜいけないのか?)、もうちょっと説明があってもいいかな、と思います。どうでしょうか?ひとまずここでは「銅」といたしました!

本文はここまでです。