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読者レビュー

銅

「死体泥棒」

雪の冷たさを知ること

レビュアー:USB農民 Adept

 この小説を一言で言ってしまえば、「一人の男が恋人の死を悲しむ話」だ。
 とてもわかりやすい。が、一言で表すことと、長編小説の形をとって表すことはまったく違う。

 雪の中に手を差し入れたままにしていれば、やがて低温火傷を起こすことは、実際にやってみるまでもなく誰にでもわかるだろう。しかし、その雪の冷たさは、実際に手を差し入れる経験がなくてはわからない。

 恋人が死ねば、それは誰だって悲しいだろう。そんなことは経験するまでもなく誰にでもわかることだ。
 でも、それはどれだけ悲しいことなのか。
 その死は、どれくらい冷たいものなのか。

『死体泥棒』は、雪の中に手を差し入れた主人公に感情移入し、追体験することで、雪の冷たさを教えてくれている。
 白い雪に包まれた世界はとても綺麗な風景だが、その世界は同時にとても冷たい。
 もしこの小説を読んで感情を動かされたなら、それはきっと、この雪に触れて、その冷たさを知ったからだと思う。

 雪に手を差し入れる行為は、いつだって冷たい手触りを与えるものだ。
『死体泥棒』もきっと同じだ。
 この小説を読んで知った冷たさは、再び読み返した時でも、きっと同じくらい冷たいに違いない。

2012.01.30

のぞみ
死と雪を、冷たいという言葉で繋いでいて、比喩が綺麗だな~って感じましたわ!
さやわか
そうですな! このレビューの肝はまさにそこで、その美しい表現で作品をうまく形容できていると思います。要旨としては実際のところとてもシンプルなのですが、だからこそ、この叙事的な表現が、むしろ書き手の心情を表すものとしてうまく効いている。いいと思います! ということで「銅」を贈らせていただきました。こういう仕掛けがきれいに働いているレビューははっとさせられるところがあって、読み応えがあると思います。狙いすぎると変にかっこつけた文章になってしまうと思いますので、さりげなくやるのがコツですね。

本文はここまでです。