ここから本文です。

読者レビュー

銀

『マージナル・オペレーション』4&5

アラタとアナタの成長物語

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 もしも、あなたも2014年の日本を生きていると仮定するならば、わたしたちが生きている世界は、アラタたちのそれとは全く違うでしょう。アラタたちは民間軍事会社に所属しており、それはつまり戦争と隣り合わせに生きているということで、人はいつでも死に、そのためには人を殺すことも厭いません。
 対してわたしたちは、命の危険を感じることなく生き、人の命を奪わずとも生きることができ、そして死というのははるか遠くにあると感じていることでしょう。でも、そうした世界の表面を覆う薄皮を一枚めくってみたとき、本当にわたしたちの生きる世界は、アラタたちの世界からそれほどまでに隔てられたものでしょうか?
 たとえば、昨年発生したエジプトのクーデターでは民間人が殺されたとの情報がありました。年末年始はエクアドルでの邦人殺人事件が何度もニュースに流れました。確かに、日本は平和かもしれません。ですが、日本のような平和が保障されている地域は、世界全体で見れば、決して多くはありません。
 『マージナル・オペレーション』シリーズは何よりもまず、主人公アラタの成長を描かれた物語です。物語が始まったとき、彼は日本に生きる、引きこもりのニートでした。世間のことなど何も知らず、知ろうともしない、子供のような大人でした。ですが、一念発起して、民間軍事会社で自分でも知らなかった「戦争のプロ」としての能力を開花していくにつれ、彼は徐々にこれまで知らなかったことを知り、良い人とも悪い人とも出会い、大切な人と別れ、少しずつ大人らしい大人へとなっていきました。
 これまで3巻にわたって『マージナル・オペレーション』を読んできた人ならば、今さらここで言葉を尽くす必要もなく、4巻、そして最終巻である5巻は手に取ることでしょう。そして、1巻を読んでいたときとは、自分の価値観が変わっていることを知るはずです。わたしたちはもう、世界が見かけどおりでないことを知っています。何も知らなかった最初期のアラタは、アナタ自身でもあり、そしてアラタの成長を見守ってきたアナタもまた、アラタと同じように成長してきたのです。
 アラタの物語の最後を、アナタ自身の目で、確かめてみてください。

2014.02.25

さくら
なんでしょう……文章の中に何度も出てくる「わたしたち」という言葉、すっごく気になって。
さやわか
そのとおりですな。この「あなた」「わたしたち」という呼びかけによって、むしろ作中の世界と我々の世界が地続きであると感じさせようとしている。これはレトリックとしてうまく機能していると言えるのではないでしょうか。さらにこのレビュー後半、『マージナル・オペレーション』という物語が何を描いていて、新たな読者にどう読んでほしいかという気持ちの伝わる筆致は好感が持てるものでした。単一のテーマで書くレビューとしては、レビュー全体の長さもちょうどよくまとまっているのではないでしょうか。ということで「銀」といたしましょう!これを「金」にするためにはどうしたらいいか?というのは、まとまっているだけあってなかなか難しいところはあるのですが、しかし今のままでも十分いいレビューだと思いますぞ!

本文はここまでです。