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テーマ 一生に一度は行ってみたい国と地域の「ガイドブック」

レギュラーセレクター 曜日

海外旅行。非現実を手っ取り早く獲得するのにうってつけなこの文化は世界に歓迎され、我が国では年間一千万以上の人間が、パスポート片手に海外へ飛び立っています。このような常識がある中で恥ずかしい告白をしますが、佐藤は日本から出たことがありません。それでも各国のガイドブックなどは持っていまして、未知なる国への思いを馳せては家から出ない日々を続けています。「文字の中にだけ存在する国」というものがありまして、植草甚一のニューヨーク、澁澤龍彦のフランスなどは筆頭でしょうが、そのような、「今はもう失われた、或いは最初から存在していない幻の国」を読むのも、ずいぶん楽しいものですよ。

ガイド・トゥ・グラスゴー・ミュージック

グラスゴーというのは国名ではなく、スコットランド中西部にある都市名で、この町で何が生産されているかといえばロックです。スコティッシュロック。この、ちょっと猫っぽい響きのロックが日々生まれていまして、ジザメリもベルセバもモグワイもグラスゴー出身のバンドです。バナナ印のジャケットが眩しいヴェルヴェット・アンダーグラウンドを、ほぼ百パーセントの割合で教科書として育った彼らの音楽を聴くだけで、青春状態に突入できます。

現代ロックの基礎知識鈴木あかね

本書が魅惑的に伝える国はいくつもありますが、最もページを割いているのは我らがイギリス。我らがUK。我らがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国でしょう。階級意識ガチガチの、失業保険で食い繋いだ弱者たちによる、ロックを用いての反抗と成功。ときどき失敗。そんな彼らの冒険が、ページいっぱいに咲き乱れています。これを読むたび佐藤は、「ああー。たった二、三億円のために信頼を失うのは恥ずかしいや。フレディは鯉を750万円分も買ったんだから」と思い、やはり青春状態に突入できます。

セレブママのハワイガイド講談社

「なんつー本を出してんだよ講談社! あ、ここは星海社だったか」というジョークが通用するほどには、星海社に成功してほしいと願う佐藤なわけですが、このバブリー(死語)なコピー満載の本書を読むたび、頑張らなアカンと、適当な関西弁が出てきてしまって関西人から非難の嵐です。出国するだけでも金かかるのに、リゾートでレストランでお土産かいな! どんだけ金使わす気や! 夫を殺す気か! と適当な関西弁が出てしまって、またしても関西人から非難の嵐です。今宵は星が奇麗ですね。

旅ボン 北海道編ボンボヤージュ

マニアックな国を紹介しようかな。北海道。ね? 知らないでしょう? 人口五百五十万人の国家で、『水曜どうでしょう』と『日本ハムファイターズ』が収入源。安部公房と小林多喜二と滝本竜彦と京極夏彦と佐藤友哉の産出国。一年の大部分を雪に閉ざされ、『週刊少年ジャンプ』や『週刊ファミ通』の発売日も遅いという欠点はありますが、梅雨もなければゴキさんもおらず、花粉症の症状も軽いという桃源郷なのです。そんな美しき北海道のキャッチコピーは「試される大地」……。

飛行機の操縦坂井優基

海外旅行をしないのは、飛行機が嫌いだからです。必要に迫られれば乗りますが、つまり必要に迫られない限り乗らないので、搭乗回数は通算してもまだ一桁台でしょうね。飛行機を嫌う理由は大体百個くらいありますが、筆頭なのは「死亡率の高さ」です。「地球で一番安全な乗り物」と云われようと、事故率の低さを挙げられようと、いざ事故が起きた際に助からない可能性が極めて高い限り、こんなものには乗りませんよ。皆さんは知りませんが、佐藤は残り一機しかないんだから。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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