ここから本文です。

読者レビュー

銅

マフィアとルアー

『マフィアとルアー』は夜の森

レビュアー:USB農民 Adept

 深い闇夜の、暗い、暗い、道を一人で歩く。
『マフィアとルアー』を読んで感じるのは、そんな風な情景。

 明るい街の喧騒や、人気ない野池の静寂や、うだる熱気にかく汗や、腿にたまった重たい疲労。
 デフォルメされたキャラクタや背景からは、そんな感覚が本を持つ身体に響いてくる。
 そして、登場人物たちが持つ、寂しさと、やるせなさと、消えずにくすぶり続ける身体の熱も、彼らの体から、本を通して、私の体に伝わっていく。
 この漫画を読んでいるうちに、まるで自分が、彼らと同じ時間を過ごしたような気がしてくる。
 今まで知らなかった感覚も、読後には、かつて経験した記憶のようにはっきりと思いだせる。

『マフィアとルアー』は、夜の森みたいな。

 夜の森を歩くと、昼間は気にとめないような音が耳に届く。
 虫の声。木々のざわめき。足元の葉を踏む音。自分の吐息。自分の心音。
 星の音さえ聴こえてきそうな、澄んだ感覚で歩く、夜の森。

『マフィアとルアー』は、夜の森みたいな、そんな漫画。

2011.09.30

のぞみ
詩のような、抽象的な感じと、自分で体験して感じた部分と、それぞれ、対比になりそうですね~!
さやわか
そうですな。このレビューでポイントになっているのはまさにそこです。前半の具体的な描写と、後半の比喩的な表現を重ねて多角的に作品を見せようとしています。短い中に、こういう試みをするのはとてもいいことだと思いますな。望めるならば、後半の比喩が最後に前半の内容にリンクする形で終わるといいのではないかと思いました。今だと、前半と後半がそれぞれ独立した文章ですと言われても、まあそうかなと思ってしまえるのですな。それぞれがよくできているがゆえに、分離した印象を与えるのは惜しいかな、と思います。ということで、今回は「銅」にいたしましょう!

本文はここまでです。