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読者レビュー

銅

本を読む人のための書体入門

味覚ちがって、みんないい

レビュアー:ヴィリジアン・ヴィガン Warrior

 書体と聞いて初めに思い浮かんだのは、両親の年賀状のことだった。
 毎年、年末になると、母の独自の感性による的確な指示のもと、年賀状を作成しなくてはならない。厄介なのは「あけましておめでとうございます」や「賀正」をどの書体にするかという事である。
 「いや、もうちょっと、やさしい感じで」とか「もっと、しっかりした感じ」とか「んー、ちょっと軽いかなぁ」と指示を出される度、自分でやってくれと思わなくもない。
 驚くのは「やさしい」「しっかり」「軽い」がことごとくすれ違うことだ。書体に対する感覚がまるで違うのである。
 この本を読んで納得した。
 著者は書体に対する自分の感覚を「味覚」で表現しようとする。だが、味覚は非常に曖昧で、食べ物の好き嫌いがあるように人により全く違う。
 ようするに「書体」に対する感覚も、1人1人とらえ方が違っていて当たり前なのだ。
 書体への感覚なんて、誰と何処で話す機会があるだろうか? 熱心な文芸部や、マンガ同好会なんかではそんなこともあるのかもしれない。出版社等の文字を扱う仕事についている人でもない限り、普通に読書をしている人が書体について考えるきっかけなんて、それこそ年賀状を作るときくらいだろう。

 書体でもう1つ思い当たったのが電子書籍だ。例えばkindleの場合、フォントの大きさ、明朝体かゴシック体か、行間と余白が調整できる。
 書体が2種類しかないため、送り手が届けたかった「味」はそぎ落とされてしまうかもしれない。逆に書体や行間を読み手側で読みやすいように「チューニング」できるから、紙の本ではしっくりこなかったけどkindleなら最後まで読めたなんてこともあるだろう。
 送り手側の選択を尊重するか、読み手側の読みやすさを優先させるか。これもまた、1人1人の「本の味わい方」にゆだねられている。
 さまざまな書体に彩られたこの本を持ち寄り、誰かと「書体の味」について語りたくなる一冊。

2014.03.27

さくら
フォントについて学ぶ機会がなかったからこそ、感覚で学ぶ楽しみがありそうですわね。書いてあるのも「正解」ではなく著者の一つの感じ方でしょうし。この本を読んでからフォントについて語らってみたいわ!
さやわか
うむうむ。本書を読んで開けるフォントについての新しい認識というものが明快に書かれている、いいレビューだと思いましたぞ!姫もおっしゃってますが、「なるほど、この本を読むとフォントについていろいろ言えるようになるのかも!」と思わせてくれます。本の内容についても「書体に対する感覚を味覚にたとえる」という、必要最小限のことに言及しつつ、うまくレビュー全体を引っ張っていけている。年賀状の話と電子書籍の話が、やや思いつくままに書いて並べてみたという感じに見えるのはちょっと惜しいですが、でもいい方向性のレビューだと思います。「銅」にいたしましょう!

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