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テーマ 「遺作」になった傑作――!

過去のレギュラーセレクター

ありがたい事に、僕の好きな作家の方々は多くがまだ存命です。遺作となる作品は、体力的に大作である事はあまりないし、未完である場合も多いので、なかなか候補を出すのが難しいですね……。亡くなられた作家の方々について調べたりしていると、自分はあと何本物語をつくり、何枚絵が描けるだろう……と考えてしまいます。

ファウンデーションの誕生アイザック・アシモフ

アシモフは好きなのですがファウンデーションシリーズは1巻で挫折して放り出していました。アシモフが晩年になり、人生の総決算のようにファウンデーションとロボット物の世界を統一するような作品群を発表したのを知り、1巻から読み返したらこれが面白く、最新シリーズでは僕の好きだった『鋼鉄都市』に出てきたロボットが登場して、別個の世界がパズルが組み上がるように統合されてゆく感動を味わいました。新宿の紀伊國屋でアシモフの作品が平積みされ「巨星逝く――」というポップが揺れていたのを今も思い出します。

街角の煙草屋までの旅 吉行淳之介自身による吉行淳之介3吉行淳之介

どの作品が遺作となったのか分からないので、亡くなる1年前の文章が収録されているこの本を挙げておきます。とにかく文章が好きでした。吉行淳之介を知ったのは、多分亡くなる5年前くらいで、既に評価も定まっていて、僕が生まれるはるか以前に書かれた作品を掘り起こすように読んでいたので、ニュースで訃報を聞いて、むしろ今までこの日本のどこかに実在し、生活していた人であったと言う事が意外に思えた記憶があります。

宇宙のランデヴー1〜4アーサー・C・クラーク、ジェントリー・リー

これが遺作ではないのですが、楽しく読んだ記憶があるので。クラーク作品を読んでいると、そのスケールの大きさに、自分が有限の寿命しか持っていないという事を一瞬忘れる事ができます。僕が生きている間に個人が宇宙を旅する事はできそうにないですが、それがどのような事であるか、分かった気持ちにさせてくれるところが好きです。

烏の飛ぶ麦畑ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ

『生き様に惚れる歴史上の「偉人」たち』の質問の時ゴッホについて調べていたら自分の中で再びゴッホブームが(笑)。正確にはこの絵の後にも数点作品があるようですが、遺作、という言葉から連想するのは、この絵とオーヴェールの教会の2枚です。ゴッホがどのような人物か全く知らないまま、初めてこの絵を見た時でさえこの絵から放射される死と狂気には圧倒されました。言葉にするとどうにも安っぽいですが。じっと見ていると、見ている自分自身が死を決意しているような気になって来るので恐いです。

ブノワ・マンデルブロ

作家ではありませんが、フラクタル図形は僕にとっては作品のようなものなので。拡大し続けるマンデルブロ集合図形を眺めてモヤッとした気分になるのが大好きです。PCやiPadのようなグラフィックを表示できるガジェットを買うと、まずマンデルブロ集合図形を表示するフリーウェアを探します。無機的なものと有機的なものが混じり合う感じや、繰り返され、輪になっているようで繰り返しではない、というその概念を頭の中で転がしているだけでいくらでも時間がつぶせます。

安倍吉俊さん

71年生まれ。漫画家。イラストレーター。東京芸術大学修士課程修了。代表作に『灰羽連盟』『ニアアンダーセブン』『リューシカ・リューシカ』などがある。自他共に認めるデジタルガジェットマニアだが、初期不良を引き当てる特異体質の持ち主でもある。

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