テーマ 生まれ変わったらこの国の人になりたい!?
レギュラーセレクター 金曜日 森田季節さん
2011.09.30
飛行機に乗るのが怖いのです。地面に引っついていないという、その事実に頭がくらくらするのです。なので、移動はもっぱら鉄道です。線路は有名な歌のように果てしなく続くわけではないですが、それなりに続きます。そういえば、海より圧倒的に山が好きなのですが、そのへんも地に足がついていてほしいと思うことと関係あるのかもしれないです。しかも、山にはフナムシいないし。
吉永さん家のガーゴイル田口仙年堂
曲がりなりにも社会人をしていると、一般的な正義を守ってもらうかどうかで、周囲の人が楽に生きられるか、それともしんどくなるか、はっきり変わるものだなと思う時があります。そんな大層なものではなく、本当にちょっとしたことなんですけど。田口さんの描く町内では、最近なおざりにされてる正義というものが貫徹されていまして、すごく心地よく感じます。そして、それは現実と比べると、異国ぐらい隔たっている気がするわけです。引っ越したい。
インド怪人紀行ゲッツ板谷
異文化との出会いって、きれいごとで表現できるようなことじゃなくて、人と人との容赦ないぶつかりあい、せめぎあいだよねってことを、このシリーズは強烈に印象付けてくれるのですが、なかでもこれが一番濃い。異文化理解に役立つのか異文化誤解に役立つのかわかりませんが、殴られたような読後感があります。それと、不気味なまでの潔さ。テレビの編集術に慣れていると、どうせ最後はみんな仲良く平和に終わるんだろとタカをくくってしまうのですが、そんな常識は一切通用しません。たしかに旅が人を成長させるなんて決まりはなくて、ダメなほうに変化させることだってあるわけですよね。それが生々しく描写されております。
『アメリカン・コミュニティ――国家と個人が交差する場所』渡辺靖
自分でも気をつけないといけないと思うのですが、アメリカと言われるとほとんど知りもしないのに勝手なアメリカ観を頭に描いてしまう。でも、あんだけ広い国なんだから、いろんな集団がいるんですよね。日本だって子供二人の共働き家族と、山にこもって修行している集団と、暴力団の内部とでは絶対違う生活があり、違う常識があるはずなんですが、外国を見る時、そういう違いを忘れちゃうわけです。本書は基本的に紹介にとどまっていますが、アメリカの多様な集団を教えてくれる面白い手引きです。
森田季節さん
84年生まれ。作家。2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(MF文庫J)でデビュー。他の作品に『ともだち同盟』(角川書店)、『不動カリンは一切動ぜず』(ハヤカワ文庫JA)、『お前のご奉仕はその程度か?』(GA文庫)などがある。今最も注目される新鋭の一人。書き下ろし新作『エトランゼのすべて』は星海社FICTIONSより好評発売中。
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