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テーマ 未だに古くならない「傑作」

レギュラーセレクター 曜日

釣り針と聖書が代表例ですが、「人類はこれを何千年使う気なんだ?」というおそるべきツールが存在します。時の流れにも、新技術や新思想にも負けない傑作群。今回紹介する5つのアイテムは、今のところ、古びれる気配など皆無ですが、いつまで生産されるのかは誰にも解りません。あと10年かもしれない。あと100年かもしれない。でも、ひょっとしたら、あと1000年。

カスタム823パイロット

「ヘビーユースに最適」という触れこみ通り、そんじょそこらの繊細な万年筆とは概念が違います。最大の特徴は、パイロット社が1933年に発表した「プランジャー吸入式」なる画期的な機構により、インクがたっぷり入るようになったことです。万年筆は構造上、インクはそれほど入りません。ですが本品ならば大丈夫。長編小説も何のその。ただし、本当に大量のインクが入るので、休憩のタイミングがつかめなくなります。

ロシア製BIGMUFF(画像はアメリカ製)Electro-Harmonix

男だったらロシア製を選びましょう。Amazonにはアメリカ製しか置いてありませんでしたが、あんなアルミ野郎とはわけが違う重厚さがロシア製には宿っています。とはいえ、どちらも「轟音」を、「何かが決定的に壊れた音」を響かせてくれるのは確実。手始めにダイナソーJr.なんてどうでしょう。超絶轟音のギターサウンドに乗って流れる、Jマスシスのヘロヘロボイスを聴いて、ちょっとモヤッとしてくれたら嬉しいです。

ルービックキューブメガハウス

「どこの家にも必ず1個は置いてあり、挑戦してもうまくいかず、気がつくといつの間にか消えている」ことでおなじみの、多くの中毒者と脱落者を生み出しているこの玩具は、1977年に発売されました。最近は6秒台でそろえたり、目隠しの状態でそろえたりと、ビックリ人間の度合いがやや強くなっていますが、はじめて完成させたときは、「ああ、これって、本当にそろうんだ……」と、当たり前のことを思ったものです。漫画でも小説でも、ルービックキューブを常にいじっているキャラは無条件に好き。スマイルとか。

ゴールドブレンドネスレ

中村吉右衛門や遠藤周作といった「違いのわかる男」が、やたら格好良くコーヒーを飲むという、どの年代にもお馴染みのCMは、ゴールドブレンド発売から3年後の1970年にスタートしました。早く出演したいものですね。そんな佐藤は本品を何本飲んだか、見当もつきません。「作家といえばコーヒーだろ」と、作家志望者時代に飲み始めてから早幾年。書けるときも書けないときも、いつもゴールドブレンドの苦味と香りが側にありました。おそらく、執筆をやめるその日まで飲みつづけるのでしょう。

Wave music systemBOSE

百科事典サイズのコンパクトさと、小さな音量でも聞き取れるスピーカーユニットを備える本機は、オーディオマニアに「手軽な高音質(笑)」と馬鹿にされがちですが、それって実はいちばん難しい概念だと佐藤は思います。本機をマスコミに披露したとき、自社製の50万円近いスピーカーと聴き比べをさせたBOSE社の心意気と、「手軽な高音質」へのストイックすぎる態度にクラクラしました。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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