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読者レビュー

銀

サエズリ図書館のワルツさんI

本への愛を伝える人たち

レビュアー:ticheese Warrior

 本はあくまで手段であって、目的は本の中身を読むことだと思っています。だから僕にはワルツさんが遠過ぎて見えませんでした。資源が枯渇し、紙と本自体が希少価値を持つようになってしまった世界で、図書館を守るワルツさんの愛は、深く重くどうやって理解すればいいでしょう。
 どうか教えてください、カミオさん。
 本を読んだことがなかったカミオさんは、装丁の工夫や紙の質、どれも新鮮で価値のほどを計ることができません。さればこそ、その視点は僕が本を目にするものと近いと分かります。カミオさんがワルツさんとサエズリ図書館に触れる内に気づいた紙の本の魅力はなんだったか。
 しおり代わりの本付属の紐、時間経過の紙の色、または自分が読んだ証の開き癖でした。
 些細なことかもしれません。僕も同じ作品が出版されている新潮文庫と岩波文庫、どちらを選ぶか悩んだことがあります。しおり紐が付いていて柔らかい紙の新潮文庫か、作品の持つ重厚感を紙質と表紙の厳粛さで表現した岩波文庫か。気分によって選びました。本屋に行って目的の本を手に取る際、平積み一番上の本を除けて、二番目の本を購入したりもします。みんなやるよね。
 これらは些細な、しかし確かな紙の本への愛です。カミオさんがサエズリ図書館に通う内、徐々に本への愛に目覚めていく様が作中では描かれます。彼女はワルツさんを追っている。遠過ぎて見えなかった姿が、僕もカミオさんの足跡で追っていると見えるような気がしてきます。
 あえて一つ挙げるのなら、ワルツさんの信じる本の魅力は、決してなくならない本を手に取る人の思い出。図書館という場所で、紡がれ折り重なっていくそれは摩耗ではなく、熟成されていく味でした。読書初心者のカミオさんが手に取るのも、ワルツさんにとっては嬉しいコクとなっていきます。
 僕にとって各話毎に語り部となる本を愛する(または愛するようになる)登場人物すべてが、この作品の司書役でした。そしてもし物語がさらに続くのなら、いずれワルツさんの本への愛も全景が見える位置にたどり着ける。そんな楽しみをこの作品は有していると思います。

2013.06.22

まいか
自分のこだわりをかけたぶん本への愛着がわきますね。小さい頃、私は本のよれているところや黄ばんできた紙、またペンで落書きしちゃったところがすごく嫌でした。それで捨ててしまった本もあります。でも、今となってはあれはかえられ ない思い出だったんだなぁ。あー、また読みたいなぁ。
さやわか
これはいいレビューですね。書き手自身の「紙の本」に対する実感を最初に述べてから、作中人物と自分を重ね合わせている。書き手自身がどういうスタンスでいるのか明確なレビューは、単に作品内容をあげつらっているレビューよりもずっと説得力が高いです。書き手に特有のレトリックが時々クセのある感じに思えますが、これはこれで個性にもなっているようです。ということで「銀」とさせていただきました。これを「金」にするにはどうしたらいいでしょうか? そうですね、「カミオさんが気づいた本の魅力」と自分の「サエズリ図書館のワルツさん」という本の読書体験をも、重ね合わせてみるのはどうかな、と思います。筆者はこの本を紙で読んだのであれば、すなわちここにもカミオさんの感じたのと近い本への愛情が宿ったはずで(そういう論旨のレビューなのですから)、そこに触れないのは惜しいかな、と思いました。いかがでしょうか。

本文はここまでです。