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読者レビュー

銀

空の境界 第三話「痛覚残留」第一回

二つの暴力描写について

レビュアー:USB農民 Adept

「痛覚残留」は痛みに翻弄される少女の物語だ。
 あるいはこう言い換えてもいい。
 痛みを受けることと、痛みを与えること――つまりは暴力に翻弄される少女の物語、と。
 その少女――藤乃は、暴力を受ける側と、暴力を与える側の両方の役割を与えられる。 
 連載第一回の冒頭では、藤乃の身体に酷い暴力の痕が刻まれると同時に、それ以上の暴力を行使する存在としての藤乃の描写も描かれている。
 暴行され服の乱れた藤乃の身体と、無残に横たわる男たちの捩れた死体。
 その二つの絵には、どちらも藤乃の視線が同じページ内に描写されている。
 それは、読者の視線をそこで行われている暴力へと誘導している。
 この二つの絵(藤乃が受けた暴力と、藤乃が与えた暴力)が、「痛覚残留」という物語の強度を支えていることを理解した上での演出だろう。
 この演出がさらっと行われている事実に、作者の高い漫画表現力が感じ取れる。
 物語中盤以降で描かれるだろう、式と藤乃の在り方の違いや、藤乃が迎える結末も、この暴力の表現があればこそ活きてくる内容であるから、冒頭のシーンの意味はとても大きい。
(冒頭の描写が、どのように中盤以降の展開に関わってくるかは、実際に連載を読むことで確かめてほしい)

 物語開始僅か数ページの間に、作品にとって最も大事な要素が力強く描かれていることは、すごいことだ。
 きっと「痛覚残留」は傑作になる。
 そのことがわかっているから、続きを早く読みたいと思う。

2011.09.30

さやわか
うまいですな。普通にうまい。読みたくなる! そんなレビューです。とりわけ、漫画表現による演出について言及しているのはいいことです。漫画に限らず、作品について論じようとすると人はしばしば物語の中身、作品がどういうお話を語っているかにばかり焦点を当てがちなのですが、作品内からある表現のあり方を取り出して、そこから作品の全体像を語るというのは非常にあり得るべきまっとうな書き方です。「銀」としての価値は十分です。では、このレビューはなぜ「金」ではないのか? それはやっぱり「実際に連載を読むことで確かめてほしい」という部分かなと思います。暴力を描くことはなぜこの作品にとって重要なたのか。それはぼかしながらも、文章の全体としては暴力描写の重要性を語っている。これはそういう文章なのですな。しかし、これは悪くはありません。むしろいいものです。ただ、その歯がゆさを越えて読者が納得するようなマジックがあると、それは「金」に値するものだと思います。おわかりでしょうか……。ともあれ、「金」の条件である「発展性」について考えるのには最適な、超上級の「銀」だと思います!

本文はここまでです。