テーマ 一生に一度は行ってみたい国と地域の「ガイドブック」
過去のレギュラーセレクター 乙一さん
2011.04.05
以前は海外旅行にまったく興味がわかなかったんですよ。自宅にいるのが大好きですから。海外なんて、危険な目にあいそうじゃないですか。英語も僕はちっともできないんです。だけど、仕事の関係でいろいろな国に出かけてかんがえをあらためました。海外に行って、その地面に立つというのは、衝撃的な体験でした。はじめて行った海外旅行で、韓国と北朝鮮の軍事境界線に行ったんですよ。あの殺伐とした空気、素敵でしたよ。ほかの国に出かけることで、日本という国がようやく見えてくるような気がしました。ここでは『地球の歩き方』と『ことりっぷ』しか挙げてませんが、もっといろんな種類のガイドブックを挙げた方がよかったですかね。まあいいか。
ロシア
なぜロシアに行ってみたいのかというと、タルコフスキーさんのファンだからですよ。映画監督のアンドレイ・タルコフスキーが生まれ育ち、映画を撮り、亡命した後も故郷への念をわすれなかったという、ロシアの大地を踏まなくてはいけないような気がするのです。それから、タルコフスキー作品ではないけど、映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』も大好きなんです。あの映画の中程で登場したもうれつにすごい並木の通りとか観てみたいです。かつて社会主義国だった名残みたいなものを感じ取って、カルチャーショックを受けるとおもうんですよ。映画の撮影場所をメインに構成したガイドブックとか、ないものでしょうか。
ポーランド
数年前、仕事の関係でポーランドに行ったことがあるんです。いくつかの町を渡り歩いたのですが、そのときに行けなかった場所があるんです。それはアウシュヴィッツです。強制収容所に行けなかったんです。第二次世界大戦で、大勢が虐殺された土地ですよ。地球上をさがしても、これだけすごい負の遺産はほかにないでしょう。地獄にもっともちかい場所なんじゃないですかね。テレビや映画でその場所は何度も観たし、知識としてはあるけれどまだそこの空気をリアルにしらないわけです。いつの日かそこに行ってみるべきだとおもっています。その場所に立ったとき、はたしてどのような感情が渦巻くのか、興味があります。あと、『ことりっぷ』のアウシュヴィッツ編とか読んでみたいです。
フランス
パリのルーヴル美術館に行ってみたいです。そこにはモナ・リザがいますから。だってあのモナ・リザですよ。世界で一番有名な女性がそこにいるんです。死ぬまでにその本物を観てみたいのです。自分が死んだ後、いつまでも人類が所有し、守り続ける人なんです。ほかにも、岩窟の聖母やら、洗礼者ヨハネやら、ミロのヴィーナスやら、有名人がみんなそこにいるじゃないですか。「ルーヴル美術館に行ったことあります」という人に何度か会ったことあるのですが、ものすごい嫉妬を抱きます。嫉妬!
イタリア
食事がおいしそうだし、いろんな名所があって、たのしそうです。イタリアで本場のパスタやらピザやらを食べまくりたいです。特にローマは気になります。『ローマの休日』に登場した場所に足をはこんでみたいです。コロッセオとか、いろんな映画に登場するじゃないですか。ほかにも『ジャンパー』とか。そこに足をはこんでおけば、見覚えのある場所が映画に登場してもりあがるはずですよ。ポーランドのアウシュヴィッツなんかは、自分にショックをあたえるために行きたいのですが、イタリアは純粋に食事や観光をたのしみに行きたいです。
スペイン
サグラダ・ファミリアを観てみたいんです。バルセロナに建設中のあれですよ。ガウディが設計した例の。造り始めて百年以上も経過しているのに、まだ完成してないというのは、馬鹿みたいにすごいですよ。圧倒的でとんでもない建築物ですよ。この前、教会が市に建築許可を受けていないことが判明したらしいですよ。そうなんです。なんとサグラダ・ファミリアは違法建築だったんですよ! これは死ぬまでに観ておかなくちゃいけないです。それに、スペインと言えば、映画『ミツバチのささやき』を生んだ国ではないですか。聖地ですよ、聖地!
乙一さん
78年生まれ。小説家。96年、栗本薫らの推挙を受けた『夏と花火と私の死体』で鮮烈なデビューを飾り、03年の『GOTHリストカット事件』で本格ミステリ大賞を受賞、人気を不動のものとする。
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