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テーマ 僕が選ぶ、僕の「代表作」

レギュラーセレクター 曜日

編集者が「代表作」を選ぶというのも変な話なのだけれど、もう乗りかかった船なので! しかし僕の場合は編集者としての活動があまりにも多方面に渡るのでセレクトが本当に難しい。結局は王道作品しか選べなかった……。次は“裏”代表作を選びたい。

『ファウスト』Vol.4講談社

自分の企画で好きなものを挙げろと問われたとき、真っ先に挙げることができるのが、この『ファウスト』Vol.4で行った「文芸合宿」。乙一、北山猛邦、佐藤友哉、滝本竜彦、西尾維新を沖縄のシーズンオフのリゾートホテルに三泊四日拉致監禁して、短編とリレー小説を執筆していただいた。イラストは舞城王太郎。写真は小林紀晴。批評は東浩紀。完璧。たいていの企画は過ぎてしまえばどうでもよくなる僕だけれど、この企画だけは特別かもしれない。小説ならではの“ライブ”がここにある。

好き好き大好き超愛してる。舞城王太郎

僕が大好きな作品、「好き好き大好き超愛してる。」と「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」を収録。コンセプトは、未来のハードカバーを創ろう、というもの。カラーの見返し、本文の途中で挿入されるカラーイラスト・ギャラリー。二つの作品で異なるフォントディレクション……。僕はハードカバーでは、未だにこの本を超える本を創れていないのではないだろうか。

クリスマス・テロル佐藤友哉

この『クリスマス・テロル』の原稿を、僕は北海道の空港で、著者の佐藤友哉の目の前で読了した。刊行した本は、その原稿から、一言一句変更していない。真冬の北海道なみに心温まるこのエピソードは僕の編集者としてのささやかな誇りでもあるし、二度と見たくない悪夢でもある。

クビキリサイクル西尾維新

講談社ノベルス編集部時代、一貫して講談社ノベルスの枠を壊す編集者的運動を続けてきたと言える僕ではあるが、結局はその運動は完璧に成功した失敗だった。保守があってこそ革新は生きるのであって、秩序に対する反抗運動と、単なる無秩序は全く異なる存在だ。しかし、この一冊が上梓された時点では、僕たちの反抗運動は1956年のキューバ革命軍なみに美しかった、と信じたい。

ハッピーエンドジョージ朝倉

ほとんど無名だった時代の、その最後の季節にジョージ朝倉が挑んだ「300ページ一挙描き下ろし」漫画。編集者は「大塚英志」。このふたつの無茶を通した結果、企画が通った。装丁はジェニアロイドの小林満。この文章を読んでいるあなたがまだ若すぎるくらい若い人ならば、20代も半ばを過ぎたあたりで、自分の中で何かがひとつ(ふたつ)、確実に“終わった”と感じたときにこそ読んでみて欲しい。上梓からもう10年ちかく経つけれど、今でもたぶん、いや確実に、『ハッピーエンド』は、ジョージ朝倉という漫画家の裏ベストワン作品だと思う。彼女にはいつか小説を書いてもらいたい。

太田克史さん

72年生まれ。編集者。95年講談社入社。03年に闘うイラストーリー・ノベルスマガジン『ファウスト』を創刊。舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新らをデビュー当時から担当する。10年、未来の出版社を目指し星海社を設立。代表取締役副社長に就任する。

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