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読者レビュー

銀

Fate/Zero

「Fate/Zero」は愛の物語である

レビュアー:ラム Adept

主人公の衛宮切継は、当たり前のように人を愛せる人間味にあふれた男。
正義と愛の間で苦悩するが、家族を犠牲にしても己の正義を貫く非情なヒーロー。

一方、それに敵対する言峰綺礼は、聖職者ながら愛がわからない。
ゆえに自分と似ていると感じた切継に執着する。

あるいは恋愛、敬愛、自己愛、さまざまな種類の愛が「Fate/Zero」にはある。

特筆すべきは雨生龍之介、こいつは殺人鬼である。
私はこいつが大好きだ。殺人鬼だから、が理由ではないよ、もちろん。
龍之介は連続殺人犯でありながら、純粋に世界を愛し世界を楽しみ世界を肯定している。
素直な感情表現でもって人生を謳歌している。殺人鬼だけど。
すべての登場人物の中で、理想の信頼関係を築けているのもこいつ。殺人鬼なのに。
何にもとらわれてないその自由さが羨ましい。

龍之介の登場は、「死」について語るところから始まる。殺人鬼だからおかしい、殺人鬼だから狂っているということではなく、至って正常に狂っているので何故龍之介が殺人鬼になったのかの理由も分かりやすい。
龍之介に限らず、すべての登場人物のZeroに至った背景が濃く記されている。

「Fate/Zero」は愛の物語である。
じゃなきゃ殺人鬼なんか好きになんないもん。

2011.04.15

のぞみ
殺人鬼さえも、好きになってしまうというところから、“愛”に関してクローズアップされていて、新しい切り口を見たような気がしましたわ。
さやわか
うむ! 『Fate/Zero』については群像劇であるとかそれぞれの立場があるというレビューが多いのだが、「これはすべて愛についての物語だ」という観点から雨生龍之介という最も異端なキャラクターも語ることができるというわけですな。これは面白い指摘だし、しかも作品の本質を理解して、その考え方で全体を説明付けてみせるといううまい書き方になっています。
のぞみ
最後の「じゃなきゃ殺人鬼なんか好きになんないもん。」の一文が、それまでの雰囲気から一変して、愛らしさを感じましたわ。
さやわか
そこはうまいですね。この一文を用意するために全体がちょっと堅めのトーンになっている。キャラクターへの愛情から全体を語るやり方がスムーズにできているうえに、文章としても情熱をきれいに出せている。あと、些細なことですが「主人公の~」から書き始めるのは簡潔に書くためにきちんと狙ってやっていることだと思いますが、こういうのは結果的にスピード感、勢いのあるレビューとして読者に伝わるので好ましいです。コラムとか、字数の少ないものでしばしば使われる手法ですね。ということで、そつなくできたよいレビューです。これには「銀」を差し上げます!

本文はここまでです。