テーマ 未だに古くならない「傑作」
過去のレギュラーセレクター 山中 武
2011.07.13
読者の皆様、いつもお世話になっております。星海社アシスタントエディターの山中です。親しみを込めて“先生”と呼んで頂ければ幸いです。今回、最前線編集長・太田の代打でしばらくのあいだ登板させて頂く事になりました。短い間ですがよろしくお願いいたします。――さて、早速今週のテーマについて。未だに古くならない「傑作」といっても、「傑作」だから古くならないのでは、という向きもあり、自分で考えたテーマに早くもダメ出しを……。なので、今回は少し目線を変えて、「新たな形で現代へと継がれた傑作」を選んでみました。
星海社朗読館 銀河鉄道の夜 第9章「ジョバンニの切符」宮沢賢治/竹(イラスト)/坂本真綾(朗読)
最前線の読者の皆様にはすっかりおなじみかな、と思ってしまう『坂本真綾の満月朗読館』ですが、星海社や最前線は知っていても『満月朗読館』を知らないという方に会う事は意外と多いです。ですので、この本で初めてそんな企画があったのか、と知る方も多いのではないでしょうか。坂本真綾さんの繊細で透き通るような朗読と竹さんの幻想的なイラストによって、かつての傑作が新たな生を享けて世に放たれようとしています。是非真夜中に明かりを消して、耳を澄まして聴いて欲しいです。
新釈 走れメロス 他四篇森見登美彦
森見登美彦さんと古典文学のコラボレーション。古き良き風合いを感じさせる文体に、現代社会の風刺や新しさが編み込まれた森見さんならではの一冊です。ライトノベルの文法に則った古典文学の復活は多数見受けられるようになりましたが、文章の方からも新鮮なアプローチを見いだし、さらに現代文学と古典文学の意外な衝突を森見さんによって演出するという、企画としての完成度の高さに嫉妬してしまいます。もんどり! もんどり!
レベルE冨樫義博
突然の文庫化、そしてまさかのアニメ化と次々に展開されて、地球はひょっとしてドグラ星人に侵略されてしまったのでは……、と思わずにはいられない冨樫義博さんの傑作中の傑作。連載開始が15年以上前ということ、2年強も連載していたこと等々に驚きを覚えます。当時はカラーレンジャー編に執心していましたが、今読むと食人鬼編もなかなかアクの強い大人向けの外連味を感じさせてくれて、自分の成長を作品が待っていてくれたような気にもなります。
ブラフRavensburger
近頃全うできていない趣味にボードゲームがあるのですが、思い出すような気持ちでボードゲームからもひとつ。プレイヤーそれぞれが5つのサイコロをカップの中で振って、自分だけが出目を確認し、“場の空気”を読みつつ相手のダイスの目を予想し、嘘を吐いている人間を突き止める、というゲーム。どんなボードゲームでもそうですが、相手の手を読むのは本当に楽しいですね。先日とあるゲームで編集長太田の手を読み切り、マイナス点を全て押しつけたのを思い出します(もちろんドヤ顔です)。ちなみに現代へと継がれた例として、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』にこのゲームが登場しています。
ゼルダの伝説 夢をみる島DX任天堂
最後は愛するビデオゲームより。本タイトルは最近ニンテンドー3DS上の「ニンテンドーeショップ」でダウンロードが出来るようになりました。モノクロ版から数えて15年以上ぶりぐらいに遊んだ気がしますが、この色褪せない面白さは本当に凄いですね。ゲームボーイゆえ、フィールドマップ自体はそれほど広くない作りになっているはずなのですが、微塵も狭いと思わせないところに「ゼルダの伝説シリーズ」の生みの親・宮本茂さんの匠の技術を感じます。割とエンディングが切なく、子供を全く舐めていない作りも大好きでした。
本文はここまでです。