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テーマ 未だに古くならない「傑作」

レギュラーセレクター 曜日

初めて出会ったときの全身を巡る血液がサイダーになったような気持ちを忘れません。炭酸が永遠に抜けないサイダーみたいに、それは今でもわたしの中にずっとあるのです。それが、古くならないってことでしょう?

ファンタジックチルドレン なかむらたかし

これに出会ったのはつい二年程前の夏。えいやっと、DVDを一気に購入してしまいました。普段冒険するような買い物はしない方です。ただ、この物語に何となく、確信があったのです。あ、わたしこれ、好き。たぶん、いや、絶対好き。そんな感じです。このお話の始まりはひとつの終わりから、終わりはひとつの始まりです。一本の糸にひとつずつ、記憶の欠片を通していって、最後に大切な首飾りになるような。どこかに帰りたいなあ、って思うときがあったら、どうか、あなたに観てみてほしいんです。

100万回生きたねこ 佐野 洋子

言わずもがなの有名絵本です。はじめて手にしたのはいつだったかなあ。ほんとのことをいうとね、全然納得いかなかったんです。多分、おじいちゃんかおばあちゃんが、わたしに読んでくれた気がします。そのとき、もう生き返らないの?どうして?と言って困らせた覚えがあります。今はただ、たくさんの人間にとってそうだったように、白ねこにとってのとらねこが、とらねこにとっての白ねこであることを願って止みません。わたしは大人になって、やっと、この本を最後まで泣かずに誰かに読んでやれる気がしないんです。

モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん 松谷 みよ子

小学校の図書室に全部そろっていたのがモモちゃんとアカネちゃんシリーズです。これなくして、わたしの図書室ライフは語れません。この物語を忘れられない理由は、モモちゃんとアカネちゃんの物語が、ただ幸せなだけではなかったからです。パパは歩く木、ママは育つ木…相反する二本の木がいっしょでは枯れてしまうというようなお話で、ふたりのパパとママは離婚してしまうんです。幼心にそれが衝撃的で、そのときに出てくる、ママにとりつく「死神」は、ものすごく怖かったんです。この物語は、ファンタジーでは決してなくて、わたしのその後の人生にとっても、慰めであり、心の支えになってくれました。

半神 萩尾 望都

これも、初めて読んだのは小学生の頃で、とにかく理解ができないままに、頭の良くなかったわたしはひたすら、「怖い漫画」と思いました。それがずっと忘れられずに、吸い寄せられるように再読したのが中学三年のときです。そのときの衝撃といったら…。その後、わたしの中学校では一部の友人達がほとんどみな萩尾望都先生にハマるという様相を呈しました。家に帰って「ねえおかあさん!はぎおもともってる?」って聞くと、お母さんが、「!?持ってるわよ…」といって嬉しそうにしたという話も、よく聞きます。我が家でも、親子二代で、大切に持っています。わたしには、どうしても頻繁に開くことのできない漫画ですが、いつでも本棚にあります。

豆大福【丹波の黒豆大福】

甘いものが大好きです。悲しいことがあると、いやなくても。甘いものを食べるとふわーと幸せになります。だから大福のような顔になるわけなのですが、えっと、置いとこう。でもわたしはグルメじゃないので、コンビニのレジ横の豆大福でも超幸せになれる女です。でも大福は、絶対豆大福!できれば粒あん!豆です!豆だから!っていうゴリ押しの豆感がわたしのどストライクです。ちょっと塩っぽいのも好き。塩豆大福なんて最高。これ考えた人、すごいよ。甘い豆の文化っていうのは、それこそが傑作だと思いますね。ほんと。

釣巻 和さん

87年生まれ。漫画家。代表作に『童話迷宮』『くおんの森』『水面座高校文化祭』などがある。2010年11月に坂本真綾の満月朗読館・第三夜『ベッドタイム・ストーリー』(著・乙一)にイラストを寄せ、その繊細な絵筆によって多くの視聴者を魅了した。

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