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読者レビュー

銀

『ひぐらしのなく頃に解 第四話 祭囃し編』 の表紙

物語と彼らを見送る

レビュアー:横浜県 Adept

本編最終話にあたる祭囃し編の表紙は、今までのものと趣向が異なっています。
鬼隠し編から皆殺し編にいたるまでは、1冊ずつのイラストが独立していました。各巻1人、ときに数人のキャラクターが中央に据えられています。
祭囃し編はどうでしょうか? なんと上中下巻の表紙絵が繋がっています。これら3冊を横に並べると、1つのイラストが完成する仕組みになっているのです。
はじめ上巻が発売されたときには、もちろんながら見抜けませんでした。中巻の表紙で気がつき、下巻の発売と同時に3枚の絵を床の上でくっつけてみました。

イラストの舞台は祭りの会場です。作中に登場する綿流し祭でしょうか?
みんながとても楽しそうです。上巻の帯にある「惨劇」の2文字が、とても似つかわしくありません。上巻発売時は不思議に思ったものです。いまから最終決戦だというのに、なんでこんなに愉快な表紙なのでしょうかと。
でも完結後に再び眺めてみると、これは下巻で大団円、幸せな結末を迎えたあとのものだと分かります。

またメインキャラクターたちの笑顔も素敵ですが、その後ろに描かれている人混みにも注目したいですね。赤坂や大石など、重要な脇役たちが顔を揃えています。ほとんどの巻で死んでいたはずのキャラクターもいますね。
祭囃し編では、誰も死ななかったのだと、みんなが幸せになれたのだと、そう実感できる表紙に仕上がっています。

ちなみに上巻には圭一とレナが描かれています。みんなは彼らを先頭にして、ぞろぞろと歩いているんです。
ようは上巻、中巻、下巻と順に繋いでいく度に、彼らの行列は後ろへ後ろへといくわけです。そこにはある種の哀愁を感じます。長かった物語も、ついに終わりを迎えたのですね。祭囃し編を1冊読んで次へ進むごとに、僕たちは彼らを数人ずつ見送ることになるわけです。

そんな彼らは、決してこっちに顔を向けてはくれません。それぞれが、それぞれの方向を見ています。
ただ1人だけ、こちらをじっと眺めているキャラクターがいました。
下巻に描かれている梨花ちゃんです。
作中での彼女は、惨劇の全てを知る裏の主人公でした。どうやらこのイラストにおいても、他のキャラクターを超越する立場にあるようです。こっちが「視える」んですね。彼女はどこか含みのある目線を投げかけてきます。でも口元は確かに笑っていて、この先の、祭囃し編の向こうにある、明るい未来を感じさせてくれるのでした。

そして彼女の左手は、不自然に挙がっています。こちらを向いて。
これで『ひぐらしのなく頃に』の本編は終わったのだと、別れを告げるように。
僕はやはり、それを見送りながら、手元にある3冊の本を、棚にしまうのでした。

最前線で『ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編』を読む

2012.06.08

のぞみ
うわー!!! ほんとだ!! 繋がってるー! 梨花ちゃんこっち向いてる~!!
さやわか
うむ! これはいいですな。『ひぐらし』という物語が終わっていくことについての一抹の寂しさと、作品自体についての言及、そして些細なことかもしれないけれども、この絵がなぜこのように描かれているのかをきちんと盛り込んで、うまく両方を成り立たせている。
のぞみ
気になる内容と、丁寧な書き方にぐいぐい読んでいましたわ~!
さやわか
文体もすっきりして読みやすく、考察も押しつけがましくなく、何よりも、自分の書きたいことに固執しているふうに見えない、さりげなさを出しているところがいいと思いました。未読の読者であっても、高圧的な感じがないので何となく読ませてしまいますね。これは「銀」とさせていただきます。ただ、これを書き換えて「金」にするにはという話をするのはちょっと難しいですね。これはこれでよく書けているものですから、このままでもいいのではないでしょうか。

本文はここまでです。