テーマ 生き様に惚れる歴史上の「偉人」たち
レギュラーセレクター 水曜日 太田克史さん
2011.06.01
生き様と死に様は常にイコールの関係だ。死が鮮烈であればあるほど、その人物の生は光り輝く。そんな僕にとって、ほとんどの人間が病院で死ぬ現在、ほとんどの「歴史的偉人」はもはや消滅したといってもいい。残念だ。
ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上)塩野七生
「ヨーロッパ」を構想したのがカエサルならば、その前提となった「地中海世界」を構想したのはハンニバルだと僕は考える。ただし、その構想を実現したのは彼の宿敵、ローマだった。ハンニバルは、ただ勝利のためだけに世界を必要としたから敗れ去った。ローマは、勝利した後の世界を必要としたからこそ勝利した。しかし、だからこそ、ハンニバルは純粋で美しい。
ナポレオン獅子の時代長谷川哲也
世界史上究極の“成り上がり”の一人、ナポレオン。なぜ僕は彼のことをこんなにも好きなのだろうか……。この『ナポレオン 獅子の時代』の作者、長谷川哲也さんもきっと同じ思いに違いない。アウステルリッツの三帝会戦も、マレンゴの戦いも、ワーテルローも、ナポレオンの戦争は、彼の戦争である前に彼のドラマであり、彼の芸術すぎるのだ。
国盗り物語〈1〉斎藤道三〈前編〉司馬遼太郎
『国盗り物語』は、斎藤道三と織田信長の物語だ。そして、彼らの関係を師弟関係として描いた作品は、過去には全く類例がなかった。歴史とは事実ではなく、歴史家によってつくられるものなのだ。さて、編集者から見たこの『国盗り物語』の白眉はこの第一巻にある。十分な史料が存在しないなかで、それでも描かれる歴史小説の完璧な姿がここにある。冒頭からの数十ページには、きっとどんな編集者でも微塵も直しを入れられない。まさに完璧な小説です。
アレクサンドロス大王東征記〈上〉―付インド誌フラウィオス・アッリアノス
俺も“果て”まで行ってみたい。
地獄の季節ランボオ
すべての詩業を捨て去り、灼熱の砂漠に失踪……。詩人として完璧なエンディング。思うに、人はただ詩を書いているあいだは、ただ詩を書いている人にすぎないのであって、存在そのものを詩に純化していくことによってしか“詩人”にはなれないのでないだろうか。その意味で、彼の死に様には一流の詩人はこうでなければならないと深く思わされる。さすがすぎる、ランボオ。
太田克史さん
72年生まれ。編集者。95年講談社入社。03年に闘うイラストーリー・ノベルスマガジン『ファウスト』を創刊。舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新らをデビュー当時から担当する。10年、未来の出版社を目指し星海社を設立。代表取締役副社長に就任する。
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