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テーマ 気分が落ち込んだときにはコイツが必要だ……

過去のレギュラーセレクター

基本的に僕は落ち込んだりしないようにしている。傷口を弄って遊んでもなにもよいことがないからだ。それでも……というくらいのダメージがあったときは「もの作り」が良い。絵を描くとか、作曲をするとか。企画を書いたり、提案書を書いたりするのでもよい。なにかを考えたり、作ったりして忘れてしまう。気分転換という意味ではビートルズ。それに加えて、心の奥に響く2つの漫画を挙げた。

モモおーなり由子

僕の中には「女の子」が住んでいる。気持ち悪い出だしで申し訳ない。その女の子は、いつもは表には出てこないが、心の奥に住んでいて、ちょっとしたとき、たまに顔を出す。1人でいるとき、雨のときや、気持ちの良い朝。季節の変わり目や、しんとした夜。その女の子の愛読書が、おーなりさんの作品であり、おーなりさんの作品を読めば、いつでもその子は顔を出してくる。彼女の作品は、どれも好きでたまらないが、僕が、唯一持っているサイン本ということで、この作品を挙げた。ちなみに自筆で描かれたイラストの違いで3冊も持っている。

アンソロジー2ビートルズ

落ち込んだらビートルズと決めている。よく、落ち込んだら故郷へ帰省する人がいるが、僕にとって、それと同じ効果があるのだと思う。僕の音楽のスタート地点。そこに帰る道程で、なにかを発見したり、思い出したりして、少しずつ元気になるのだと思う。もちろん、そもそもビートルズの音楽が持つ、ポジティブな力、視点の高さというのは素晴らしいので、そこに身を委ねるだけで姿勢がよくなるのだ。ビートルズの作品はどれも好きだが、調子が悪いときはこのアンソロジー2を聴くことが多い。理由? 知らない。

団地ともお小田扉

架空の団地を舞台にした、小学4年生の主人公ともおと、その周囲の人々による日常漫画。子どもの日々、あの頃を思い出す、ノスタルジーな漫画だと思って読むとそうではない。どこかの時代の、どこかの場所にある物語に見えて、どこにもない世界。大人が読む現代のファンタジー。大笑いすることも、涙を流すこともないが、くすっと笑えて、じんわりくる。そして考えさせられる。夕陽に照らされる錆びたブランコの良さが説明できないように、理由がわからないまま惹かれ続ける。はっきり言うが、いま現在、最も好きな漫画である。

ReasonPropellerhead

落ち込んだときは創作に限る。人によっては絵を描くことだろうし、人によっては料理を作ることだろう。そして、僕にとって、それは音楽制作だ。以前はデジタルパフォーマーというソフトが、マイ音楽制作ソフトだったが、とある理由からこのソフトを使うことになり、いつの間にかメインソフトになってしまった。最近では、ミックス以前はすべてこのソフトで作っている。なんの準備もいらず、鍵盤だけ繋げて、立ち上げればいつでも制作スタート。こんな素晴らしいソフトウェアが数万円で買えるんだから、凄い時代だと思う。

Ableton LiveAbleton

上に挙げた「Reasonで音楽制作」という元気もないときは、音で「遊ぶ」ことにしている。そのときは、このAbleton社の「Live」だ。音を弄って混ぜて弄って混ぜて弄って混ぜて。あるときは狙って。あるときは偶然に。素晴らしい奇跡が起きたり、クリエイティブが爆発する瞬間が楽しい。音楽というのは、こんなにも自由で、こんなにも可能性がある、ということをいつも気付かせてくれる、素晴らしいソフトウェア。子どもの頃、友達と2人で、雑誌や空き缶、テーブルを叩いてセッション遊びした、その喜びと近いものまでがここにある。

飯野賢治さん

70年生まれ。クリエイター。95年、ゲーム制作会社ワープを率い『Dの食卓』を発表、ゲーム界の風雲児となる。その後、『エネミー・ゼロ』『風のリグレット』などを発表。現在に続くクリエイターオリエンテッドなゲーム製作者の先駆けとなった。

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